指切りげんまん。また明日。嘘ついたら――。
 そうやって、無垢に笑っていた日々を懐かしむ。根拠のない約束を繰り返す毎日。でも、幼い自分たちにはそれが何よりも大切だった。時が経って、もう随分色褪せてしまった景色だったけれど。
「ああ、楽しかった! 今日は会えて良かったよ。何年ぶりだっけ?」
「八年ぶり、だよ」
「そりゃあ私たちも大人になるよねぇ!」
 ほろ酔いに感情を任せて、私はけらけら笑う。そんな私を見て、彼女は薄らと笑っていた。
 今日は二十歳の年に、と企画されていた同窓会だった。そこで私は小学生時代の親友に再会した。私が卒業と同時に引っ越してしまったこともありずっと連絡を取っていなかったのだが、彼女のことはひと目で分かった。真っ直ぐな黒髪に、陶器のような白い肌。不思議なほど赤く熟れた唇。当時から美少女と評判だった彼女は、幼い頃の甘い空気を微かに残したまま大人になっていた。
 ひと目で分かったのは向こうも同じだったようで、私たちは離れていた時間などなかったかのように語り合った。同級生たちと別れた後も二人で居酒屋に居座り、終電の時間となって今ようやく解散しようというところだった。眩く点滅する繁華街を歩き、改札をくぐる。残念ながら電車は逆方向だ。
「今は、どの辺に住んでるんだっけ?」
「○○駅の近くだよ」
「じゃあ、また会えるね」
 彼女につられて私も笑う。子供の頃は遠く離れてしまったと思ったが、今となっては大した距離ではない。電車でも車でも駆使して会いに行けるし、一人一台スマートフォンを持っている時代だ。連絡先も交換済みである。
「また連絡するよ」
「絶対よ。また会ってね」
 頷き合うと、彼女はおもむろに小指を差し出した。指切りの形。
「懐かしいなぁ。よくこうやって指切りしたよね」
「……懐かしい、か。私には昨日のことのようだけど」
 不意に、彼女の声音が硬くなる。どうかしたかと私が声をかける前に、責めるような口調で彼女は付け足した。
「また明日って約束したのに、貴女はいなくなってしまった」
 少し考えて、引越しの時のことだ、と私は思い至った。あの時は本当に急なことでロクに挨拶も出来なかったから、また明日、と言ったまま八年も経ってしまった。
「あれは、親の都合で……もうそんなことないから大丈夫だよ」
「本当? 約束よ」
 そう言うと、友人は私の手を取った。胸元に持ち上げ、するりと小指を絡ませる。呆気に取られていると、彼女は微かに口の端を歪めて笑った。
「……こうすると、鎖、みたいよね」
 なぜだか、肌が粟立った。ただの例え話だ。幼い頃の再現だなのに、なぜ――気味が悪いと思うのだろう。
 私は咄嗟に手を引こうとした、予想外に強い力で引き戻された。
「指切りげんまん、嘘ついたら」
 指を絡めたままの二人の手が緩やかに上下に振られる。重なり合った肌の部分は、氷が張り付いたように冷たかった。
「嘘ついたら――今度こそ許さないわ」
 友人は笑っている。けれど私は、そこに昔のものとは違う何かを見た気がした。
おわり。
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向き
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突発SS
初公開日: 2020年09月26日
最終更新日: 2020年09月26日
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コメント
オリジナルで短いのを突発的に描きたくなったので
雪と骸
書き終わらなくても一時間くらいで終わる予定。書くのがめちゃくちゃ遅いのはご了承ください。 雑な…
イツキ