陸奥守と南海と肥前は、揃いの指輪を持っている。
 その話を最初に持ち出してきたのは陸奥守だったが、記憶の彼方に転がっていたそれを再び拾ってきたのは南海だった。
 本丸が発足してちょうど十年の節目の日だった。
 宴も酣、陸奥守が主や他の古参連中と寄り集まっていたときに南海がぽつりと言った。もうあと数ヵ月で、陸奥守くんも顕現して十年になるんだね。この本丸で陸奥守吉行が折れた記録は無いから、そのはずだった。陸奥守が顕現したのは本丸が発足してから三か月後だというから、あと三ヵ月すれば、あの陸奥守が人の形を得てから十年になる。十年というのは、どのくらいの長さなのだろう。
 陸奥守くんが指輪の話をしていたけれど、贈ったら喜ぶだろうか。手持ち無沙汰にグラスの縁をなぞる。
 南海が話しているのは、前回陸奥守が演練へ行った日の、夕餉でのことだった。確か、先週のことだ。何処ぞの本丸の二振りが、揃いの指輪をしていたのだと嬉々として喋っていた。左手の薬指。完全に同じものではなく、互いの瞳の色をした石が嵌め込まれていたのだという。よくもまあそこまで具に見ているものだと半ば感心しつつ聞き流してすっかり忘れていたが、南海はどうやら覚えていたらしい。陸奥守の話を要約すれば「お揃いが羨ましい」だったが、酒気に中てられた南海の中では既に指輪は確定事項であるようだった。
 結局、陸奥守が輪を外れて戻って来たことでその話は霧散した。南海も酔っていたから一晩経てば忘れているだろう、と二振りを各々の部屋に送り届けた肥前は思った。
 だから、数日後に南海が「先日の指輪の話なのだがね」と言い出したとき、肥前は何の話かと一瞬呆けた。南海は酒に弱くとも記憶が飛ぶ質ではなかったらしい。しかも取り出したのがブライダルリングの見本冊子だったから頭を抱えた。本気か、本気だったのかこの先生は。無論南海が行動に移したことが本気でないわけはないので、
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向き
ぶんとさと指輪
初公開日: 2020年11月24日
最終更新日: 2020年11月24日
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指輪にまつわるぶんとさの話(たぶん)