陸奥守と南海と肥前は、揃いの物をいくつか持っている。
 橙と紺と緋で色違いの組み紐、銀製の匙、それから、指輪。
 左手の薬指に合わせて誂えられたそれが所定の位置に収まることはほとんど無いに等しい。出陣の時にもそれ以外の時にも、付けることがない。
 刀剣男士を正しく過去へ送り正しく本丸へ帰還させるため、刀剣男士とその装飾品や武器と予め決められている物質以外は転送できないことになっている。政府の機関へ申請して都度許可を得ることもできなくはないが、余程のことがなければまず許可は下りない。「余程のこと」にあたるのは、審神者が現代へ赴くのに随伴するとか、政府から個別に指令を受け調査へ赴くとか、そのくらいだ。個刃の持物を個刃の都合で過去へ持って行こうというのは、まず無理だ。陸奥守と南海が拳銃に取り付ける消音器を作って持って行きたいと主に訴えたことがあって、肥前まで巻き込まれて懇々と説明という名のお小言を受けたことがある。曰く、どうせ政府が許可を下すことはないから余計な波風は立てるな、目を付けられたら面倒だから、だそうだ。
 実戦に役立ちそうなものでさえ許可が下りないのなら、指輪なんて以ての外だ。揃えた時からそれは承知していたのでそれ以外の時に付けるつもりでいたが、案外とそれもうまくいかなかった。
 まず初めは、陸奥守だった。
 指輪を贈ってからというもの目に見えて上機嫌だった陸奥守は、それこそ出陣以外は常に指に嵌めていた。食事中にも左手に目を留めては相好を崩すものだから、近くにいた刀まで生暖かい眼差しで陸奥守を見守っていて大層居心地が悪かった。
 そんな生活を二週間も続けたある晩、陸奥守が夕餉の最中に突然箸を取り落とした。刀たちの喋り声や食器の触れ合う音が溢れる広間にその乾いた音はやけに響いて、
 ない。
 か細い声で呟いた。次の瞬間猛然と立ち上がった陸奥守はどうしたのかと呼び止める声も振り払って広間を駆け出ていった。十数秒前まで騒がしかった広間は陸奥守の奇行に完全に時を止めている。呆気にとられた南海と肥前は周囲に謝罪を振りまきつつ陸奥守の後を追った。広間を出て右にあるのは風呂場だけだから、当然陸奥守もそこにいるはずだった。
 何があったのかは分からないが、陸奥守が酷く取り乱していたことは南海にも肥前にも分かった。
 果たして陸奥守は風呂場にいた。脱衣所の、碁盤の目に区切られた棚の前、一振りただ座り込んでいる。いつになく丸まった背中に、どう声を掛けてよいものかと言葉が詰まった。
 呆然自失でも、ひとの気配は分かったようだった。弾かれたように振り返って、ぐしゃりと顔を歪める。見たことのある顔だ、と思った。子ども染みた癇癪をぶつけた後、肥前を見上げた時の表情に似ていた。口を開きかけては噤み、開いては閉じる。
 どうかしたのかね。口火を切ったのは南海だった。その言葉にぐっと息を詰まらせて、陸奥守は大きく息を吐いた。吐いて吐いて吐いて吐き切ったところで、
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向き
ぶんとさと指輪
初公開日: 2020年11月25日
最終更新日: 2020年11月26日
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指輪にまつわるぶんとさの話リベンジ