HQ/金田一と国見が喋る
さっきから嫌な予感はしていた。
久しぶりに開かれた中学の同窓会。飲みの席で、みんな酒が回っていて。ちょうどバレー部だったやつらがまとまって座っていた。俺と金田一は少し離れたところにいたけれど、なんだったか、なんとか効果というやつで、そいつらの会話はちらちらと耳に入ってくる。
コート上の王様という単語を耳が拾ってしまってからは、自分たちの会話への注意力が散漫になってしまった自覚はある。見れば、金田一もちらちらとあちらのテーブルを気にしていて、これはもう仕方のないことなのだと諦めた。
コート上の王様。俺たちがつけたあだ名が、俺たちが意図した意味を持っていたのは、中学の時だけだ。高校に進学してから、王様ーー影山は、変わった。だから、俺も、金田一も、影山のことをそう揶揄することは無かった。
けれども他のやつらは、中学でバレーを辞めたりして、高校以降の影山を知らないやつらはそうではない。そして、今大声でバレー部の話をしているのは、そんなやつらだ。
聞こえてくる話は、気分のいいものではなかった。下品な笑い声と、人を見下し馬鹿にする態度。金田一の眉間にどんどんシワが寄っていく。これはまずいかもしれないと思うのと、今日一番の暴言が聞こえてきたのはほぼ同時だった。
「王様が今や日本代表だぜ!笑えるよなあ!」
俺が止める間も無く、金田一は席を立つと、そいつらのもとにずかずかと向かっていった。
そして聞こえてくる口論。相手は少し怖気づいているようだった。それもそうだろう。中学では一緒になって「王様」と呼んでいたのに、まさか反発されるとは思いもしなかったのだろう。
お互い酒が入っていて、口論はどんどんヒートアップしていく。さすがにそろそろ止めないとまずいだろうか、と席を立ったところで、金田一の大きな声が、店中に響いた。
「あいつのことを知らないやつが、知ったふうに言うんじゃねえよ!」
「で、落ち着いた?」
店から引っ張り出し、冷たい水を飲ませ、火照った頭を冷やす。時間が経つにつれ、金田一の怒りはおさまったように見えた。迷惑をかけた、と謝罪もされた。
「あんなやつら、気にすんなよ。影山も、別に気にしたりはしないだろ」
「それは、そうだろうけど……」
しかし今日影山がいなくてよかった。いや、いたらこんな話題になることはなかったのだろうか。
「なんか、悔しいだろ。今のあいつは、北一の影山じゃねーんだから」
金田一の言うことはよくわかる。けれど、それを俺たちがいくら口で言ったところで、伝わらないというのも、わかるのだ。
「あー、くそっ」
金田一は頭をがしがしと掻いた。
「こうなったら、俺が日本代表になるしかねえ」
「……は?話の筋が見えないんだけど」
「日本代表になって、中学の同級生同士ってことでインタビュー受けて、『昔は犬猿の仲だったけど今は良きライバル関係だ』って特集組んでもらうんだよ!そうしたらあいつらもわかるだろ」
話についていけない俺をよそに、金田一の目は決意で爛々と輝いている。
少しおかしな方向へ向かっている気がしなくもないが、そんなところが金田一らしくもある。
「ま、頑張れよ」
パンっと音が鳴るほど強く背中を叩く。
痺れる掌に、高校時代を思い出して、かたくかたく、握りしめた。
おわり
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