「……このケーキ、本当に全部椎名さんが作られたんですか?」
マヨイはケーキを食べる手を止めて、たまたま隣に来たニキにそう尋ねた。
四段に重ねられたケーキは白い生クリームと苺で飾られ、こんなに大きいのに決して大味ではなく、どこを切ってもらっても美味しかった。 食が細い方なのに、ついもう一切れ食べたくて切り分けてもらったほどだ。「そうっすよ〜! 突然、こんなもの作れって言うとか燐音くんは、本当横暴っす」 ニキの誕生日会をすると連絡を受け集まった人々が会場内の至る所にいる。
こんなに人が集まるのも人徳なんだと、マヨイはそう思いながらフォークを口に運んだ。
柔らかなスポンジとクリームが口の中でとけて、甘酸っぱい苺の味が続いて広がる。
「美味しいですねぇ。
前にスイーツ会に差し入れしていただいたケーキも美味しくて……あの時は本当にありがとうございました」
「いやいや〜、喜んで貰えて嬉しいっすよ♪
あの時の経験がスイーツコンテストにも役立ったし、率直な感想聞かせて貰えて感謝してるくらいっすよ♪」
「私たちは美味しくいただいただけなのに、そんなことを言っていただけるなんて……役得ですねぇ」
会場内にはスイーツ会のメンバーも全員いる。
呼んでもいいと言われたとグループメッセージでこはくが声をかけてくれたからなのだが、ニキの主催なら行こうかと思えるのはやはり人当たりの良さだとか、日頃の行いに違いないと、自分とはまるで違うように思えるニキについて思いを馳せていた。
マヨイ自身、人と馴れ合うのは得意ではないからこれが他の人だったら、今頃天井裏から覗いているだけだったのかもしれない。
(……椎名さんみたいな明るくて接しやすい方こそ、アイドルに向いてるんですねぇ)
「……燐音くんには色々言っちゃったっすけど、やっぱりこうやって色んな人が集まってくれて、僕の作ったものを美味しいって言って食べてくれる姿を見ると、料理人って天職だなぁって思うっす。
本当、いつアイドル辞めることになっても僕は構わないっすよ」
「え……っ?
や、辞める……?」
聞き間違いかと思い、マヨイはそう聞き返したが特に間違いではないらしくニキは否定することなく不思議そうにマヨイを見ている。
「そうっすよ。
僕は無理やりアイドルになれって連れてこられただけなんで、やっぱ料理人もいいなぁとか……」
「わ、私は……嫌ですよ。
もっと椎名さんが歌っているところが見たいですし、アイドル……合ってると思います。
私なんかよりずっと」
「そうっすか?
マヨちゃんのほうが歌もダンスも上手だし、僕なんかよりもずっと立派なアイドルっす」
曇りなくそう言われて、本心なんだと理解した。
そして同時に急に寂しくなってしまった。
自分が好きでこれからも愛でていきたいと思うところをあっさり捨ててしまえる潔さが、悲しかった。
普段なら他人にこんな干渉なんてできる存在じゃないと躊躇うはずなのに、気がつくのニキの袖を掴んでいた。
「ら、来年も……!」
ニキが不思議そうにマヨイの方を覗き込む。
マヨイの方から自分に触れるなんて初めてのことだった。
「来年もこうして……私にケーキを作ってくれませんか?」
「えっ……いいっすけど」
何を言われるのかと思い身構えたニキから急に力が抜ける。
「その時僕がどこにいるかわかんないっすけど、料理はきっと作ってるはずなんで、マヨちゃんのとこに作りに行くっすよ」
「……そ、そうではなく!
来年もまたこうして……アイドルとしてここにいて、そのうえで作ってる欲しい……です」
「……そ。それは、どうっすかねぇ?
ほら僕ってこんな感じだし……」
「他の方もそう望んでると思います。きっと。
少なくとも私は」
「いや…だから……できない約束はしたくな……」
「もうお腹空いてる時に匂い嗅がせてあげませんよ」
思いの外強い口調でマヨイがそう言って、ニキは目を丸くした。
そしてすぐに表情を崩してマヨイにすがりつく。
「それは困るっすよぉ!
何回か命救われてるんすから……!」
「では、約束」
小さな子がするように小指を突き出したあたりで、何故自分はこんなにムキになってしまったのかと恥ずかしくなってきた。
柄にもない。
こんなことを他人に約束させるなんて。
下げようとした小指にニキの小指が絡められ、一度大きく上下に振った。
「約束っす」
「はい」
にこっと微笑むニキにつられてマヨイも微笑み返す。
「こんなふうにいろんな約束が増えたら、結局ここから身動きできなくなりそうっすね」
ニキは不満そうにそう言ったが、きっとそれを願っている人が自分だけではないとマヨイは思い、結局何も言わずに曖昧に笑って終わらせた。
「……あっ、そういえば、私からお渡ししたいものがあるんです。
気にいっていただけると嬉しいんですが……」
鞄の中に入れたままになっていたプレゼントの存在を思い出し、取り出すとニキにむかって手渡した。
「