先のサノスによる様々な暴虐により、世界中が、いや、宇宙中が疲弊している。アベンジャーズの働きにより、失われた半数の命はまた再び戻ってきたが、戻ることの出来なかった命も多数いるのだ 。
ソーも弟を取り戻すことが出来なかった。周囲の人々はソーのことを気遣い、心配し、地球のアスガルドから離れる際もどうか気をつけてと暖かい言葉を与えてくれた。宇宙の旅で家族を失った悲しみが少しでもおさまるように、また新たな希望を見つけられるように。
だからソーがその後すぐに地球へとんぼ返りした時は驚いたものだった。
「ロキを見つけたんだ!」
「う?」
腕の中に彼の弟そっくりな赤ちゃんを抱えていたから。
のどかな漁村のニューアスガルドは今日も今日とて平和であった。網を抱えて仕事に向かう人々や、とれたての魚をさばく人々がみな穏やかそうに話をしている。
「きゃーっ!」
「はは、流石に海の水が冷たかったか、ロキ」
その中に居る海パン浮き輪姿のソーとロキは少々浮いてはいるが、特段珍しいことではないので誰も気にしなかった。
道行く人々も、ソーの腕の中の赤ちゃんを見るなりひとことふたこと言っては仕事や生活に戻っていく。
「そんな薄着させて、ロキちゃん風邪ひいちゃいますよ!」
「馬鹿言え、ロキちゃんも少し寒い方がちょうどいいに決まってるじゃないか」
「確かに、青くなったロキちゃんも可愛かったねぇ」
「ははは、お前も人気者だな」
「あう?」
ロキちゃん元気?ロキちゃんばいばい!なんて道行く人々に声をかけられる、その度にロキは笑顔を振りまき人々の心をさらにギュッと掴むのだ。
ソーはひっそりと息をつく、ずいぶんとアスガルドの民たちに受け入れて貰えたものだ。
最初、ソーが遠い宇宙からロキそっくりの赤ちゃんを連れ帰った時、そりゃあもうみんなたいそう心配したのだ、弟恋しさにソーがどこからか赤子を誘拐したのではないかと疑いもした。
ちょうどステイツマンが崩壊したあたりにロキは居たと、ロキは魔法を使えるから自らの身体を蘇生させたんじゃないかと、その際大きな身体だと不便だから、省エネな身体に変化させたんじゃないかと、ソーがみんなに説明をしても、周りは悲しげに顔を見合せ、どうやってロキが死んだことを受け止めてもらおうか悩んでいた。そんな時にロキが泣き出し、氷を撒き散らし、肌も青くなったのを目にして、ようやくこの赤ちゃんがロキなんだと納得したものだった。
そんなこんなにで民たち受け入れられたロキは赤ちゃん用の水着を着て、寒々しい海辺の砂場を元気いっぱい駆け回っている。
そんなロキを見つめる人影がふたり。
「あーんな小生意気でいけすかない奴でも、赤ちゃんになったら可愛いもんだね」
「そうか?ロキは小生意気な所も可愛いだろ?」
「それはさすがに理解できないわ」
海パン姿のソーに、服を着ているブリュンヒルデである。浜辺をてちてち駆け回るロキからは目を離さずに、穏やかに会話をするふたり。
「今度はあんな生意気なクソガキにならないように育ててよね」
「ああ、もちろんだ!」
ソーの自信に満ち溢れた声に、ブリュンヒルデは胡乱な目をする。この男の弟への溺愛ぶりは誰もが知るところで、赤ん坊のうちから散々に甘やかしているのだ。このまま甘やかし続けてロキが育っていけば、以前のロキなんか目じゃないくらいのわがまま放題の高慢ちきになりそうだ。
すると浜辺で遊んでいたロキが突然泣き出した。
「ふゃぁぁぁぁ!」
「ああロキ!どうしたんだ!」
もちろんソーはロキの所へすっ飛んでいき、抱き上げては、どうしたんだ?ころんだのか?寂しかったか?と必死になってあやす。抱き上げられたロキも全身を使って、今自分は機嫌が悪いんだ!と言わんばかりに暴れている。
「びゃああああああ!ふびゃああああ!!」
「おーよしよし、俺がついているからな、いい子だいい子だ」
よしよしいい子だとあやし続けると、泣き疲れたのかロキはソーの腕の中でくったりぐっすり夢の中。そんなロキにソーも静かに笑って、海水浴用の道具を片付け始める。
浮き輪にボールにバケツにシャベル、家から持ってきた玩具をまとめて持って、帰り支度を済ませたソーに、呆れ顔のブリュンヒルデは言う。
「ちょっと甘やかしすぎじゃないの」
その声に、ソーはロキの寝顔を一瞥してへらりと笑って言うのだ。
「こんなに可愛いんだから、仕方ないだろ」