窓から見える月が綺麗だった。窓を少し開ければ、心地よい風が吹き込んで前髪を揺らした。こんな夜を、ただに無為に過ごすのは勿体ない。
「小黑」
无限が一声かければ、耳の良い弟子はすぐこの部屋に顔を出した。
「師父、呼んだ?」
「ああ。この後暇かい?」
小黑の交友関係は広く、家に居ても通話だネットゲームだと予定を入れている事が多い。
「うん、今日は何の約束もしてないよ」
「そうか。じゃあ少し私に付き合ってくれるかい?」
「何するの?」
「晩酌に付き合っておくれ」
立ち上がって、台所に向かう。
「自分で食べるもの作るって言わない?」
「言わないよ」
「僕飲めないよ」
小黑が子供のころ、そうと知らずに飲まされた酒でひと騒ぎ起こしたという話は无限も承知している。ただ、もう随分と前の話ではあるし、自分が好んで嗜む酒はそんなに強いものでもない。
「あれから大分経っただろう。お前も大人になったのだし、舐めるくらいなら試してみてもいいんじゃないか?」
「じゃあ……ちょっとだけ」
「うん」
酒瓶から徳利に酒を移し、揃いの小さな盃を2つ。小黑には、水とおやつを持たせる。
「どこで飲むの? 居間?」
「私の部屋で。月見酒だよ」
「はーい」
さっきまで座っていた椅子に戻り、向かいの椅子に小黑を座らせた。小さな卓の上はほとんどが小黑のおやつだ。
盃に酒を張り、一つを小黑に渡した。小黑は両手で受け取って、手元をじっと見ていた。
「楽になさい。もしお前が暴れても、私が止めてやるから。酔ったお前に後れを取るほど落ちぶれてはいないよ」
「じゃあ……乾杯」
「乾杯」
无限の小さな盃は一口で乾いてしまった。視線を戻して弟子の様子を伺うと、本当にちろちろと舐めている。
「無理はしなくていいんだよ」
「思っていたより大丈夫そう」
そう言って、口に含んで、飲み込んだ。
「それは嬉しいね」
「師父は、僕がお酒に強いほうが嬉しい?」
「強いか弱いかはどちらでもいいんだ。でも、こんな夜に一緒にいてくれると嬉しいよ」
「こんな夜って?」
「月が綺麗な夜とかね」
昔々の友人は、月が出たとか風が心地よいとか、何か理由を付けては无限を晩酌に付き合わさせたものだ。
「じゃあ、これから満月の夜は師父のために空けとくよ」
「それは嬉しいね」
本当は
もっとたくさんの夜をこうして二人で過ごしたい。
言えば小黑が応えてくれるのが分かっているから、无限はずっと本音を飲み込んでいる。