夕方、仕事帰りの時は、職場から少し離れたカフェに必ず立寄る。その店のコーヒーが特別美味しい訳では無い、そもそもその店はチェーン店だ。サービスが良い訳でもない、むしろ店員の愛想は最悪だ。
「……ようこそ」
「あっ、どーも……」
目つきの悪い不健康そうな店員は、不機嫌そうにオーダーをとるし。
「注文の品だ、ありがたく思え」
「……どうも?」
何故かいちいち上から目線だ。
どうしてそんな店に毎日通っているのかといえば、家と職場の間のカフェはそこくらいしか無いからだ。いや、厳密に言えば他にも何店舗かは違うカフェもあるが、職場に近すぎたり、家に近すぎたり、知り合いに会う可能性があるから避けたい。その上、よく通っているこのカフェは、立地が悪いのか店員の態度が悪いのか、いつ来ても客が居ない。
「……よく来たな」
「どーも」
この目つきの悪い黒髪の青年の挨拶のレパートリーは中々に多い、多い上にどれも偉そうだ。
「注文は?」
「あー、えーっと、どれにしようかな……」
「……早くしろ、のろま」
接客業にあるまじき暴言も時折出てくる、レジ前で3秒悩むことすら許されないし。
「受け取れ」
「あ、ありがとう」
「感謝が足りん」
「えっ……」
ありがとうのおかわりまで要求される。
そう聞いたら、なんでそんなカフェにわざわざ行くのが疑問に思われるかもしれない。家の近くや職場の近くに別のカフェがあるんだし、そっちに行った方が良いとも思われるかもしれない。
ただ、このカフェに通っているのは、知り合いに会いたくないというだけではなくて。
「その本」
「……えっ?」
「貴様が読んでるその本」
「この本?」
「ああ、表現は陳腐だし語彙も貧困で正直読めたものでは無いが、まあ、登場人物の心理描写はモータルにしては上出来な部類に入るな」
「……褒めてる、のかな?」
この無愛想な店員と本について話すのが楽しいのだ。
彼も中々読書家みたいで、なにか新しい本を買って読んでいたら、必ずひとことふたこと、本についてのコメントが貰える。
「その作者の言葉選びのセンスは壊滅的だが、伏線をちゃんと拾っていく話の作り方はまだマシだ」
とても偉そうに上から目線な言葉だけれども。
それでも彼が少しでも褒める時は、その本を面白いと思っている時で、面白くないと思った時は全く褒めない。
『内容がくだらなさすぎて目が腐りそうだった』
『焚き付けにもならない本だ』
『こんな本を書いておいて作家を名乗ることが許せない』
辛辣に罵るだけで終わるのだ。
彼がそう言う時は、自分も似たような感情を本に抱いていて、もちろん、彼ほど苛烈な感想ではないけれど。自分が、面白いと思った本を、あの店員も少しは褒めて、そうでもないなと思った本を、あの店員も酷く扱き下ろして。
そういうことを何度か繰り返しているうちに、愛想のない目つきも悪い、あの店員に、シンパシーを感じてしまったのだ。
だから、今日もあの人気の少ないカフェに行く。
「いらっしゃーい」
休日にカフェへと足を運ぶと、そこにはニコニコ笑顔の店員が居た。
「注文は何にします?」
「あ、えっと……」
「オススメはコレですかねー、期間限定なんですよ!」
ちらりとカウンターの奥へ、テーブル席の方へと視線を移す。普段は一人しかいないカウンターの奥には複数人の店員が、忙しそうにオーダーされたコーヒーを作っていて、いつもは閑散としているテーブル席も、空きはあるものの、多くのテーブルに客が居る。
そのどこにも、あの不機嫌そうで、本に詳しい彼の姿は無い。
「注文決まりました?」
「あ、はい」
店員に促されるまま、その期間限定のコーヒーを頼んでいると、カラコロと背後の扉が開き。
「あーっ!ロキちゃんじゃん!どうしたの?」
「うるさい気安く呼ぶな」
そこには探していた彼が。
「ロキィ、友人をそう邪険に扱うな!」
「奴は友人ではない」
「えーっ!ひどい!」
「そうだ!ひどいぞロキ!」
「なんなんだ……」
大柄の男と一緒に現れた。
彼のことを、ロキちゃん、と呼んだ店員と、彼の隣の大男が彼に話しかければ、うんざりとした表情で返事をしている。その彼、ロキから視線を外せないでいると、ふと、ロキがこちらを見て。
「……をお待ちのお客さまー」
「……」
そのまま、視線はかち合わずに外される。
「おいソー、何を頼む」
「うーん、そうだ、お前はいつもここで何を飲んでるんだ?」
「水」
「嘘をつくな、じゃあ何かオススメとか、あるだろ、ここの店員やってるなら」
「水」
「嘘をつくな」
ロキは隣の男と、ひとこと、ふたこと以上の会話をしていて、その上なんだか、楽しそうな顔をしていて。
「お客さま?」
たぶん、自分はもう二度とこの店には来ないだろう。
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カフェ店員のロキてゃ
初公開日: 2020年11月11日
最終更新日: 2020年11月11日
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態度が悪いカフェ店員のロキてゃのお話