「花火/夏祭り」
現代/錆記憶あり/義記憶なし
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「なぁ、一緒に花火見に行かないか?」
セミの鳴き声が背景と化してきた頃、錆兎は呟いた。その声は小さくてセミにも、扇風機の音にも掻き消されてしまってもおかしくないほどで。錆兎にしては珍しいのに、まっすぐな視線は痛いほどに突き刺さる。
「花火? 近くでやるって言ってたもんね。いいよ、鱗滝さんや真菰も一緒に」
「義勇と二人で。行きたいんだが……ダメか?」
どこかいつもとは違う雰囲気の錆兎に最近街でよく見るチラシを思い出して僅かに心躍る。昨年までは蔦子姉さんと一緒に夏祭りは行っていたけど、もう中学生になる。家族以外と遊びに行ってもいいのではないだろうか、と考えていると錆兎の言葉が被さってくる。やっぱり何かが違う。思わず瞬きを何度かしているとしまった、というように口を手で覆って目を逸らしてしまう。
「ごめ、やっぱなんにも」
「二人で行こう。楽しみだね、錆兎」
珍しい錆兎の様子は、何か大切なことのように思えた。そして今を逃してしまうと何かが両手からすり抜けていってしまうような気がした。それだけはダメだ。さっき錆兎がやったように、俺も言葉を被せた。すると驚いて、困ったような笑みを浮かべて錆兎はありがとう、と口にする。
お礼を言われるようなことではないのに、今日は変な錆兎だ。きっと夏の暑さにやられてしまっているのではないだろうか。思わず口元が緩んでしまっていると、
なかなか文字が埋まらない白いノートにぽたりと汗が落ちた。
普段は車が行き交う堤防も、今日は屋台が立ち並んでいる貰ったお小遣いで屋台をそれぞれ回ると、人が少ない場所へと移動した。昨年まで蔦子姉さんと見ていた時の穴場の場所。今年からは、錆兎との場所だ。
「義勇、はい」
「ん。錆兎も、はい」
錆兎は屋台で買ったじゃがバターを一口大にして俺の方へと向けてくれたから口を開いて迎え入れる。熱さでなかなか飲み込めないでいると錆兎が笑うものだから、俺はベビーカステラを一つその口の中に入れてやる。突然のことに驚いて噎せている錆兎の頭には俺とお揃いの、少しだけデザインの違う狐面をつけている。数日前に鱗滝さんが「夏祭りならお面の一つでも付けて楽しんで来い」と狐面を渡してくれた。その時に見た錆兎の表情は、俺を花火に誘った時に見た物と似ていた。やはりここ最近の錆兎の様子はおかしい。けれど変わらない反応をする錆兎にいつも通りだ、どこかで安堵した。
「せっかくお面貰ったから甚兵衛でも着てこればよかったね」
「義勇は着れるやつあるのか?」
「……昨年のが」
「俺はもう着れないけど」
「そういう!こと!言わない!!」
小学生からの友達だったけど、いつの間にか錆兎の方が身長が高くなっている。声変りも錆兎ははやくて、低くなった声にドキドキしたのは記憶に新しい。どんどん先に成長していく錆兎に追いつきたいのに意識だけではどうにかなるものではなくて最近よくからかわれてしまう。
変わらない会話をしていると、突然大きな音が鳴る。そして真っ暗な夜空に星よりも大きな光を放って広がる花火。気が付いたら花火の打ち上げが始まる時刻だったようで、絶え間なく色とりどりの花が大きな音と共に空で咲き乱れていく。
「綺麗」
「……花火って、元々は死者を弔う慰霊の行事だったらしいぞ。お盆に帰ってきた魂を、道に迷わずに帰れるようにって道を照らしてるらしい」
ドォン、という音の隙間で錆兎が口を開く。その横顔はどこか切なげで、花火を映す瞳が閉ざされてしまう。
「錆兎は物知りだね」
「いや、たまたま知ったんだけどな……」
気が付いたら花火はいったん止まっていて、遠くからパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
声をかけるとすぐに瞼はあけられたけど、どこかに視線を彷徨わせてから俺を見る。そして口を開いて、閉じてを繰り返していて。暗闇の中だけど最近よく見る泣きそうな顔をしていることはすぐに分かってしまった。
「俺は義勇とずっと一緒に、花火見たいって思ったんだ」
「へんなの」
「なッ、変とはなんだ!」
「だって、変じゃん」
納得がいかないという顔をしているが、俺だって納得がいかない。
「俺は錆兎とずっと一緒にいるから、約束なんていらない」
錆兎と初めて会った時、不思議な感覚がした。太陽のように眩しく笑って手を引っ張ってくれる錆兎と出会えたのは必然だと、どんなことがあっても引っ張ってくれた手を離さないのだと、今よりもまだ子供の時に思っていた。それは今でも変わらない。
「また来年も再来年も、二人で花火を見よ。違うお祭りとかも一緒に」
ぎゅっと手を繋ぐ。ビクリと錆兎が体を跳ねさせたけど、絶対に離してやるもんか、と力をこめる。
「……義勇は、強いな」
「錆兎にはまだ勝てないよ」
「剣道の話じゃなくて」
楽しそうに笑う表情は再び明るい光に照らされる。花火のように俺の道を前も、後ろもずっと錆兎が照らし続けているのだと、そうあってほしいと強く思った。
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20200815錆義ワンライ
初公開日: 2020年08月15日
最終更新日: 2020年08月15日
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お題「夏祭り/花火」
20200913カケタイss
こんな声などくれてやる300-500文字
みつき
20200912錆義ワンライ
0912お題【結婚式/子育て】
みつき
20200912カケタイ2
「誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろう」~「やっと言えた」800ー1000文字
みつき