「この前なんて、屯所の門前で待ち伏せされてて。ずっと前から好きでした、だとよ」
「フーン...」
冷ややかな視線を俺に向けながら、女は本日五枚目の酢昆布を小箱から抜き取った。
「でも、また断ったんダロ?」
ここで「OKした」と返せば、この女は動揺したりするんだろうか。
「......まーなァ」
そんなことを考えながらも、俺は嘘偽りのない事実を述べる。
不毛な賭けには出ない主義。そしてなにより、心が繊細だから。
「見ず知らずの女に、いきなり告られてもなァ...相手は俺に一目惚れだったらしいけど」
「まあ、分からなくもないケド。少しくらい興味持ってあげろよナ」
「......ぁん?」
分からなくもないって、なんだ。
いきなり告られたの部分?一目惚れの部分?
つーか、俺は今「知ってる女だったらいいアルか...?」っていうフラグを期待してたんだけど。
「じゃあ何かィ、テメーは振った記念に連絡先でも聞くってのか」
「オマエ、ほんとひねくれてるアルな。そうじゃなくて、気持ちはありがたいけど〜とか、一言添えろって言ってるネ」
「んなもん、俺だって...」
あり?言われてみれば俺、いつもどうやって返してたっけ。
多少の社交辞令は踏まえている気もするが、明確に思い出せない。
「...チッ、」
「...何アルか。自慢話したり舌打ちしたり、忙しい奴アルな」
そもそもはチャイナのせいだ。
『好いた女が他にいるんで』
こう断れたら、どんなに良いだろうか。
『彼女いるんで』
こっちだとさらに良いな。
俺に振り向いてくれない、彼女でもないお前が悪い。
〜モブに告られる沖田くんのシーン〜
「げェ、こんなところまで来ちまったのか」
通りかかった道の途中、万事屋銀ちゃんの看板が目に入る。
スナックお登勢の店先では、新八くんと見知らぬ男がなにやら話をしていた。
「ええ、はい。...ではまた。伝えておきます」
男は新八くんに一礼して、去っていく。
「...あれ、沖田さん。こんにちは」
「奇遇だねィ。...今の、仕事の依頼かィ?」
「いえ...どうやら神楽ちゃんに用があったらしくて」
「...チャイナに?」
新人ハンターとして宇宙に行っては、たまに帰ってくるあの女。
「今はこっち(地球)にいるんだっけか?」
「あっち(宇宙)です。だから今は不在だとお断りしたら、手紙だけでもと...」
預かっちゃいました、と一枚の便箋を見せてくる。
「手紙?」
「ラブレターですよ。最近、神楽ちゃん宛てのものが多くて。まったく、自分のでもないラブレターを預かる僕の気持ちも...」
「ラブレターだァ?あの女に?」
「え?あ...はい。神楽ちゃん、期待の美人ハンターとしてメディアでも取り上げられたりしてるので...一目惚れも多いんだとか。万事屋のメンバーであることも知れ渡って、仕事の依頼でもない電話が殺到してるんですよねえ〜」
僕も銀さんもひねくれ気味なんです、と新八くんは笑った。
「一目惚れ?殺到?そんな話、あいつは一度も...」
「沖田さん、ご存知なかったんですか?神楽ちゃんとは他愛もない話をすることも増えて、僕は少し微笑ましく思っ...」
「チッ、あのクソ女...」
分からなくもないって、そういう意味だったんかィ。
...なんか俺、すげェ格好悪ィじゃねェか。
(...あれ?まだまだ好敵手のままなのかな)
お節介な眼鏡の胸の内など、知る由もなかった。
*
『最終確認だ。一番隊は南ゲート』
「配置完了してます。どーぞー」
最新型の宇宙船が初飛行するとかで、大々的に行われるターミナルでのセレモニー。
名だたる重鎮が集結するにあたり、真選組も総出で警備にあたることになる。
「...ん?何でィ、あれ」
一番隊が担当する南ゲートの入口には、花束やプレゼントらしき箱を抱えた男達が列をな していた。
「こちら沖田、南ゲートに妙な人だかりが。関係者入口は反対方向のはずですが、どーぞー」
『トラブルの一因にもなりかねん。少し話を聞いてきてくれ、どーぞー』
無線を切り、慎重に近づいてみる。
「あのー、おたくらはここに何の用で?」
「いえね、神楽サンが今日帰ってくると聞きつけて...」
「何だ、君も出待ちか!」
「当たり前だろ、一目見りゃ分かる。ここにいるのは神楽サンにアプローチをしにきたライバルだ!」
神楽サン?
