負けず嫌い 
 スイッチを長押しするとディスプレイが明るくなりログイン音が鳴る。くだらない、とでも言いたげな表情で知念はポータブルゲーム機を見ながらソファへと横になる。今日のノルマを淡々と頭の中で復唱し、すべてクリアしたことを確認する。言葉には出さず喉の奥で「タスククリア」と呟いた。NEW GAMEを選択しMIYAと名前を入力した。するとアバターの選択画面が現れる。迷うことなく選択を重ねる。猫に近い服装や装飾を施したデザイン、それ以外は自分とほとんど同じ容姿のパーツを選ぶ。「アバター、こんな細かく作れなくてもいいんだけどな」むしろ、あまり主人公の容姿に感情移入できなかった頃のほうがよかった。と知念は同タイトルのバックナンバーに思いを馳せた。過保護な両親は自分が生まれる前に発売されたゲーム機本体も、ソフトも「欲しがるなら」と嬉々と与えてくれるような人たちだった。
 世界観の説明を聞くのはこのソフトでは二回目。昨日の夜、セーブデータを削除したためだ。からっぽになったコンティニューはスカッとして気持ちがいい。全てのことが二巡目。特にこのシリーズはストーリが終わってからが本番のモンスター育成ゲームだ。終わりがないからやりこんでやりこんで、場を整えた上で削除する。
 この、削除する瞬間のために時間を消費し、丹精込めて丁寧にピクセルと向き合う。よかったね。主人公もその仲間たちもこれで解放されれる。僕の詰んでしまった人間関係の腹いせに。「詰んでない。詰んでなんかない」そう、自分に言い聞かせるように知念は今度は空気を震わせ声を出した。この現状を、「詰み」以外でどう表現したらいいかわからないことは、腹の深い部分では分かっているのに。
 二人を見ていると心が歪な形になるのが手に取るようにわかった。知念のパーティは「MIYA」とスケートボード。一方で先日対戦を突き付けた相手は二人と各々スケートボード。二対四。数字だけでは知念は引けを取るがレースを行うのは一対一。知念のパラメータは馳河のものよりずっと高い水準である。
「勝ったところで、レベルアップできるのかな」
 誰も自分の相手をしないクラスメイト。ちやほやと能力に群がる大人。ほしいものは、大人の方じゃない。「上がったところで」そこで指を止め黒板を見遣る。私立中学は育ちのいい、体面的には礼儀のいい生徒ばかりだ。前に座る生徒は知念に背を向け板書に専念し、後ろの生徒は知念の背を通り越した黒板を見ながら板書をする。生徒を見ているようで認識はしていない教師が金銭と交換に自分の持つ時間を授業へとあてる。知念はカウントを始める。教養のパラメータの伸びる音。場を整えている最中の音。
 もし隣に、自分を気にかけてくれる相手がいればどうなんだろう。また、あの二人を思い出してしまう。Sの中で楽しそうに、知念になら目をつむってでも出来るようなトリックの練習をしていた。二人が同じ学校にいたなら、きっと授業関係なしにスケートボードの話を耳打ちしたりするのだろうか。一人で歩く移動教室も、憧れるスケーターの話で盛り上がったりするのだろうか。知念実也にも会話のはずみで触れることもあるのだろうか。ウェストミンスターの鐘がスピーカーから流れ出る。この曲にもしスケートボードでトリックを乗せるなら―耳からの情報を即座にスケートボードへと転換している自分に嫌気がさし、現実へと引き戻された。心の中が、痛いくらいに、むなしい。
 
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向き
初公開日: 2021年01月26日
最終更新日: 2021年01月26日
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koko
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