「さ、そろそろ行こうか。ちょうどあんたに見せたい部屋があるんだ、エスコートさせていただけますか、レディ?」
「……ええ、よろこんで。わたしの王子様」
恭しく差し出されたグ・ラハの手をマトリカリアが握ると、二人はゆっくりとタワーの扉を開き、中に歩を進める。
静寂に包まれた塔にカツン、カツンと二人の足音だけが響く。この塔を探検するのは何回目だろうか。鍛錬でも討伐の為でもなく、純粋に探索するというのは本当に久しぶりな気がする。
「……静かだね」
マトリカリアの声が空気を震わせ、天へと抜ける。グ・ラハの手に少しだけ力が籠り、そのぬくもりがじわりと伝わってきた。
「ああ。今日は本当にあんたと二人きりだからな」
「ねえ、見せたい部屋ってどんな部屋なの?」
そう問いかけるとグ・ラハは足を止め、彼女の方を振り返る。
「それは見てのお楽しみ、と言いたいところだけど……そうだな、なんと言うか……妙な部屋なんだ」
妙、と聞いてマトリカリアは今まで見てきたアラグの遺構を思い返す。怪しげな研究施設か何かという事なのだろうか。だとすると門外漢であるとはいえ何度もその文明に接触してきた自分に何らかの意見を求めたくて、ここに招いたという事だろう。そこまで思いを巡らせ、つい表情が硬くなってしまったようで、グ・ラハは優しく微笑み彼女の頭を撫でた。
「安心してくれ。研究施設とかそういうのじゃないんだ。普通の部屋なんだけど……まあ、後は見てのお楽しみだな」
再び歩き出したグ・ラハに手を引かれ、マトリカリアは“妙な部屋”に思いをはせながら彼と二人きりの探索を続ける。
「さ、ここがその部屋なんだ。こんな部屋、なかったと思うんだけどな……」
どのくらい塔を昇っただろうか。少し疲れはじめたその時、見計らったかのように目的の部屋にたどり着いた。その扉は美しい装飾がほどこされていて、すぐ脇に四角く小さな機械が取り付けられている。
「ここが……」
グ・ラハはその機械に近付き何度かボタンを操作するとピピと小さな音がして扉が少しだけ開いた。