...こいつら全員、チャイナのファンだってのか?
そういや帰ってくるってニュースで言ってたなァ、海外VIPの来訪じゃあるめェし...
ま、俺はもっと前に本人から聞いて知ってたけど。
(...どーする。出待ち...ビミョーな線だなァ)
今すぐにでも排除してやりたいところだが、どう理由をつけるべきか。
「おっ、あの便だ!お出ましか!?」
南ゲートが開いて、乗客が次々と降りてくる。
男達は、今か今かと到着を待ちわびていた。
(なんでこんなパンピー...よりによってチャイナの出待ちごときに手こずってんでィ、俺は...)
「うわっ!?何ネ、この人だかり!」
マントから覗く、派手な色の髪。
聞き慣れたソプラノが、脳内に響き渡る。
「か、神楽サン!神楽サンだ!」
「あなたの帰りを待ち望んでいました!」
「さあ、どうかこれを...!」
一斉に、チャイナの周りへ群がる男達。
「ちょ、待っ...!ここじゃ迷惑になるア...わぷっ、」
「チャイ......」
埋もれてしまった小柄の女に、手を伸ばそうとしたその時。
「はーい、そこまで。退いた退いた」
黒いマントを羽織った長身の男が、チャイナの背後から現れた。
「彼女の言う通り、ここじゃ迷惑だし。とりあえず退いて〜」
「...うお、あ、ちょっ、おい押すな!誰だお前!」
ブルドーザーのように、一瞬にしてチャイナの周りから男達を突き放す。
「...ほら、言った通りだったでしょ?僕がついていて良かったね、神楽チャン♡」
「え、あ、...ハイ...」
ドヤ顔で微笑む男の頭上には、YOUR WIN!というゲーム文字の幻覚さえ見えた。
「あ、あの、ありがとうございますヨ。プレゼントはハンター協会本部に送ってもらえると助かるアル...」
チャイナは疲れきった表情で、ゲートを通り過ぎていく。
「あー、それか今は俺に預けてくれる?重い荷物を持つのは男の役目だから」
...おい、一体誰でィ、このチャラ男。
「ソウさんは次の星に行く準備がありますよネ?だいたい今回だって、遠回りなのになんで私と同じ船に...」
「神楽ちゃんを守るためなら、このくらいなんてこそないさ」
「私はそんなこと頼んだ覚えは...」
喋っているうちにも、チャイナの足元はだんだんふらついていくばかり。
「神楽ちゃん、危ない!」
何もないところで躓いたチャイナを、咄嗟に受け止める。
「...ぼさっとしてんじゃねェや、クソチャイナ」
「沖田...?なんでここに...」
「仕事」
「ちょーどよかったアル...パトで万事屋まで送れヨ...」
腕の中のチャイナの頭が、次第に重くなっていくのが分かった。
「仕事中だっつってんだろィ。パトカーはタクシーじゃ...」
「わたしねむいアル、つかれたアル、限界アル...」
こてん、と一点に重心がかかり、そのまま動きは停止する。
「...寝やがった」
しかも、立ったままで。
「...キミ、神楽ちゃんの知り合い?」
一方で、男は静かに詰め寄ってくる。
よく見れば、俺と同い年くらいの青年。
「...まァ、腐れ縁ってところ」
「...ふうん」
頭から爪先まで、一通り見下ろされた。
「ジロジロ見てんじゃ...」
「あのお巡り、神楽サンの知り合いだったのかよォ!!」
「ずりいよォ、チクショー!!」
いつの間にやら、チャイナのファン達は走り去っていく。
謎の負け犬の遠吠えを残して。
「...アンタ、どっかの星に急がなきゃいけねェんじゃ?」
仕方なく、眠り姫を抱えて男に背を向ける。
大人気なく、勝ったと思ってしまった。
「...その前に、少し話をしないか?」
男は、どうやら俺に宣戦布告を仕掛けたいようで。
「...マジで時間大丈夫?」
「...キミこそ」
......隊の指揮は、神山にでも任せるか。
*
今日はここまで。ハートなどもありがとうございました(><)!