1図書館・夕方
 誰もいない図書館で一人東(17)は本を読んでいる。
 その姿を後ろから、眺めている羽垣(17)。
羽垣M「東君はいつも本を読んでいる」
 ふと目を外し、東は読書席の方を眺める。
2教室・放課後
 教室に生徒たちが複数人残っている。クラスメイトの女子たち数人が話している。
クラスメイト1「ああいう感じは向いてないっていうか」
クラスメイト2「誰が話すのあいつとって感じだよね」
 東が本を片手に教室に来ると、女子たちはその場を去っていく。東、何も言わずに自分の机まで行き、いまだ本を読み続ける。羽垣、その様子を見ている。
3中庭・夕方
三隅「なんか嫌な感じ。どんな人でも、誰かの悪口言ってたら、途端に嫌いになるわ、私」
羽垣「わかる。三隅はそういうとこ良いよね。ズバッと考えれてさ。私は無理かも。ずっと思い返して、あーあの時どう言えばよかったのかなってさあ」
三隅「東君自体、別に嫌われてるってわけでもないし、ただずっと本読んでる印象があるから、誰も寄り付かないんだよ」
4公園・昼
 東、ベンチに横になって本を読んでいる。
5図書館
 図書館で羽垣は何かを探していると、図書委員の名札をつけた東が近寄る。
東「えっと、羽垣さん、だっけ。どうしたの? 何か探してる?」
羽垣「あっ、いや、なんでもないよ。ほら、もう見つけたし」
 羽垣の手には一つの小説がある。羽垣はその場から急いで逃げようとするが、東が「ちょっとまって」と制する。
 カウンターで、東が貸し出し処理を済ませる。
東「はい、どうぞ」
羽垣「ありがとう。私バカだね。貸し出すの忘れるなんて」
 羽垣が去ろうとする。
東「羽垣さん、本読むんだ」
羽垣「(立ち止まり、少し笑いながら)え、何それ、バカにされた?」
東「いや、そういう意味じゃなくて、そういうイメージないから。俺は図書委員だから、いろんな人が本を読みにくる。(それぞれの顔がフラッシュバックする)そういうこと話せる人って、他にいなかったから」
羽垣「そ、そう」
東「(笑顔で)それじゃ」
 それじゃといい、羽垣はその場を去っていく。一つ角を曲がり、カウンターの視界から外れたところで立ち止まる。
羽垣M「私、(歩き始め)この人が好きだ」
6バス・夕方
 バスに揺られながら、遠くの入道雲をじっと眺めている羽垣。
7教室・放課後
生徒のほとんどが部活動などへ行っていていない中、羽垣と三隅だけが残って、机を合わせて話し合っている。
三隅「昨日も、先生に居残り食らっちゃってさ〜」
羽垣「…(遠い場所をずっと見つめているような顔)」
三隅「…羽垣、今日調子でも悪いの? ずっとそんな感じじゃん」
羽垣「…風邪でも引いたのかな。顔があつい」
三隅「(ほっぺを触りながら)別に普通じゃない?」
羽垣「うん…」「…その人をずっと好きでいられたら、それでいいかな」
 バッグに付いたキーホルダー。本に差し込まれたブックイヤー。
羽垣M「どうかずっと、覚えていてくれるように」
 タイトル
8事務所
 有希(28)、資料をまとめるためにパソコンを開いている。
 周りでは、パソコンのタイピング音が響いている。各々がそれぞれの企画や業務をこなし、電話なども多い。パソコンには、映画のチラシ、広告の文章、WEB記事などの業務が映し出されている。
 部屋には数台の扇風機が起動していて、細かい振動を鳴らしている。同僚の相生(32)が、何度もエアコンのスイッチを押しているが、なんの反応も示さない。
相生「あーもう。綿毛さん、また壊れましたよこれ」
 綿毛(34)が団扇片手に話す。
綿毛「またー? もう一回業者呼ばなきゃ(スマホを手に取る)」
 鷺沼(27)が話す。
鷺沼「また高いお金ふんだくられますよ。(台をおいて)自分で直した方が早いです」
相生「まーそうだな。鷺沼ちゃん良いよ。有希、やってくれよ」
 有希、タイピングを止め、パソコンの画面から振り返る。
有希「また僕か。前は直したんだからお前やれよ」
相生「ったく、しょうがねえな」
 有希、再びデスクに向き直り、ペン回しをしながら文面を修正していく。カリカリと鉛筆の音を立てながら書いている。
 祐(60)が全員を呼ぶ。
祐「お昼にしましょう」
9定食屋・昼・中
祐「ライター足るもの、どんなものからでも言葉を摂取しとかなければなりません」
 有希を含めた事務所の人間が、広いテーブルをみんなで輪を囲って小説、ライトノベル、詩集、辞書、パンフレットなどそれぞれで開いて読んでいる。気になった言葉を、各々手帳やスマホに書き込んでいる。有希は、高村光太郎の智恵子抄の一節『人と』を書き写している。
『遊びぢやない暇つぶしぢやないあなたが私に会ひに来る』
食事がやってきて、位置を調節し、食べながら作業を進める男子勢。綿毛と鷺沼だけが、食べる体制に入る。
綿毛「食ってからやりな!」
 有希はいまだに手を止めない。
有希M「文字を扱う仕事として、僕らはこれを欠かさない。例えどんな小説でも、雑誌でも、そこからだけでは知ることのできない知識がある」
10有希宅・夜・外
 有希、アパートの玄関の鍵を開ける。
