文字を目で追っていく。最中頭の中に浮かび上がる情景に、ふっと笑いになり損ねた息が漏れた。
 ただ流れるように文字を追う。そうしていれば頭の中の子達も自由に動き回っていくから。自然と笑顔になっていた。
 あと数ページ。ふと気づいた事実に寂しさを覚える。彼らの姿を見れるのは、今はここまでか。そんな事実に泣きたくなるけれどまた出会えばいい話。少しだけずずっと鼻をすすった。
 指で最後のページをめくれば、ちょうど物語は幕を下ろした。頭の中の彼らは幸せそうに笑っている。その姿に、出てきそうだった涙も自然と出なくて、ただただ幸せそうな姿に鼻をすすりながらも笑った。そんな私の様子を見た彼らがお礼の言葉を言ってくれるから。私も同じように返して本を閉じた。
 途端に見える灰色の世界に、少しだけ憂鬱なため息が漏れるけれど、そんなものには無視をして。時計を見れば寝る時間から30分も過ぎていたから慌てて寝る準備を進めてベッドに寝転がった。
 外から聞こえる自然の声に聞かぬ振りをして目を閉じる。現実だけは見たくない一心で。そしてどうか長く眠れることを願って。
 ***
 私の家は呪術師の家系だ。この世には呪いという恐ろしい存在がいて、私はそれを祓うため日々勉強をしている。
 祓うためには自身が使える術式というものを使わなくてはいけない。けれど、私はこれがどうも苦手だ。というより、呪いを祓うこと自体も。
 呪いというものは、主に非術師のマイナスな感情、負の感情から生み出る。それは恨み妬み嫉み、恐怖悲しみ辛さ。そんな様々な負の感情と言われるものが集まりに集まったのが呪いというものだ。それを私達呪術師は命を懸けて祓っていく。それぞれ色々なものを抱えながら。時には死という代償を持って、呪いを祓っていく。
 私は別に呪術師が嫌いという訳では無い。そういう存在には憧れてきたし、大勢に賞賛されなかったとしても自己満足に人を助けられたならそれでいい。例え死んでしまったとしても。私は満足に死ねると思う。
 けれどだからと言って呪いを祓うのが得意かと言われればそれはNOだ。いつまで経っても慣れないし、しんどくなってしまうとポロポロと涙が溢れてしまう。それによって呪いを何段階も早く祓えたとしても。そのせいで2級呪術師まで登り詰めても。慣れないし、苦手なことには変わりない。
 この業界は常に人手不足。逃げることなんてできない。だから私は授業が終わると学校の敷地内にある自身の部屋にこもり、インゼリーを片手に本を読み進める。その時間だけが私の救いで、その時間さえあれば私は生きていける。本の中では無敵なんだろうな、なんて。鼻歌を漏らしながら。読み終わったら明日また来る地獄に身を震わせながら。
 ***
 教室、1番窓際の席で窓の外を見る。相も変わらずここは山の中にあるから自然が多い。今は春だからまだそんなに虫は出ないけどでも出たら大変なんだろうなぁ。そんなことを思いながら教室の外を見ていると隣の席からカタンと誰かが座る音がする。伏黒恵君だ。少しだけ自分の顔が強張る気配がしたけれど、そんなものには無視をしてなおも教室の外を見続ける。じーっとなんとなく視線を感じたけれど、それも一瞬のこと。すぐに外れた気配がした。ほっと息を少しだけ吐いて最強である先生が来るまで外を見続けた。
「やっほー、恵に朔乃」
「……はあ」
「…………おはようございます」
 か細い声が聞こえたのか五条先生がこちらを見た気がしたけれど、それも無視をする。というより少し怖くて下を見続けていた。
「はーい、じゃあまあ一応授業始めるか」
 始まるいつも通りの授業に気を引き締める。ボロを出さないように。迷惑をかけないように。
 唇はいつの間にか引き結ばれていた。
 ***
 同級生である伏黒君や先輩方である禅院先輩達、ほかにも学長先生や五条先生などの先生方との関係は良好ではない。相手が私に対してどう思っているかは知らないしわからないけれど、少なくとも私からは基本話しかけず関わりもあまり持てていない。それがよくないことは数多の小説を読んできて知っているけれど、でもだからと言って改善されるかといえばそんなことはない。というよりできる気がしない。私に勇気がないのはもちろんのことだし、心臓に悪いけれど干渉されない今の生活に慣れてしまったというのもある。だから今の私にこの生活を変えようという気はさらさらない。人と関わらないように生きるのが私にとって楽でもあるから。……そっちの方が息がしやすいから。だから痛む心に、何かを叫ぶ心には無視をさせてもらった。
