影浦雅人二十回目の六月四日は、一足先に成人になった北添や犬飼ら同輩たちにビールだ酎ハイだ、水割りだ日本酒だと、あれもこれもを口の中に流し込まれるようにされ、急性アルコール中毒にならないのが不思議なくらいの勢いで酔い潰されて終わった。最悪の事態が起きた時の為にトリガーを持ってこいという忠告――いよいよ救急車レベルでヤバい気配を察したら、トリオン体に換装して、肝臓がアデトアルデヒドに分解しまくるまでやり過ごさせようという経験者の叡智だ――はそういうことか、と意識を飛ばす寸前に思ったりもしたが。
それから三日が過ぎ、遠目から見ても分かるほどに影浦の機嫌が悪いのは何も二日酔いのせいなどではなかった。ポケットから取り出した携帯端末の画面を、その日だけでも何十回目にか確かめて、影浦はマスクに覆われた下で大きく舌打ちをした。
(……連絡が来ねえ)
年下の恋人が、誕生日を、しかも成人を迎えたとなれば、連絡の一つもあってしかるべきではないか。
「二宮のバカが」
吐き捨てる、と形容するには、ややもすると甘ったるいものが忍ばされているのは、不機嫌のたただなかにいる当人としては認めがたいところではあろう。
〔二宮の部屋〕
「蜂蜜の酒?」
「ああ」
ことん、とダイニングのテーブルに置かれたのは、日の光を煮詰めたような色の液体がたたえられた瓶だった。
「何となくお前に飲ませてみたくてな」
と二宮は手を伸ばして、影浦のまなじりを親指でそっと撫でた。
「バ、バッカじゃねーの」
さすがに言葉の意図を汲んで、影浦は赤くなった。
〔手に入れるのが遅くなってせいで連絡が遅れた〕
「何してんだ?」
「こうすると口当たりが良くなってな。かちかちに凍らないからシャーベットみたいになるらしい」
「ガキ扱いかよ」
「……馴れねえうちの酒は加減が分からねえだろ」
ミードの色の視線で詰問するように睨まれ、不承不承二宮は続けた。
「……俺も酷い目にあったんだ」
「へえ」
尖った歯を覗かせるように、影浦の顔が愉快そうに形作られる。
「詳しく聴かせろよ」
「お断りだ」
ふうん、と影浦は半眼になって言い渋る二宮を見やる。
「だったらファントムばばあか太刀川サンにでも聞く。あいつらならぺらぺら喋るだろ」
「おい」
どうせ二宮達とて自分の時と似たような状況だろう。それに耳の早い加古ならば、例えその「酷い目」の場に同席していなくても、情報と言う名の二宮の弱みは握っていそうではある。
だいたいカマをかけたつもりもないが、慌てた風を見せてしまった時点で「刺さらなくても」丸わかりである。
(意外とこいつ分かりやしーよな)
「……しこたまウォッカを混ぜたシャンディガフを飲まされたせいで酔い潰されて、肉食系で有名な女に持ち帰られそうになっただけだ……」
思い出すだけで返す返すも疎ましい、と二宮は奥歯をぎりりと鳴らした。
「ぎゃはははは!!! バッカでええええええ!!!!」
「指を指して笑うな!」
カウチに身を投げ出した影浦は、足までじたばたさせて心底愉快そうに笑う。
「みっともね~~~、にしても、お前をハメようなんてその女すげーな、尊敬する!」
〔ミードにジンジャーエール。
自分の目のようだと例えた酒に、二宮の好む液体を混ぜて攪拌するさまはやけに居心地が悪い。
ん、どうした、何赤くなってんだ
別に〕