11同・中
 ビニール袋いっぱいに入った食品類を抱えて入ってくる。
 冷蔵庫に納めていると、スマホに通知が届く。カレンダーの通知で『8/17 個展企画打ち合わせ10時及川美術館』と書かれている。
12事務所
 時計を確認して、ショルダーバッグに荷物をまとめてその場から立ち去ろうとすると、向いから社長の祐(60)がやってくる。
祐「有希くん、現場ですか」
有希「(頭を下げる)はい」
祐「オフィシャルライターは初めてでしたか」
有希「…頑張ります」
祐「緊張しなくても大丈夫です。いつも通り、相手のことをきちんと聞いて、粗相の無いようにお願いしますね。芸術家は大変です。まあ、君なら大丈夫だと思いますが」
 もう一度頭を下げる。少し離れてから、忘れていたことを思い出して有希が話始める。
有希「あ、社長。もう届けましたが、明日法事があるので、来れません」
祐「はい、わかっています。心配しなくて良いですよ」
 「失礼します」と言い、有希は廊下を歩いていく。眠そうに軽く目をかく。
外・昼
 『○○ライター事務所』という看板が小さく飾られた玄関を出ると、軽く手で顔を仰ぎながら歩く。セミの音が響いている。
13電車・中
 有希、電車に揺られながらイラスト雑誌を読んでいる。
14及川美術館前
 及川美術館と名前が書かれた、一軒家をひとまわり大きくした様な美術館。
14及川美術館・会議室
 一つの小さな部屋に、数人の関係者が集まっている。有希が部屋に入り会釈する。ホワイトボードには『立元イラストレーション個展』と書かれている。
 全員が揃うと、担当学芸員が話始める。 
大塚「それでは早速今回の個展について、本日、立元先生は御用事でいらっしゃいませんが、個展の内容を詰められたらと思います。なにぶん、うちは小さな美術館で狭い場所ではありますが、本日はよろしくお願い致します。企画担当の大塚と申します。(全員頭下げる)今回はイラストレーターの立元さんの個展を企画してまして……」
 有希、机上の資料に目を向けると、しばらくじっと見つめてしまう。説明が耳に入らないほどで、驚いたような様子。
大塚「…有希さん、どうかなさいましたか」
有希「いえ…(小さな声)」
大塚「今回有希さんには、パンフレットの執筆や作品説明の文章校正をお任せしています。大変若いのに真面目で、お持ちの語彙も素晴らしいと聞きました。今回の個展の話を及川館長に話たら、オフィシャルライターは有希さんに任せたほうがいいと直々におっしゃってくださったんですよ」
 関係者たち、柔らかな雰囲気で喜んでいる。その中で、有希は一人佇みながら、窓から外を見つめている。
有希M「ずっと、覚えてしまっているな」
15車内・昼
 有希、サービスエリアに車を止めて、資料を読みながらおにぎりを食べている。
 ため息をつき、助手席に資料を置く。そこには『立元古典企画書』と書かれている。
16有希実家・内・夕方
 親族が集まり、有希の父親の三回忌が執り行われる。
17同・夜
 全員で食事をしている。それほどに大きくもなく小さくもないほどの音量で会話が盛り上がっている。
 有希は母(63)と妹の朱音(25)の隣で、顔なじみのない親族たちに緊張していると、叔父の左伯(55)がそばに来て話しかけてくる。
左伯「お久しぶりです」
有希母「ああどうも」
有希「どうも」
左伯「何、兄も妹も随分大きくなったね」
有希「ありがとうございます(小声)」
左伯「うちのなんてまだ高校生だよ」
有希母「今は学校ですか」
左伯「うん。あの頃の女の子はわからないことが多くてね」
18同・トイレ
 有希がトイレから出てくる。大広間の方へ戻ろうとドアを掴むが、気が進まなくて廊下を歩く。
19同・廊下
 階段を登って昔の自分の部屋に行く。
20同・有希部屋
 昔読んでいた本や書類などが母親の手によって整理整頓されており、親族が止まる用に既に布団が敷かれている。
 有希、紙が雑多に並べられたところから一つ手にとって、布団を乗り越えて窓辺に立つ。それを少し読んでいると、窓から夕日が差し込む。
21図書館
 羽垣、本を手にとってめくる。それらを机の上において、また読み漁る。横にノートを置き、何かを書いている。
 夕日が差し込んできたあたりで、図書館にやってきた東に声をかけられる。
東「すごい本の量」
羽垣「あっ、いやこれは、なんでも無いよ(とっさにノートを隠す)」
東「ケータイ小説(を手に取る)」
羽垣「…東君は、そういうの、読まない?嫌い?」
東「読まないけど…きっとみんな、好きだから読んでるんだよね。なら、いいことなんだろうね」
 東、本を数ページめくる。
22朱音家マンション・中・深夜
 それなりに綺麗な部屋。ゴミが大量につまったゴミ袋が二つ置かれている。
 タンクトップ一枚に上着を羽織った朱音が着替えをしている。
有希「酒臭かったな」
朱音「平常心でいるの結構辛かった」
有希「(匂いをかぎ)ここもまあまあだけどな」
朱音「あんた来るって聞いて急いで片付けたんだから我慢しい!…ねえ、明日はどっか行く?」
