高校生活最後の一年を共に過ごした後輩の、記念すべきVリーグ公式戦デビューの日、俺はアルバイトに精を出していた。
いや、そりゃ見たかった。できることなら会場で。それが無理でも中継で。しかし残念ながらバイトをずらすことはできず、仕方なく、というところだ。大地や旭は配信を見ているのだろうか。いや、旭は仕事中か。ほかの後輩たちも、きっと、彼ーー影山の活躍を期待しているに違いない。
時計をちらちらと気にしながらも、バイトを終えると、俺は真っ先に携帯電話に手を伸ばした。試合結果を見るためだ。しかし、目当ての情報にたどり着くよりも早く、目に入ってきたのは。
「なんだこれ」
大量の、新着メッセージの通知だった。こんな量は見たことがない。誕生日のお祝いよりも多いんじゃなかろうか。一体なにがあったというのだろう。一番上に表示されていた、大地からのメッセージを開くと、そこには一枚の画像が添付されていた。
ここがバイト先でなければ、大声で笑いころげていただろう。
急いで身なりを整え、バイト先を後にする。建物から出た瞬間に、大地に電話をかけた。
大地もそれを見越していたのか、数度のコールで、すぐに繋がる。
「大地!これ……」
『見たか?』
「見たよ」
大地が送ってきたのは、影山のサインの画像だった。
「影山、ちゃんと使ってんじゃん」
ひらがなの「とびお」に、ハートマークをつけたサイン。影山が書くハートは不格好で、すこしぐちゃっとしているが、それでも判別はつく。
プロになるならサインが必要だろう、と言って、俺が考えたものだった。
『驚いたよ。まさか本当に使うとは。いや、影山なら使うか……』
電話越しに、大地が笑いを堪えているのが伝わってくる。
「俺はみんなからの連絡の多さに驚いたわ。大地と、旭と、田中とかからも来てたな。まだ読み切れてない」
『そりゃ、教えたくもなる』
「それもそうか」
今度こそ、ははは、と声を出して笑う。すれ違ったサラリーマンの視線が痛いが、今回ばかりは許してほしい。
これは、雑誌のインタビューで俺の話がされる日も近いかもしれない。
「……ってそうじゃなくて、いやこれも衝撃的だけど、試合は?見てたんだろ?」
『ああそう、そっちがメインだよな。スマン、つい』
バレーに一途で、ストイックで、コート上に君臨する王様。
そんな後輩の、先輩を疎かにしないところも、すこし抜けているところも、微笑ましいなと思う。
たった一人の、俺の人生に大きな影響を与えた後輩の話題に花を咲かせながら、帰路を急ぐ。
やっぱり、かわいい後輩の活躍は、この目で確かめていたいから。
おわり
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初公開日: 2020年09月01日
最終更新日: 2020年09月09日
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HQ/スガさん