竜舎を一通り掃き終わり、ごみを塵取りにすくい取る。朝にも掃除をしたので、竜舎の面積の割にごみは少量だ。けれど、この竜舎の子たちはきれい好きが多く、中でもフリージアの相棒の竜は汚れることが好きではない。そのうえ竜舎を汚れたままにしていると、機嫌が悪くなる。へそを曲げた竜の相手をするのは大変で、その日は騎竜できないと思った方がいい。だから皆、騎竜時以外も竜をいたわり、大切にする。なにより、自分の相棒に気持ちよく過ごしてもらいたいと思う気持ちは、多分、竜と接しているうちに自然とわいてくる。
フリージアは朝の定時の掃除に加えて、できる限り昼休みにも竜舎に顔を出し、軽く掃除をする。相棒の気質を知るうちに自然とそうするようになったのだが、他の部員がいるときには見せない彼女らの顔を独り占めできるので、意外に楽しい。気位の高い相棒は特に裏表が激しく、部活中には見せないくつろいだ表情を見ることができるのは役得だ。
「これでよし、と」
集めたごみを捨て、箒と塵取りを用具入れに片づける。フリージアは、頬を伝う汗をタオルで拭った。空調の風を嫌う竜がいることもあり、この竜舎にも冷房はない。熱がこもらないように自然の風が吹き抜ける造りになってはいるが、夏場に作業をするとさすがに暑い。
「じゃあ、私もう行くね」
ぱたぱたと手であおぎながらフリージアが相棒に声をかけると、応えるように竜は顔を上げてこちらを見た。いつもなら特にリアクションを返してこないので、おや、と思い近づくと、竜は見計らったように翼を広げて羽ばたいた。
「わっ?!」
途端に、風が巻き起こる。そよ風というにはいささか強風だが、飛翔のための羽ばたきに比べると随分と加減されている。火照った身体に気持ちがよくて、フリージアははっとした。
「もしかして、あおいでくれたの…?」
問うと、相棒は羽ばたくのを止め、素知らぬ顔でそっぽを向いた。分かりやすくて、思わず笑みがこぼれる。
「…ありがとう」
フリージアが首を撫でてやると、竜は満足げに「ふっ」と鼻息を吐いて体を丸めた。
凛として、美しくて、気位が高くて、でもとても優しいこの相棒は、たまに可愛い姿も見せる。いとおしさに目を細めながら、フリージアは周囲に目をやった。
「…掃除、やり直しかな」
先ほどの風で舞い散った埃と、休憩時間の終わりを告げる時計とを見比べながら、フリージアは用具入れの扉を開けた。