有希「明日には仕事で帰らなくちゃいけない」
朱音「ゆっくりしていきゃいいのに。だからモテないんよ」
有希「関係無いだろ(ムッとした顔)」
 朱音、荷物を持って玄関を開ける。
朱音「ほんじゃ」
有希「夜勤気を付けろよ」
 バタンとドアが閉められる。ドリンクを飲んでいると、雷の音が小さく聞こえる。
 窓のそばまで来てみると、外には雨が降り始めている。振り向いて玄関の方をみると、水色の折り畳み傘が置きっぱなしになっている。
有希「あいつ…」
23同・外
 外に出ると雷が一度大きくなる。
有希「やば」
 階段を急いで降りる。
 雨の中、傘をさして走っていく有希。
24外・深夜・雨
 有希、砂利道を走っていると、道路のど真ん中で本を読んでいる女子高校生を発見する。雨にぬれてびしょびしょになっている。それを見ると同時に、昨日読んでいた智恵子抄の一節が頭に響く。
有希M「ありあまる雷霆(らいてい)や雨や水や世界にふき出る勢力を無駄づかいとどうして言へようあなたは私に躍り私はあなたにうたひ刻刻の生を一ぱいに歩むのだ」
 有希、横からやってくる車のライトに気が付き、とっさに羽垣の腕を掴む。そのまま歩道の方へと引きずっていく。
有希「(キョドリながら)あの…危ない、ですよ。だって、ここ、あの」
 ふと羽垣を見ると、月の光に照らされて、まぶたに浮かべた涙が光っている。
25朱音家・朝
 羽垣、目が覚めるとベッドに横になっている。有希はソファで寝ている。
 羽垣、自分の服装がパジャマになっていることに気がついて、頬を赤らめて大きな声を出す。
有希「な、なんですかちょっと」
 朱音、朝食を持って部屋に入ってくる。見ると、伸びた有希と、今にも泣きそうな羽垣がいる。
朱音「アハハ! 大丈夫。こいつにそんな神経ないから」
羽垣「なんだ、早く言ってよ朱音さん」
 朱音が二人にご飯を配る。有希は少し腫れた頬を気にしている。
羽垣「有希は知らないかもね。この子は左伯羽垣ちゃん」
有希、何かに気づいたように顔を上げる。
有希「えっ、もしかして叔父さんの?」
羽垣「はい」
朱音「にしても、傘忘れて飛んで帰ってきたら、濡れた女子高生担いで倒れてたんだから。全く。これだから童貞は怖いわ」
有希「違うって言ってるだろ。昨日、倒れちゃったんだって彼女が」
羽垣「あの、さっきは変な誤解してすいません」
有希「いえ……」
朱音「どうせやらしいことでも期待してたんでしょ」
有希「してないから!(羽垣の方を向いて)してませんよ!?」
朱音「どうして倒れちゃったの羽垣ちゃん?」
 羽垣、ハッとして、何かを探す。
有希「…これ?」
羽垣「あっ…」
 有希、手元に一つの書籍がある。皺皺になった本の表紙には、『若菜集』と書かれている。
朱音「なんでまたこれを」
 羽垣が一頻り説明をする。
朱音「なるほどね、それでとりあえずこれを買ってみたと」
羽垣「もう、何を選んだらいいのかわからなくて…」
 そこへ突然ピンポンが鳴る。朱音が防犯カメラをつけると、汗を垂らた左伯がいる。ドアを開ける。
左伯「朱音ちゃんごめんね、ここに娘がきてないかな」
 と言い、そこに羽垣の姿を確認すると勢いよくやってくる。
左伯「おい、探したぞ。何をしているか知らんが、そろそろ勉強に専念しなさい」
羽垣「嫌。私、やりたいことができたの。やるって言ったらやりたい。お父さんお願い」
叔父「いい加減にしたらどうだ。家でも言葉がどうだこうだと言い張って。相談できる人でも見つけてから言いなさい!」
朱音「(ニヤリと笑って)ここに言葉のプロフェッショナルならいるけどね」
 二人、狐に摘まれたようにぽかんと有希の方を見る。髪の毛をかく有希。
26チェーン店のハンバーガー屋
 三人が一つのテーブルを囲っている。羽垣は朱音の服を借りている。両手を合わせて頭をこれでもかと下げて、有希の方を向いている。
羽垣「お兄さん、お願いします! プロなんでしょ? ねえ少しくらい協力してくださいよ〜」
有希「…面倒臭い(呟く様に)」
 有希、ハンバーガーに齧り付く。もぐもぐしながら、少し嫌そうな顔をする。早く噛んでいるのがあからさまに不機嫌さを醸し出す。
有希「それに、具体的に何をするんだよ。もっと具体性を言ってくれせめて」
羽垣「言葉を探して欲しいんです。東君にも伝わる様な言葉を教えて欲しいんです。プロなら、知ってるんじゃないんですか!?」
 有希、少し戸惑いながらも、悩んでいる表情。朱音、少し考えている。
朱音「兄い、これは乗っとくべきだ」
有希「(もぐもぐしながら)…なんでだよ」
朱音「兄い、言葉探しが趣味だったよな。なら、この際に若者言葉も研究しちゃえばいいだろ」
 羽垣、隣でうんうんとうなづいている。
 有希、少し悩む。
有希「恋愛とか苦手だし。しても、成功するビジョンが見えないっていうか」
 朱音と羽垣、真剣な表情で数秒見つめる。圧に耐えきれず「わかったよ」と言う。
羽垣「やった! さすがおじさん」
有希「おじさんじゃ無い、まだ20代!」
27事務所・昼・外
 有希は事務所のドアを開ける。
28事務所・昼・中
