休日のお昼、天気は良好、日差しは暖かで、ちょっとそこまでお出かけしたくなるような素晴らしい日。
こんないい日には昼間っからパブにでも行って、ぬるいエールを片手にバカ騒ぎしたいものだと、ソーは常々思っている。なので、こんな素晴らしい日にソーがパブなりなんなり、お酒を提供するようなお店以外には居る時は、十中八九ロキの付き添いである。
もう既に服だか靴だかを見るために何軒ものブティックを回った。気に入った服や靴を探すロキ、それはいい、ロキはオシャレさんだからこうやって定期的に最新のトレンド的なものを探しているのは、故郷が爆発四散する前からのことであったから見慣れたものだ。ただ、地球に来てからのロキというものは、服屋に行くのにもソーの付き添いが必要で、それはまあ、過去の行いを鑑みれば当然ではあるが。とにかく、ロキが服を欲しがればソーはそれに付き合わなきゃいけないし、お気に入りの服を見つけたら見つけたで、いくつかの服をソーの目の前に出して、どっちが似合うと思う?なんて聞かれるのだ。ソーには出してくる服の違いが正直よく分からない。色味が違うような、ボタンの数が違うような、なんとなくヒラヒラしているような、それでもどっちも同じような。
その上ソーが適当に、こっちが良いだの、さっきのが良いだの言ってしまえば、どうしてそっちを選んだんだ!?私の事なんて興味無いんだ!などとロキがへそを曲げてめんどくさい事になるのは確定なのだ。
ロキの後ろを少々ぐったりしたようについて行くソーは、楽しげに買い物をするロキを見ては苦笑いをする。ソーと一緒に行く買い物は、軟禁状態であるロキの数少ないリフレッシュのひとつなのだ。
だからといって、何軒も何軒も服屋を巡るのは、ソーであっても疲れるものだ。
「……ソー、疲れたのか?」
「えっ?ああいや、大して疲れては……」
「ソーが疲れたって言うんなら仕方がないな!ちょっと休憩しようじゃないか!」
ソーの返事なんて聞きもせず、ロキはスマホの地図アプリをソーに見せる。
「このカフェのケーキが美味しいらしいぞ、ここに行こう」
「まあ、そんな遠くはないな……」
ソーの言葉に、ロキはウキウキとカフェへと歩みを進める。そんなロキを横目にソーは思う、ソーが疲れたとか関係なく行くつもりだったと。
「ソーが疲れたって言うから行くんだからな、私は別に疲れてないからな!」
「そうだなそうだな」
「あっ!めんどくさいって流そうとしてるな!」
「そんな事ないそんな事ないぞロキ〜」
「返事が適当すぎる!」
やいのやいのと言い合いながら、賑やかな人達ねと周りの人を微笑ませながらカフェへと向かうふたり。
目当てのカフェは、こじんまりとしているが小洒落た所であった。ウェイターが席まで案内し、オシャレなメニューを渡してくる。ちらりとメニューを眺めれば、その中身もオシャレでいっぱいで、ちょっとソーには分からないものもいくつかある。
するとロキが下がろうとするウェイターを呼び止め声をかけた。
「オススメのケーキなんかあるのか?」
「ええ、こちらのザッハトルテは自慢のものですし、ああ、こちらのモンブランも季節限定のケーキでして、イチオシですよ」
「むむ、ザッハトルテ……モンブラン……」
ロキの視線がメニュー上をさまよう、ロキがこうなると長いのだ。うーん、うーん、と悩むロキに、ソーは何度目かわからない苦笑いをひとつ。
「すまない、このザッハトルテとモンブランをひとつずつ、あとコーヒーと、ロキ、お前は飲み物どうするんだ」
「んえっ!?あ、紅茶を」
「かしこまりました」
メニューを復唱したウェイターがそのまま下がると、ロキはちらちらソーに視線をよこした。
「どうしたロキ」
「いや、ソーの食べたいケーキ頼めばよかったのにと思って……」
「そうか?俺も食べたいケーキ頼んだだけたぞ?」
「そうなのか……?」
ソーの返答を聞いても、もじもじちらちらソーに視線をよこすロキに、ソーは片眉を上げ言葉を促した。
「その、ソーはどっち食べるつもりで」
「んー?お前はどっち食べたい?」
「……ザッハ、いや、モンブラン」
「じゃあ俺がザッハトルテだな」
「あと、あの」
「うん?」
「その、ザッハトルテも、ちょっと食べたいから……」
「ああ良いぞ、その代わりモンブランも少しくれよな」
ソーの答えに目を輝かせるロキに、ソーのえみも深くなる。ロキのこういう所が、ソーにはたまらないのだ。
そうこうしているうちに、ケーキがテーブルへと運ばれてきた。マロンクリームの上に栗がちょこんと鎮座するモンブランに、チョコレートがたっぷりとかかっているザッハトルテ、見ただけで美味しいであろうと思えるような美しさである。
ロキはモンブランを前に、満面の笑みでフォークを入れ、一口分をすくい、食べる。
「ん〜〜〜〜〜!!」
「美味そうだな」
よほど美味しいのか、歓喜の声が漏れ出るロキ。もう一口、もう一口とフォークを進めていく。
そんなロキにソーも笑いながらザッハトルテを一口食べる。
「ん、美味いな」
「…………」
じっ、と、ザッハトルテを食べるソーを見つめるロキ。ああ、ザッハトルテも食べたいんだなとケーキを皿ごと渡そうとしたソーだが、あることを思いつく。
ザッハトルテにフォークを入れて、一口分をすくい上げてひと言。
「ほら、あーん」
「はぁ!?」
満面の笑みで、あーん、をするソーにロキは素っ頓狂な声を出す。
「ほら、食べたかったんだろ?あーん」
「自分で食べられる!」
「まあまあ、早く食べろよ」
あくまで、あーん、でケーキを食べさせようとするソーに、ロキも眉根を寄せ、ソーの腕を掴んだ。
「んあ、むっ」
「はは、そんなにあーんしたくなかったのか?」
「当たり前だろ……ん〜〜〜!美味しい!」
「まだ食べるか?」
「ん、もう少し食べたいな」
ロキの言葉にソーはニヤッと笑ってケーキをすくう。
「やめろ!普通に食べさせろ!」
「ほら、あーん!」
「くそっ!あーん!」
ソーの手ずからケーキを食べたロキ。周りの視線が恥ずかしいだの、子供じゃないんだぞだの、モゴモゴ何か言っていたが、ソーがケーキをすくって寄越せば、不服そうにあむっと食べる。
文句は言いつつ素直にソーの手からケーキを食べるロキに、ソーも笑顔が止まらない。
ふと、
そんなふたりを見ていた人が、ひそりと笑って言う。
「可愛らしいカップルかな?」