情報局の主=カンナ司教の主
正徒教会の主=海軍の主
軍人の使命=聖職者の精神
生きたくば騙されるな。
死ぬ時は思い出せ。
「…その…どこまで戦争は拡大するのですか。」
白ひげの襲来に備えていることは分かる。仕組まれた戦争だが、いわく両者とも引き返せないらしい。しかしコビーは何となく違和感を感じていたのだ。別に白ひげ海賊団を甘く見ている訳ではないのだが、それにしても手を広げ過ぎているのでは?と。
先のカンナ司教を見ていて確信を持ったコビーは、今は見えない双十字を思い出しながらハインを見つめた。
「多分、天まで。」
そう言ってスモーカーの不躾な視線を流した彼女は、葉巻の煙を追いかけたままコビーに問いかける。
「…シンドラー大司教が、子供達を海軍に渡した意味が分かりますか?」
訓練施設には三人だけしかおらず、そもそも海軍本部にいる部隊自体スモーカーの物とガープの物しかない。いつもよりも遥かに人が少ない中で、また一発の砲撃音が轟いた。スモーカーが眉をひそめたが、何も言わずに二本目の葉巻を咥えるだけだった。
「様々なものを守るため…と仰っていましたよね。それともう一歩先が…とも。」
「その一歩先ですが、如何に多くの選択肢を残すのか、ですね。」
歩き始めたハインの後をコビーは追いかける。スモーカーはガープの手伝いがあるので別方向へと向かって行ったが、後で詳細を聞きに来ることは分かっていた。
花冠を手に廊下を進むハインは、微かに目を薄めて〈何が大司教だ〉と呟いた。長い廊下の窓からは明るい日差しが差し込み、子供達が一生懸命に荷物を運び出している様子が見えた。たしぎも手伝っているらしく、子供達が口々に彼女の名前を呼んでいる。
「…聖職者と言うのは善人で困ります。人間の性をよく知り、諭し許す。不条理を理解し、また己が神に使えるただの人であることも理解しています。」
大司教と呼ばれようとも己はただの人間であるとシンドラーは理解していた。同時に大司教としての立場を心得て、海軍のことも察していたのだろう。
これでもハインは海軍本部に付属する正徒教会の孤児院出身である。信仰形態については知っているし、そこから見える世界についても予測できた。
「海軍と白ひげが衝突しても、シンドラー大司教や子供達にはあまり関係がありません。海は荒れますが通常の護衛部隊派遣となります。」
コビーは頷きながらも嫌な予感を感じていた。この中将の口から宗教やら信仰やらの話が出てくるのが怖いのだ。既にプロパガンダ部隊を編成したとも聞くし、アラバスタでは不可解な伝承が定着しつつあるとガープも言っていた。
だがコビーの思っていることを察しているハインは、なおも淡々と話し続ける。
ハインは自室にコビーを招き入れコーヒーと茶菓子を出して座らせる。窓を開けると沈丁花の甘い香りが流れてきた。少し離れたところに咲くキンモクセイもふんわりと風に香りを乗せている。
「世界には絹糸の結び目と言うものがありまして、その結び目はドミノのように連動します。」
前半の小さな村が襲われ、火拳と赤髪が動き、各組織の情報網が騒がしくなる影で狢が動きまる。政府が揺れれば海軍も揺れるし海軍が揺れると海域が揺らぐ。すると海賊達が動き始め島々が襲われ、気が付いたら貴族の部隊が海へ漕ぎ出している事態になる。最後には白ひげと海軍の総力戦だ。
では、その先は?
その先をシンドラーは見ていたのである。
「コビー君はあまり信仰について明るくないようですね。」
「無宗教なので。」
「今の海兵は無宗教論者が多いですね。個人主義と言うか、参謀信者と言うか。」
まぁいい、とハインはアイスコーヒーを飲みながら双子十字のロザリオを引っ張り出す。輝くロザリオはカンナ司教が常に身に着けているそれと同じ物だった。
〈これ〉は一種の価値観だ。
争いの現場において、聖職者達は傷付いた者達を助け平和を祈る。分け隔てなく子供から大人までを教会に引き入れ、怪我を治し世話をするのが彼ら正徒教会だ。海軍も度々世話になっているし、革命軍も海賊も助けられている。勿論、身寄りのない子供達を引き取り育てているのも彼らだ。
だから孤児の集まりやすい海軍と、守り手のほしい正徒教会は度々協力し合ってきた。
それでだ。
聖職者の価値観についての話なのだが、まずこれは一種の自己犠牲に近いものである。尊い犠牲を美しいと感じるそれだった。当たり前だが誰しも死にたくはないのが大前提だが、それを越えた先にあるのがロザリオである。
時に、人は察しとも悟りとも呼ばれる価値観を持つ。
「人を救うために命を差し出す自己犠牲的思考。これは教会で殉教と呼ばれています。海軍では殉職と言いますね。」
戦争に巻き込まれて…の方ではなく、自ら進んで人々の為に目的の為に命を差し出す。
軍人と聖職者では全くの別世界に生きている者同士と感じるのだろうが、案外思考回路は似通っている。シンドラー大司教も例に漏れず似た節があり、しかし彼は聡明が故に冷静だった。
シンドラー大司教が得るべき手札は、どの方面に対しても良い顔ができる立場だ。まずは守り手の海軍に挨拶をし、海賊達にはこれまで通りに手を差し伸べ、できるならば政府にも手を伸ばしておきたい。
戦況が確定するその時まで、どこかしらの肩を持ち続けられるように。世界各地にいる聖職者や子供達を、手が届かないとしても守れるように。零してしまった先でも誰かが拾って助けてくれるように。
死なないように。
その為に教会のお偉い方はハインを全面的に支持すると言ったのだろう。彼らの言葉を正しく訳すのであれば〈必要があるならば我々が身を差し出す〉だ。
「…まぁなんとも、献身的なようで。使い勝手が良いことは確かですが、ロザリオは重いですよ。」
「教会と言う部隊を手に入れたのでしょう?」
喜ぶと思われていたのか、コビーはコーヒーを手に首を傾げた。
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生きたくば
初公開日: 2020年09月13日
最終更新日: 2020年09月14日
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