 同僚らがあくせく働いている。倉持(40)がどこかに電話をかけている。有希のスマホが鳴る。
倉持「あ、おい有希、いいかげん事務所来い! 案件進められないだろうが!」
 有希のスマホにも全く同じ声が聞こえる。
有希「あ、もう来てます」
 倉持が受話器を置き、少し微笑む。
倉持「なんだ」
 羽垣、有希の背中から現れ、「初めまして」と言う。
 倉持、驚いた表情で、どうもと言う。
29同・応接間
 有希が事情を話した後。
 ソファに羽垣を座らせて相生たち向かい合う。綿毛はコーヒー(ミルク入り)を淹れて羽垣に出す。
相生「いやあ流石にビビった。お前が女を連れてくるからな」
 相生、綿毛に頭を叩かれる。
有希「すまんが、少しだけ協力してくれ」
相生「まあ忙しいが、いいだろう。しかし、好きな人のためにそこまでするのか、最近の子は」
綿毛「最近とか関係ないわよ。いつだって女は猪突猛進よ」
有希「結構特殊なタイプだと思うけどね(羽垣を指差しながら)」
羽垣「特殊って言わないでください!」
 相生が手を叩いて笑う。
相生「ごめんごめん。こいつ(有希)、真面目なくせして結構冷たいところあるからさ」
30カフェ・昼
 事務所メンバーを引き連れて、カフェの一つのテーブルを占拠する。それぞれがスマホやメモ帳、手帳などを参照している。真剣な雰囲気に、羽垣は圧倒されている。
有希「これなんかはどうだ」
 有希が恋愛の漢詩文を出すと、倉持がつっぱねる。
倉持「お前のは古すぎる。恋愛なら映画のパンフレットだな」
相生「やっぱり芥川あたりじゃないか? 『或恋愛小説』。高校生ならこんなもんだろ」
鷺沼「少女漫画もいいかもしれません。最近は文学要素も多いんですよ!」
 と、三人立て続けに堂々と見せるが、羽垣は戸惑ってしまう。
 綿毛、少し悩んでカフェラテを飲み、羽垣に問う。
綿毛「ねえ、羽垣ちゃん。その好きな人は、どんな人なの?」
 羽垣、少し考える。
羽垣「…東君は、一見本ばかり見ている様に見えて、実際には、周りの人をよく見ているんです。楽しそうに漫画を読んでいる人。難しそうに小説の課題に取り組んでいる人。ぼんやりと英単語を勉強している人。そう言う人を見て、幸せそうに笑うんです」
31回想・図書館・昼
 羽垣の言う人々と、それを見ながら頬杖をついて微笑む東。
32カフェ・昼
 事務所メンバー、考えている。
綿毛「それなら、羽垣ちゃん自身も、言葉探しをしてみるのがいいんじゃないかな。私たちみたいに、いろいろ知らなくてもいいから、その人にあった言葉を探すの」
羽垣「その人にあった…(カフェラテを飲む)でも、どこで探せば…」
 すると、そこに遅れて祐がやってくる。手には、二枚のチラシがある。
祐「いや、遅れてしまいました。羽垣さんの噂を聞いて、これを持ってきたんです」
 『愛に関する美術展』と言う展覧会の案内。
相生「おいおい、ぴったりだな」
祐「いや、実は私がフライヤーを担当したんですよ」
 そう言うと祐は、一枚を羽垣に、もう一枚を事務所メンバーに渡す。メンバーは食い入る様にそれを見始める。
 羽垣、興味が沸き笑顔になる。
祐「しかし、もう展覧時間が過ぎてしまいました」
羽垣「(有希の方を向いて)お兄さん、明日も東京に居たい」
有希「…」
相生「なんだ有希」
有希「俺はもう、めんどくさい(と言いかける)」
綿毛「有希、あなたはもう少し言葉に気をつけなさい。紙に書くのが言葉なら、声だって言葉だよ。羽垣ちゃん、私で良ければいいわよ。留めてあげる」
鷺沢「有希さん。ここは手伝ってあげるべきです」
 羽垣、笑顔になる。有希、左伯のことを考えて少し頭が痛くなる。
33有希家・夜
 狭いアパートの一室。原稿や本が山積みになっていて、ペンも散乱している。
 有希、叔父に電話をして、もう一日東京に滞在する日付を伸ばすことを伝える。
 机に向かって原稿を進めている有希だが、不意に羽垣の好きな相手のことを思い出す。
32回想・カフェ・昼
羽垣「そう言う人を見て、幸せそうに笑うんです」
33有希家・夜
有希「それなら…」
 メモ帳を開き読み始め、あの言葉はどうだろうと思案を初めてしまう。しばらくすると夜が吹けており、有希が時計に目をやると既に夜中の1時を回っている。
有希「だめだ、原稿原稿」
34綿毛宅・夜
 綿毛と羽垣、夕食を食べている。美味しそうに食べる羽垣を、綿毛が見つめる。
綿毛「私もそろそろ結婚したいな」
羽垣「…綿毛さん、すごくまつ毛が素敵です」
綿毛「(笑って)どう言うこと?」
羽垣「きっと、良い相手、見つかります」
 羽垣、少し恥ずかしくなる。
綿毛「…ありがとう。あなたもね、きっと幸せになるわ」
35事務所前・朝
 有希が事務所前で、駅の方を向いて待っている。綿毛が羽垣を連れてやってくる。
 羽垣、小走りに有希の横にやってきて同じ方向を向く。綿毛、微笑む。有希、少し恥ずかしそうに笑う。
有希「行きますか」
羽垣「行きましょう」
綿毛「行ってらっしゃい」
36及川美術館・中
 有希がパンフレットを見返して「なんだここだったのか」と呟く。
