雨は降らない。水源豊かな邦といわれた、記憶の中にある故郷の姿からは程遠い光景が広がっていた。
畑の土は乾燥して風に飛ばされ、水田からは水が消え失せて地面がすっかり燥いでいた。雀の涙程度の雨が降ったところで、割れた地面の隙間にほんの少し吸い込まれて終わりだ。
精霊の、あるいは水神様の加護が失せたのだと人びとは騒ぎ、機嫌を取ろうと好き勝手に案を出し合う。そしてなんの根拠もなく、ただ昔近隣の邦にそのような風習があったというだけで馬鹿みたいな案が採用された。
「すまないが、これも邦のためじゃ」
目の前にいるのははげ上がった頭を下げた長だ。ダメ元であるという自覚はあるのだろう。そして犠牲を強いていることも。
「俺としては、生贄に出されて死ぬだけかと思ってたんで、むしろ好都合とも思いますがね」
花嫁衣装を着せられ、両手一杯の酒を持たされ、なけなしの米と干し肉を腰から下げ、怪しさが隠しきれない剣を背負って山を登れというくらいなんてことないのだ。そこに精霊なり水神なりがいたら、好きな供物を選べと迫れと。最終手段は人の身なので、犠牲になる可能性はまったくもってゼロではない。
喚くのもみっともないと、淡々と山道を往く。古くに立てられた社を目指していけば、人の足でも2日もあれば辿り着く。だがそこには精霊の姿も、水神の姿もなかった。
「そりゃそうか」
誰も姿を見たことなどないのだ。ただ力ある者がこの社にいるのではないかと勝手に崇めただけで、精霊も水神もいやしないのだ。そう、元から。
その割には違和感があった。山奥に住を構えていたときには時折社を遊び場にしていたものだが、なんとなくあの頃の社には生きた気配とでもいうものがあった。子供心に、なにかがいると。
薄ら寒さを感じたその時、背後に影。大きく口を開いた大蛇がいた。直感が告げる。
こいつに喰われたのだ。
両腕に抱えた酒をその大口に放り込んでやった。
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即興小説15分
お題:弱い水
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【書く前】
強い水弱い水。弱い?水属性が弱い、効能が弱い、聖水的なものなのに効力が弱い、精霊的なものか、SF的なものか
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【書いた後】
人には知覚できない水の精霊的なものが住んでたけど、弱すぎて突然現れた化け物に喰われたとかそんな感じの。御伽噺っぽいのだったら、この後大蛇を倒して腹をさばいて消化されきってない精霊を助け出してめでたしめでたしかな
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