あっはっは!と心の底から愉しげな声が背後から鼓膜を揺さぶる。愉しむ余裕があるならもう少し風通しを良くしてくれないかな、なんて思ったその一瞬、目の前にいたエネミーの脳天に風穴が空く。今度は口笛が聞こえた。冷たい鉄の塊が相手の身体に穴を開けていくのを見て背筋が凍るのを感じる。自分も生前同じモノを身体に受けたことがある。手に取ってみれば小さな温度のない鉄の塊でしかないのに、銃に装填して一発、軽快な音を鳴らせばたちまち凶器に早変わり。その弾丸一つで敵の命を簡単に奪えてしまう代物。自分は命までは奪われなかったものの激痛等を与えられたし、副長に至っては死因のひとつとなったものだ。刀を振り回す時代で生きた自分には全く縁がなく、かついい思いをしないモノ。
自分が見て、知ったモノとは微かに形や仕組みが異なる物だが同じモノに分類されるその得物を軽快に撃ち鳴らす彼。弓兵のクラスでありながら、遠距離攻撃が得意という訳でもなく、必要であれば敵に接近することもある。それは彼の扱う武器の射程が短いものだからだろうか。
「ほら、ぼさっとしてないでさっさと殺っちゃってよ。僕がいくら撃ったところで敵さんの数はあまり減ってないみたいだし?」
「…えー。数減ってないとかきっついって。」
ぱん、ぱんという軽い音ともに背後からの声に促されて左手に握っていたものを改めて握り直す。そして、一閃。目の前にいたエネミーを一刀両断した。流れるままに一体、二体、三体と右手でも刀を抜いて振り切る。血飛沫が飛び散って足元から水音が聞こえた。自分が数体切り伏せている間にその二倍程度の数のエネミーに穴を空けていた。
ふ、と頭上に影が落ちた。弾かれた様に顔を上げると巨大なエネミー。「そこから離れろ!スプリガンだ!」背後から怒鳴られて慌てて数歩左側に避けた。数発の銃声、のち、銃弾が固い装甲に弾かれた音。その僅かな音が鳴ったすぐ後にスプリガンの足元に潜り、すり抜けながら五回、刀を振る。自分の攻撃はスプリガンの身体を僅かに傾けさせたのみで有効打を与えた訳ではなかったようだ。その結果に思わず舌打ちをする。そんな自分とは対照的にビリーは軽く肩を竦めて見せただけだった。
「マスターちゃんを逃がすために殿を引き受けたはいいけどこんなのが出てくるなんて。とんだ貧乏クジ引いちゃったねぇ。」
「とは言うけど嫌そうには全然見えないんだけど?」
刀に付いた血を振り落としながら溜め息を吐いたが彼はけらけらと笑うだけであっさりと一蹴されてしまう。ビリー・ザ・キッドというアメリカの英霊。アウトローという自分たちにとっては尊王攘夷派志士のような立ち位置で名を馳せ、若くして亡くなったと聞いている。若くして亡くなったと聞くとどうしても沖田ちゃんや泣きみそ以蔵のような人物を連想してしまうのだが。彼はあの二人とはまた違った印象を受けた。皮肉が上手く、飄々とした人物。どちらかというと自分のような、後世に語られた自分に近しい印象を受ける。長生きできそうだとは思うのだが、聖杯からの知識によると友人に裏切られての死だったようで。そういうものか、漠然と思った。
「そういや前にマスターが言ってたんだけどさ。」
「え?」
「僕と君って結構似てるみたいなんだけどどう思う?」
どう思う、とは。
「皮肉屋でのらりくらりと躱す、飄々としてて掴み処がない。」
ビリーが再び笑う。彼の笑いのツボがよく分からなくて苦笑いを返した。自分がこのカルデアに召喚されてまだ日が浅いが、ビリーに関してはノウムカルデア以前から召喚されていた英霊だということと、意外と僕らのことを見ているマスターのことだ。きっと似た空気でもあるのだろう。ただ、自分的には似てはいないが遠くもない、と思った。性格は概ね近いだろうが何よりも生き方が違いすぎる。悪として若くしてその生涯を閉じた彼と自分ではとてもとても。
「ま、マスターが僕らのどこをどう見てそう判断したのか僕には分からないけれど。一個だけ共通していることならあると思うよ。」
目配せ。スプリガンの攻撃を避けていたら何時の間にか隣に立っていた彼の有する魔力の高まりにやろうとしていることを察した。彼がひゅう、と口笛を鳴らして銃を構えた。急上昇する魔力。ビリーが口を開く、その前に一目散に駆け出す。目指すはスプリガンの足元へ。駆けながら自分自身にも魔力を集め、宝具を展開できるだけの分を溜め込む。
「さぁ早撃ち勝負だ。先に抜いてもいいよ?僕の方が速いから。ファイア……!!」
ビリーの詠唱が耳に届いたのと同時に鳴り響く三発の銃声。左腕、腹部、左脚の三ヶ所に命中して穴を開けたその宝具、『壊音の霹靂(サンダラー)』により、スプリガンが完全に体制を崩した。ぐるりと傾くその巨体に向けて大きく足を一歩踏み出す。と同時に左手で刀を抜く。息を整えて一振り、二振り、三振り。そして、最後にもうまた一振り。
「…やれやれ…んじゃ、ま…いくぜいくぜいくぜいくぜ!これで、終わりだ!」
____形無きが故に無形。流れるが故に無限。故に我が剣は無敵。
今度の刃は強靭な装甲に阻まれることなく、その巨体を切り裂いた。崩れ落ちる巨体の欠片から身を翻してビリーのもとへ戻る。後方で弾丸を放っていた彼に傷らしい傷は一つもなく。前線で数多の敵を切り伏せ、戦場を縦横無尽に駆け巡った自分には返り血と幾つかの傷。とはいえ深手になるような傷は作らない。ソレを分かっていたのかビリーが「マスターと合流するよ」と踵を返す。
『秩序・中庸』を謳う自分と『混沌・中庸』を謳う彼では生き方も性格も近しいものはあれど色々なものが根本的に違う。新撰組に警察という組織に所属して大往生した自分と組織に所属せず一人で生きて裏切られ殺され、短い生涯を閉じた男。知名度も含め違うものの方が多いのに、ここカルデアに召喚されて戦場を共にしている方が不思議な程に。ただ、そんな自分たちに『サーヴァントであること』以外に共通点を見出すならそれは。
「マスター、何とか帰ったよー。」
ビリーがひらひらと手を振れば青い瞳が信じられないとばかりに真ん丸に見開かれた。マスターはともかく、背後にいる他の仲間たちも信じられないといった顔をしているのはいかがなものかと思う。そして僕らのマスターが笑う。
「本当にビリーもはじめちゃんも生き汚いよね!」
「はじめちゃんはやめろっつーの。っていうかそれ褒めてる?」
本当に『生き汚い』。この一言に尽きるのだ。ビリーと二人、顔を見合わせて笑った。