ねえ、今日はどんなライブする?
アイドルじゃなかったわたしたちがアイドルになってから、すっかりお決まりになった会話。学校、放課後、お泊り。そんないつもの日常に、『アイドル』が溶け込むようになってからのこと。スイーツを食べたり、端のほうにあるレトロなゲームセンターで遊んで帰ったり、もちろんそういう日もあるけれど、やっぱりライブがしたくてずっとプリパラに通っている。
「ねえ、どうする? グランプリ」
最近、専らそんなわたしたちの中で話題に上がるようになったのが『プリンセスグランプリ』。あの後詳しい情報もたくさん出てきて、わたしたちだけでなくプリパラ全体もこの話題で持ちきりだった。
「一人から三人でエントリーすること、曲やコーデは自由、優勝したチームにはプリンセスの称号と特別なコーデが与えられる......んだっけ」
「やっぱりゆぅりんはやってみたいのです! メィルとしぐと一緒に優勝したいのです!」
時雨もだいぶグランプリのことを気にしてるのは間違いないし、雪凛はこの話が出たときから出場したいと言っていた。
「ねえ、メィルはどう? グランプリ」
「わたし、わたしは......」
思わず黙り込んでしまう。もちろん、二人と一緒に出たい、けれど。
今までこういうのを決めるときは、雪凛がいつも決めて、引っ張っていってくれていたから。MRSでなにかに出ようという時も、いつも。そもそもわたしがMRSになったのも、雪凛がわたしと時雨をここまで引っ張ってきてくれたから。物理的にも精神的にも。わたしはそれに従っているだけで、でももちろん嫌なんかじゃなくて。だからこそ、自分が出たいか、どうしたいかなんて考えたことがなかった。
「大きな大会だから、やっぱり三人で話し合わないとって思って。今までやってきたけど、あんまりメィルの意見聞けてなかったでしょ」
「メィル、グランプリ出たいのです?」
わたしが決めなきゃいけないのなんてはじめて。わたしのやりたいことは二人のやりたいことで、二人のやりたいことがわたしのやりたいこと。だからいままでもずっとそうしてきた。二人についていくだけで、わたしは本当に楽しかったから。
「......ちょっと、考えてみてもいいかな」
「もちろん。ゆっくり、メィルの中で答えを出して」
わたしのやりたいこと、ってなんだろう。
いままで、自分がしたいことをできたことはなかった。いつもどこかで挫折して、失敗して。お勉強も、友達も、ファッションも、思い通りに行ったことはほとんどない。
『そんな服着て、どこへ行くんだ。買ってやったものがあるだろう』
『そこまで悪趣味なやつに生んでやった覚えはないがな』
気づけば、ぐ、と唇に力が入っていたのに気づく。好きな服を好きなように着られるようになったのも、つい最近の話。きっかけとしてもだいぶ情けなくて、そう言ってくる人がいなくなったから。わたしが何を変えられたというわけでもなく、突き通そうと思えたわけでもない。お母さんはずっとわたしのことを応援してくれていたけれど、わたしはどうしても自分の意志でかわいい服を着たり、そういうことができなくて。友達からも変な子だと思われたし、お勉強だって頑張ってようやく人並みだった。気づけば勉強ばっかりしている子、になっていた。
「......グランプリ、どうしよう」
「ねぇ、ねぇメィル」
「......」
「メィル、最近元気ないのです?」
「......え、あ、雪凛......ごめんね」
昼下がりの教室、今日も家でお母さんと詰めてきたお弁当をなんとなく食べて、もう少し時間があると思ってぼんやりしていた。もしかして、何度も話しかけてくれていたのだろうか。全く気づかなかった。
「保健室とか、もし行くなら先生に伝えておくのです」
「う、ううん、大丈夫。ちゃんと元気だから」
自分でも明らか元気とは言えない声色だったが、まさかこのことで彼女を心配させるわけにもいかなかった。今日もきっと三人でプリパラに行くだろう。その前に、あらかた自分の中で考えを固めておかなきゃ、そう思っていた。ただ週末まで使って考えても、自分の中で結論は出なかった。
もしかしたら、決めるのが怖いのかもしれない。これ以上自分の選択が間違っていると思い知らされるのも、なにもかも。決められるでも決められないでもなく、ただ臆病なだけ。わたしの気持ちは関係なくて、だからこそ、二人が引っ張ってくれることに安心していた。
......ねぇ、わたしどうしたらいいかな、お母さん。
今日も変わらず青空のプリパラの中を、それぞれバラバラな足音を立てて闊歩していく。いつ話を切り出されるのか、いっそわたしが切り出すか。
「急かしてるわけじゃないんだけどね。メィル、この前のこと」
答えはすぐに出た。今この瞬間。
「グランプリ、嫌ならいいのよ。多少ゆっくりする時間があっても、レベルアップに充てることだってできるんだし」
「いや、じゃないよ」
口をついて言葉が出た。二人と一緒になにかできるなら、それほど幸せなこともない、と思う、けれど。
「こわいの、でも」
「わたしがなにか決めて、考えたら......もしかしたらわたしのせいで、グランプリで勝てなくなったりするかもしれない」
もしそうなったら、二人に迷惑をかけてしまう。今までの誰にも、何にもと同じように。
「」
「......メィル、失敗ばっかりなんかじゃないのだよ」
「......え」
思わず声が漏れる。雪凛はわたしのことを見つめていた。いつもの満面の笑顔とはちょっと違う、優しい笑顔。
「ゆぅりんが学校に行けなかったときにメィルがノートを届けてくれたの、覚えてるのだよ」
「あの時メィルがゆぅりんと話そうとしてくれたから、今ゆぅりんは毎日楽しいのだよ!」
「ワタシも、メィルと一緒だったから続けられてるんだと思うわ。アイドル」
「メィル、なにも間違ってなんかないのだよ!」
わたしが誰かの、ためになった。
「決めてほしい、メィルに」
わたし。
「......わたし、出てみたい。グランプリ」
「二人と一緒に、勝ちたい......!」
「ゆきりんさん、メィルさん、しぐれさんの三人でのエントリーですね! チーム名は『MRS』のままになります!」
「めが姉ぇさん、ありがとうなのだよ!」
「最後まで頑張りましょ、三人で」
「......うん!」
「グランプリのエントリーですね! 何人でエントリーされますか?」
「ひとりで」
「ソロアイドルの......はい、確認できました! ユニット名はどうされますか?」
「......『Crescendo』で、お願いします」