 ***
 相も変わらず日々は過ぎる。特に何か変わったこともなく、毎日のように呪霊を祓って授業を受けて部屋に戻ってインゼリーを片手に本を読み進める。そんな何も変わらない日常は唐突に崩れ落ちる。両面宿儺という呪いの王とまで呼ばれる者の器になった男の子が教室にやってきたから。
 それはなんでもない日だった。伏黒君は五条先生に言われ仙台まで出張で、五条先生は後から追っかけていくように向かっていった。誰も授業する先生がいなくなったからいつものように任務を言い渡され呪霊を祓う。それから帰りいつものように本を読もうとしていたところ。コンコンと鳴るノックに首を傾げる。誰だろう。私の部屋に来るなんて、よっぽど緊急事態なのだろうか。そう思いつつ「はい」か細い声で喉を鳴らして部屋の扉を開けるとそこには禅院先輩がいた。禅院真希先輩。緑色の綺麗な髪をポニーテールにしている、眼鏡をかけた一つ上の女の先輩。生徒内では唯一私と同じ性別で、だけど私にとってみれば関わりづらい人。実力がきっとあって、だからこそはっきりと物を言うのだろう。私にはできないそんな姿が、私には到底辿り着くことのできないその姿が。私は、苦手なのかもしれない。同族嫌悪ならぬ他族嫌悪みたいな。よくはわからないけれど。でも苦手だ。
「な、なんでしょうか……」
「アイツから出して来いって言われたから」
「アイツって……五条先生ですか……?」
「そうだ。用があっても来いって。なにやら新入生歓迎会とやらをするらしい」
「わっかりました……えっと、」
「準備するからちょっと待ってろって伝えとく」
「お、おねがいします……」
「じゃ」
 そう言うと禅院先輩は去っていった。思ったよりもあっさりした対応に驚いたけれど、すぐに違う方向へと思考が飛んだ。これから新入生歓迎会とやらをするらしい。その為には準備をしないといけないわけで……
「……服!」
 もうこれ以上外に出ることはないと思って服を部屋着に着替えていたことを今更思い出す。あ、だからあの時準備するからって言ったんだ……遅く気付いた気遣いに直接言う勇気などないから心の中でお礼を言ってから服を着替え始めた。
 ***
「は、はじめまして……」
「あ、初めまして。俺、虎杖悠仁!」
「浅原朔乃です。よろしくお願いします……」
「ああ、よろしく!」
 にかっと人の良さそうな笑みを見せて彼――虎杖悠仁は挨拶をする。そんなまるで太陽のような存在に気圧されそうになりながらも差し出された手に恐る恐る手を持っていって少しだけきゅっと握れば、彼はまた笑った。よく笑う人だなと思う。伏黒君みたいに素っ気なくもなくて、五条先生みたいに胡散臭そうな訳でもない。そんな純真無垢のように感じるその姿は、けれど私にとってみれば何よりも怖い存在だった。
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【呪術夢】昔に書いたものの続きを書く。
初公開日: 2021年01月19日
最終更新日: 2021年01月19日
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コメント
途中まで書いたものの続きを書きたいのですが、なかなか完成しないのでサイトには出せない。あ、じゃあ過程を映すか!!という感じで始めます。別の方からコピペしたものを張り付けてから書き始めるのですが、ダメなことでしたら優しく教えてやってください。
【お試し】とりあえず書きたいもの一つ
初めてやるので試しながらやります。なので文字書いているだけじゃないかも。眠くなったら落ちます。
市之瀬 春夏
【二次創作】
眠れないから書きます。二次創作かな。ジャンルは未定。降りてきたら書きます。
市之瀬 春夏
20 校正!
毒薬を処分。逃げる そしてチャーリーたち到着。
ありま氷炎
【ウォルダン】柚の香 ★
宇宙海賊ANIMAS所属の、ウォルとダンが可愛い賭けをする話(えすり劇中劇)
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