 中に入ってみると、美術館独特の淡い灯りで照らされた、様々な界隈から集められた恋愛に関する言葉が展示されている。例えば、遠距離恋愛なら手紙、電話、スマホなどがモチーフにインスタレーションされており、近距離なら声や仕草が採用されている。ギターの優しい音楽がかかっている。
 羽垣、思わず先行して作品を見始める。いくつも見回ったあと、一つの作品の前に立ってじっくりと見始める。
 有希、いろいろ見ていると、順路を逆走してこちらに向かってくる立元を見つける(気づいていない)。立元とすれ違う時、少しだけ顔が見えて、有希は振り返り立元の方を見る。立元も、何かに気がつき有希の方を見る。二人はそのまま少しの間見つめあって、立元が先に目を離して美術館を出る。有希、それが立元だと気がつき、神妙な面持ちになる。
 羽垣、真剣に展示品を見つめている。ある作品の前に立って、有希を呼ぶ。
羽垣「有希さん、有希さん」
有希「…ん、なんだ」
羽垣「これにします。これで、伝えます」
37学校・夕方・図書館
 雨が降っている。羽垣、手紙を隠し持って東を待っている。東がやってくると、少し顔が赤くなる。
東「珍しいね、羽垣さんから呼び出されるなんて」
羽垣「そうだね。いっつもここにいるもんね」
東「(荷物を置く)図書委員ってのもあるけど、ここが好きだから」
羽垣「うん…あのね、今日は伝えたいことがあるの」
 羽垣、深呼吸をする。手紙を出して、読み上げる。
羽垣「ど、どうか…」
 東、少し不思議そうに見つめている。
羽垣「どうか自ら欺いていたわたしを、可哀そうに思って下さい」
 雨音が聞こえなくなる。羽垣の耳は赤い。
東「……それ、どういう意味?」
羽垣「えっ?(キョトンとした顔)」
 羽垣から説明した後。
東「あはは。それでわざわざ、素敵な言葉を選んでくれたんだ」
羽垣「そうだよ。だって東君、いろんなこと知ってるから、私の曖昧な言葉じゃ、気持ち、伝えられないと思ったから」
東「そっか…でも、羽垣の言葉で伝えてくれても全然嬉しかったよ」
羽垣「そ、それじゃあ」
東「僕で良いなら、良いよ。僕も嬉しい」
 羽垣、東に抱きついて泣き始める。
羽垣M「好きじゃないように振る舞っていた私を可哀想って、思って」
39居酒屋・内・夜
 有希と相生と祐が都内の居酒屋で座っている。有希はジュース、相生と祐はお酒を口にしている。少しボーッとするように有希は窓ガラスから見える街並みを見ている。
相生「良いのかよ。最後までそばにいてやらなくて」
有希「大丈夫だよ、あの子だったらきっと」
祐「ああ言う子は強いですよ。やろうとしたことをちゃんと準備して、ちゃんとやれる子です」
 祐、鞄から手帳を取り出して少しばかりページを捲る。
部長「ライターや文字を仕事にしている人にとって、言葉を知る、と言うより食べることは生きがいです。もし彼女にとって、その相手にとって良い言葉が見つけられたということは、それは素晴らしいことですね」
 有希と相生、お互いにうなづく。
部長「有希くん」
 有希、カップに口をつけてびくっとする。
有希「綿毛さんも言っていた様に、言葉は一つだけじゃありません」
40回想
綿毛「紙に書くのが言葉なら、声だって言葉だよ」
41コンビニ・夜・外
 有希、何かを思い立ち、コンビニに入っていく。
42同・中
コンビニ店員「らっしゃいませーおはよーざいまーす(適当に)」
有希「おはようございます!」
 店員、驚いてこちらを見ている。
43事務所・中
祐「有希くんおはようございます」
有希「おはようございます! 本日はお日柄もよく…」
祐「? なんだか…まあいいです。もう風邪は大丈夫ですか?」
有希「はい!」
 有希、デスクに座って集中するために息を吸う。
 ぶつぶつと「言葉を大切に」と呟きながら仕事を行う。
相生「なんだありゃ」
倉持「綿毛さんのストレートな言葉が利いたんだな多分」
鷺沢「有希さん、根っこは真面目ですからね」
44有希宅・夜
有希「言葉は文字だけじゃない…なにか他に例はないか…」
 散乱した書類の真ん中で、有希は声を上げてみる。
有希「アー、アー」
 本を手にとって、ソフトカバーを触りながら「なめらか」と言ってみる。
 本棚の奥の方に締まってあった『マナー言葉大全』を取り出して、そこに書かれた言葉をつらつらと声に出して読んでみる。
 有希、書類の山に体を埋める。
有希「そうか、僕は、声を軽んじていた」
 今までの記憶が蘇る。うまく扱えなかった言葉たちが溢れてくる。
42外・夜
 外へ飛び出した有希は、見えるだけ声に出して言葉を発してみる。
有希「車、恋人たち、街、橋、生命、空、綺麗な声、息、空気」
 すっきりしたような顔が、一変する。
有希「じゃあ、どうやって言えばよかったんだ、あの時」←ここもう少し変える。
 雨はいっそう強くなっていく。
43事務所・朝・中
 倉持が有希を探して歩き回っている。
倉持「おい、有希に連絡がつながらないぞ。また親族がらみかなんかか?」
相生「風邪らしいぞ」
倉持「風邪!? もう10月入るぞ。あいつこの忙しい時に…」
