「ちょ...っ、はなしてくださいアル」
今日出会ったばかりの金髪男は、私の手首に長い爪を食い込ませる。
「ここまでついてきたってことは、同意の上じゃないの?」
「は?...私は、家の方角が一緒だからって...」
「やだな、こっち曲がったらホテル街だよ?もう子どもじゃないんだから、嘘だって分かるよね?」
そう指摘された時点で、私はまだまだ子どもだと思った。
冴えないメガネ男子達と帰っていったルミちゃん達のところへ、今すぐ引き返したい。
「君がダントツに可愛くて、正直で、帰り道が逆で良かったよ。てっきり乗ってくれたんだと思ってたのに」
「誰が...!つまんなかったから、やっと帰れると思ってたところアル...!」
「冷たいな。そう言わずに...ね?」
お酒で火照った体、ヒールで定まらない重心。
だから、合コンなんて嫌だと言ったのに。
「...困ってんでしょ。離してやりな」
男の腕を掴んだ声の主は、忘れもしない人だった。
「......沖田?」
「...よう。卒業以来だな、チャイナ」
亜麻色の髪と、夜に溶ける黒のジャケット。
青いプリントTシャツを学ランの下に着ていた数ヶ月前より、はるかに大人びている。
「...誰、あんた」
「...通りすがりの高校の同級生。とりあえず、大きい声出しちゃっていいすか?オニーサン」
「......やめた。大人の世界をちゃんと知ってるオネーサンつかまえるから」
静寂に包まれた僅かな睨み合いを経て、金髪男はあっさりと身を引いた。
「...お前みたいなガキに興味無ェってよ、あのチャラ男」
さっそくナンパに繰り出た男の背中を見届けながら、沖田がネクタイを緩める。
「......こわかった」
「......断れずに合コン、ってところか。ま、俺も人のこと言えねェけど」
「...沖田も?」
言われてみれば、女物の香水の匂いがプンプンした。
「...けーるぞ」
気の利いた言葉をかけてくれないのは、相変わらず。
そういえば、コイツの家もこっち側だっけ。
沖田は私のことをそういう目で見ていないから、さっきみたいな展開になる心配はない。
「...良いなって思った子、いた?」
何を話せばいいのか分からず、そんなことを聞いてしまった。
ばかだなあ、私って。
「......まあ、」
「...れ、連絡先とか」
「交換済み」
何食わぬ顔で続ける沖田の隣で、足取りが重くなる。
「へえ。ずいぶん積極的になったアルネ...」
「...後悔したくねェからな」
私は、オマエへの想いを未だに捨てられないのに。
大学は近所だけど、顔を見ることも全くなくて。
忘れようって、ヤケクソで来た合コンの帰りに会うなんて、想像できないでショ?
「こっちはずっと待ってんのに、テスト期間くらいしかメール送ってこねェの、そいつ」
「...え?」
「勉強できねェくせに、テストの範囲だけ一丁前に聞いてきやがる。二人で赤点補習した帰りに、アイス片手に河川敷歩いたわ」
「え...」
表情ひとつ変えず語る沖田の横で、言葉を失った。
だってそれは、まるで。
「酢昆布ポーチのガチャガチャがしたいって、俺の四千円ぜんぶ百円に替えたよな」
涙で濡れた私の両目が、大きな掌で塞がれる。
「...なんでこんな強がりの泣き虫、好きになっちまったんだろ」
「うる...っさ、」
「......やっぱ良いな、そのブス面」
目尻の雫を親指ですくい、沖田は少し屈んで私と目線を合わせた。
「...高校の時に告えなくて、大学離れてずっと後悔してた。......チャイナがすき」
「......わたしも...すきアル...」
「...マジ?」
安堵の混じったマヌケ顔に、ペチンと手を当てる。
「...もう、怖い思いさせないでネ」
「...やっと手に入れたんだ、誰にも手出しはさせねェ」
沖田は私の手を握り返し、額をぶつけて口付けた。
「...俺ん家、行く?」
「...テイクアウトアルか」
「俺は合法だろうが。つーか弁当みたいに言うな」
鼻で笑った沖田の服の袖を摘み、引き留める。
「...食べてくれないの?」
「......冷めないうちに。いただきます」
煽ったこと忘れんなよ、と沖田はコンビニへ向かった。
鎮まない熱を抱えたまま、どうやら私はお持ち帰りされてしまうみたいです。
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お付き合いありがとうございました!