 事務所中央のホワイトボードに、『立元個展11/30』と書かれている。その下に、『印刷依頼は1ヶ月前に』と書かれて、赤丸で囲われている。
44有希宅・内・朝
 有希、目が覚めると体が重く感じる。
45朱音宅・内・昼
 羽垣と朱音は家で食事をしている。
朱音「うわーすごい。ありがとう羽垣ちゃん。私料理とかできなくてさあ」
羽垣「うちは料理当番制なんで、任せてください(ガッツポーズ)。それに、手伝っていただいたお礼です」
 朱音、席に座る。
朱音「なんにもしてないのにー。兄い、どうだった。頼りになった」
羽垣「ちょっと嫌味も言われた」
朱音「(起こった様に)あのあほたれ。帰ってきたら叱らないとな」
羽垣「でも、皆さんのおかげで自分でもいろいろ考えることができたよ。凄かったな、お兄さんの同僚」
46回想・カフェ・昼
 事務所メンバーが次々に参考文書を出してくる。
47朱音宅・内・昼
羽垣「あれだけ知っていれば、なんでもできるんでしょうね」
朱音「…まあ、そうとも限らない奴が、一人思い当たるんだけどね」
48有希宅・内・昼
 有希、くしゃみをして毛布を被り直す。
有希「ダルっ(と言いかける)……すごく倦怠感を感じる…(寝返りをうつ)言葉を大切にって、これで良いのかな」
 そこでピンポンがなる。
49同・玄関
 防犯カメラを見てみると相生が出る。
相生「開けな!」
 有希、ビクビクしながら玄関までやってきて、鍵を開けると相生と羽垣がいる。
 相生と羽垣はドカドカやってきて、リビングまでくる。
50同・中
 布団に置かれた有希に、羽垣がおかゆを作って食べさせる。相生、有希の目の前に座る。
相生「やっぱし変に考えていたか」
有希「…すごく深く考えちゃって…」
相生「あのな、綿毛はもっとコミュニケーションうまく取ろうぜって言っただけだ。それを品行方正にしろだのに勝手に解釈しちゃうのが、お前の悪いところだ」
有希「…なんだか怖いんだ。綿毛に言われた時、僕が言葉が下手なせいで、誰かが傷つくのかもしれないと思って」
 羽垣、おかゆを台所へ戻し、ため息を着きながら向かってくる。
羽垣「お兄さん。お兄さんが突然『おはようございます!』ってクソ大きな声で話し始めた方がよっぽど怖いです」
 有希、窓から差し込む光を遮る様に手で顔を覆う。
有希「もう一度、うまく好きだって伝えられる様な気がしたんだ」
 羽垣と相生、顔を見合わせる。
有希「今案件を持っている立元さん。僕の高校のクラスメイトだったんだ」
52アトリエ(立元宅)・中
 立元、一人でペンタブレットを動かしながら線を描いている。また一つ、また一つと描く。長い髪を耳にかける。
53回想〇〇高校(10年前)・中
 教室で有希、本を読んでいる。立元、絵を描いている。
54有希宅・中
有希「立元さんのことが、好きだったんだ」
 相生と羽垣、驚いた様な表情。
有希「だけど、こう言う性格だから、うまく言葉を伝えようとしても、しっかりと接することができなくて。それで、いきなり告白をしたんだ。後から聞いたら、立元さん、他に好きな人がいたのに、それっきり恋愛を拒んでいるらしくて(泣き始める)…僕のせいで誰かが不幸せになるのが怖いんだ」
羽垣「…私もね、言葉の扱い方、全然わからなかったよ。だからお兄さんに頼んだの。ねえ、今度は、(手を握る)私が力にならせて」
 有希、涙を袖で拭きながら肯く。窓から夕日が差し込んでいる。
羽垣「きっとね、言葉は声だけじゃない。コミュニケーションだって言葉よ」
有希「どういうこと…?」
羽垣「例えばね、朝友達と会う時に、大きな声でおはようって言ったら、誰だって気持ちいいなーって感じるでしょ(うん)好きだって言う時も、なんで好きなのかもわからないんじゃ、好きってだけ言われてもわからないよ」  
55○○駅前・昼ごろ
 有希が駅から上がってくると、大塚が既に待機していた。
 大塚は有希を見つけると歩きながら「おはようございます」と言う。
有希「おはようございます」
大塚「よろしくお願いします」
56萩原高校・美術部室・昼
大塚「ここは、立元先生が昔通っていた部室です。有希さんには、ここの空気感を元に、パンフレットを作成していただきたいんです」
 木製の椅子と傷が目立つテーブルが三つほどある。テーブルには、ペンや鉛筆が入れられた筒がある。有希が軽く椅子を触ると、脚の高さの違いでガタガタと音が鳴る。
有希「随分と古さが目立ちますね」
大塚「ええ。この頃から、ずっと絵を書いておられたそうです」
 有希、棚の引き出しを開けると、『平成〇〇年合同誌』と書かれた冊子がいくつも出てくる。開くと、学生が書いたと思われる絵がいくつも重ねられている。思わず「すごい」と呟く有希。
 しばらく冊子を読んでいると、一枚の絵を見て有希は手を止める。
57回想・同・文芸部
 有希、原稿用紙に小説を書いている。
有希M「僕は文芸部だった。文芸部と美術部は、文化祭の時期に、それぞれの部員が捜索した小説にあったイラストを、イラストにあった文章を考えるというイベントがあった」
58同・美術部・中
 立元、真剣な表情で有希が手渡した小説を読んでいる。夕日の中でも描いている。
 授業の最中も、休みの時間でも描いている。それを、有希が遠くの席から見つめている。
羽垣「できたよ」
 有希、嬉々とした表情でそのイラストを手にとって、「すごい」と呟く。
 立元、少し恥ずかしそうに笑った後、部室を後にする。
有希M「その優しさ、恥ずかしくて素っ気なくするところが、好きだった」
59朱音宅・中
有希「全部好きだったな(悲しげな表情で)」
 体育座りでコタツに入って落ち込んでいる有希の肩を、羽垣がポンとする。
羽垣「これからでしょ!」
 有希、羽垣のことを見つめる。
朱音「そうそう。それにさ、立元さんからしてみれば、大昔にそういうことになっただけの相手なわけだよ。だからさ、あんまし気にする必要ないってアタシは思うけどな」
羽垣「さ、いよいよ特訓ですよ!」
朱音「とりあえず、アタシの料理を褒めるとこからね(にやっ)」
60回想学校(10年前)・校門・外
有希「好きだ」
立元「…(驚いた表情)えっ…ありがとう、嬉しいよ。でも、ごめんなさい」
 立元、その場から去っていく。
61羽垣宅・玄関・昼
 有希、当時のことを思い返している。
羽垣「ここです」
62同・中
 有希、羽垣に連れられて家に入ると、そこには東が座っている。
羽垣「さ、まずは挨拶です」
有希「は、初めまして。今日は、どうもありがとうございます」
東「初めまして。そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。年上ですし。僕は、東です」
有希「有希、と申し…言います。よ、よろしく」
 羽垣、『笑顔で』と書かれたフリップを掲げている。
 東、思わず笑ってしまう。
有希「いつ用意したのそんなの…」
 有希と羽垣、東のそばに座ってお茶を飲む。有希から粗方を東に説明する。
東「相手が今どんなことを考えているのかを想像するんです。それで、相手にとって優しい言い方を、俺は選んでいます」
羽垣「でも、お兄さんはそういうタイプじゃないもんね」
有希「…(悩む)」
東「それなら、折衷案を探せば良いんですよ」
有希「折衷案?」
東「相手も自分も、ちょうどよく、程よく心地いい言葉を、頭で考えるんです」
羽垣「東くん、それナイスアイディア(グーの指をする)」
 それからしばらく、東と会話の特訓をする。
63有希実家・玄関・夜
 有希、玄関を開ける。
64同・中
 母、玄関の音に気づいてやってくる。
有希母「あら、どうしたん」
有希「仕事でこっちきたんだ」
有希母「なんだ、早く言っといたら支度したのに」
 母、台所の方へ行く。有希、それを見計って話しかける。
有希「母さん。ご飯、もう食べた?」
有希母「まだ、これから作るところよ」
有希「もしよかったらさ…」
65同・台所
 有希、作ったご飯を運ぶ。母は少し驚いた様子でそれを見る。
有希「その、ちょっとでも親孝行できればと思って…」
有希母「…(少し笑って)気味悪い」
有希「えっ」
有希母「あんたが何考えてるか知らないけど、いきなり親切にされても怖がる人しかいないよ。ちょうどいいところにいればいいよ。ちょうどいいところにいれば、ちょっとずつは進歩できるんだから。ね」
 有希、うなづく。二人でご飯を食べる。
66外(羽垣と初めて出会った場所)・夜
 有希と羽垣、はじめで出会った場所で状況を話し合っている。お互いにジャンパーを着ていて、ポケットに腕を通している。月明かりが二人を照らしている。
羽垣「自信、ついた?」
有希「わかんない。だけど、なんて言うのかな」
羽垣「ちゃんと言葉にしてみてよ」
有希「…ちょっとずつだけど、優しくなってる気がする」
 羽垣、少し笑う。
羽垣「お兄さんはお兄さんのままでいいよ。お兄さんらしく、優しくね」
有希「…おう」
羽垣「それに、そんなすぐに身につくわけないからさ。立元さんと話しながら、少しづつ、いっぱい成長するんだよ」
 有希、再び智恵子抄の一節を思い出す。「あなたは私に躍り私はあなたにうたひ刻刻の生を一ぱいに歩むのだ」
66有希宅・朝・リビング
 有希、仕事服に着替えている。
67回想・朱音宅・内・夜
朱音「そもそもなんだけどさ、有希は立元さんのことが好きだったわけで、振られてもいるわけじゃんね」
有希「うん。改めて言われると胃が痛いけど」
朱音「でもさ、立元さんからしてみれば、大昔にそういうことになっただけの相手なわけだよ。だからさ、あんまし気にする必要ないって」
67電車内・昼
 電車に揺られる有希。緊張した顔。
68回想・外(羽垣と初めて出会った場所)・夜
羽垣「お兄さんはお兄さんのままでいいよ。お兄さんらしく、優しくね」
68及川美術館・入り口
 有希、緊張を解すために深呼吸する。よし、と小さく声を出し入っていく。
69同・会議室
 会議室には既に大塚と立元がきている。有希、お辞儀をする。
大塚「立元様、本日は、御足労おかけいたしました。(頭を下げる)こちら、パンフレットや作品説明の文章校正を担当してくださっている有希さんです」
 立元、有希の方を向いて例をする。
大塚「本日は、展覧会場に文章の仮展示を行っておりますので、そちらを見ていただいて修正点等あれば、なんなりとご指摘くださいませ」
70同・展覧会場
 三人が会場に来ると、大塚が用事で離れていく。二人で小さな会場を見ていると、自然と会話が生まれなくて少し緊張する有希。立元はずっと作品と説明文を見ている。ライト(ベージュの薄い光)が輝いている。
立元「すごいですね。説明文が様になっています」
有希「あ、ありがとうございます。イラストも、とてもきれいです」
 立元、優しく笑う。
有希「立元さんは、文も書かれるんですね」
立元「高校生の頃、文芸部の方とコラボして、私が小説にイラストを書いたことがあったんです。それが結構良くて、今も使っている感じですね」
有希「結構、緊張しました。元の雰囲気を残したまま、校正するのは。元々好きな言葉でしたから」
 立元、入り口に設営された、展覧会説明文を読む。「イラストレーションを立元」
立元「素敵」
 有希、うっとりとして立元を見つめる。
立元「やっぱり、あの時から文才は変わらないね。有希くん」
 有希、驚いて手をいじいじする。
有希「お、覚えていてくれたんですか」
立元「まあ、そりゃあね。
 有希、告白したことを思い出す。
立元「あんまりにも突然だったから、むしろ忘れられなくて(笑う)…お久しぶりです」
有希「(笑みを浮かべながら)お久しぶりです(頭を下げる)
71カフェ・中・夜
 窓際に二人並んで座る。有希はカフェラテ、立元は紅茶を飲んでいる。外は雪が降っている。
立元「前に、美術館であったでしょ?(有希うなづく)そのときはなんだか恥ずかしくて」
有希「うん。ちょっと、どうしたらいいかわからなかった。僕も」
 二人、少し笑う。
立元「だって、彼女と来てるなんてね」
 有希、慌てたように否定する。
有希「彼女じゃなくて、親戚の子なんです。叔父の」
立元「あー、なんだそうなんだ」
 一頻り羽垣のことを話した後。
立元「すごい。ロマンチックだね。それに、有希くん、真面目だね」
有希「そ、そうかな?」
立元「だって、そんなお願いもちゃんとかなえてあげたんでしょ?」
 有希、手を膝において、真剣な面持ち。
有希「実は、最初は嫌々だったんだ。だけど、羽垣さんがあんまりにも一生懸命だから…」
立元「あはは、そうなんだ。いいなー一生懸命…ねえ、昔の私の、どこが好きだったの」
 有希、驚いてカフェラテを溢しそうになる。
 一拍置いてから、話始める。
有希「えーっとね…僕の小説を褒めてくれたところと」
立元「結構単純だね」
有希「あとは、イラストが上手なのに、それを表に出さなかったところかな」
立元「ふーん(嬉しそうな表情)もうあれから10年かー」
有希「あっという間ですね」
立元「うん。あっという間だ」
 二人、東京の街を見ている。暗い街に、様々なところから光が集まっている。
有希「東京やいろんなところに行って、いろんな人と出会えて、成長できた様な気がする」
72羽垣宅・中・夜
 羽垣と東、コタツに入ってゆっくりしている。
東「有希さん、大丈夫かな」
羽垣「大丈夫」
73有希宅・中・朝
 時計は月曜日と表示している。
 有希、布団に潜って紙をペラペラとめくっている。「何も言えないで、その日は別れた。明日から、なんでもない日々が始まる。二度目の春だ」
 有希は少し微笑んで「まだまだだな」と呟く。表紙に戻すと、『平成〇〇年合同誌』と書かれている。
 家に散らばっていた書類はすっかり片付いている。コーヒー牛乳を飲み、カバンを背負う。
74同・玄関
 靴を履いてドアノブを閉めようとした時に、何かを思い出して部屋に戻る有希。
75同・中
 テーブルに置かれた手紙を封筒に入れ、カバンに仕舞う。
76同・玄関
 立ち止まり、小さく「行ってきます」と声を出す有希。
77外・朝
 ポストに手紙を投函し、仕事場に向かう有希。
手紙(有希)M「拝啓 立元様。有希です。先日はありがとうございました。とても楽しい時間を過ごすことができました。私はまだまだ口下手で、書き言葉達者なのは健在らしいですが、もしまた機会があれば一緒にご飯でも行きたいと考えています。個展初日にもう一度伺いますので、もしよかったらご一緒できませんか。 有希」
手紙(立元)M「拝復 有希様。立元です。書き言葉になると、なんだか硬くなってしまいますよね。私もです。お話しさせていただいて、私もとても楽しかったです。個展の日、私も伺います。それに、今度もう一度有希さんのライター社に依頼する機会があります。私としては、もう一度有希さんにお願いしたいです。もう一度会うまで、しっかり考えておきますね 立元」
78朱音宅前・昼
 有希、朱音のマンションの近くにやってくると、そこに羽垣を見つける。 
有希「…言葉、言えた!」
羽垣「お疲れ。頑張ったじゃん。おじさんの割には」
有希「おじさんていうな(笑顔)…ありがとう」
羽垣「どいたま」
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