「漸く休めそうだね」
「そうだな。早く寝よう」
山姥切国広と山姥切長義が当直室へ戻ったのは深夜を回った頃だった。
「……あれ? 確かベッドは2つあったはずなんだが……」
シングルベッドが2つ部屋に並んでいたはずだがあるのは1つだけだった。
「どうやらもう片方は壊れているのか撤去されたんだろう。運が悪かったな」
「そういうことか……。これはどちらかが床で寝ないといけないね……。掛け布団を下に敷いて――」
「その必要はない」
「え?」
国広は長義をベッドへ連れ込む。身体が密着するほど狭い。1人用のベッドに2人入っているから当然か。
「一緒に使えばいいだろう」
「待機時間もお前と濃厚接触なんて御免だね」
「なら、床で寝るか?」
「お前が床で寝ろよ」
「立場上は俺の方があんたより優位なんだが」
「……自分の身分を笠に着て威張る人間が俺は一番嫌いだ。おやすみ」
前の職場を思い出したのか不機嫌そうに言ってから長義は布団を被った。国広が同じベッドで寝ることについてはもう言及しないようだ。単に忘れているだけかもしれないが。
「……それは悪かった」
長義に背を向けて国広は眠りについた。
空調はいい具合に効いているはずなのに暑くて寝苦しい。長義は思わず目を開けた。灯りは国広が消してくれたようだ。何かが背中にくっついているようで気持ち悪い。剥がそうとするも離れない。何なんだ一体。
「……やわらかい」
ぎゅっ、と抱き枕のように手を回されひっ、と思わず声が漏れる。幽霊の類かと思ったが感じる熱は温かく、生きている人間だということはわかる。
「……国広?」
「……」
返事はない。
「……いくら柔らかくても、そんなに食えない……」
何かを食べている夢でも見ているのだろうか寝言が聞こえる。呑気なものだ。
いや。そんなことよりも。
どうして彼が俺を抱いている? 寝ぼけているだけか? そうだとしてもたちが悪い。こっちがどんな思いでいるか知らないくせに。胸はばくばくと音を立てている。寝ている国広に伝わってしまわないか心配だ。
休もうと思ったのにこれじゃあ眠れない。彼が近すぎる。悶々とした気持ちのまま目を閉じていると勢いよく当直室のドアが開いた。
「山姥切たち、起きてる?」
加州の声だった。
「ああ。起きて――」
俺が答えるよりも早くするりと国広の手が解け、いつの間にかベッドからいなくなっている。
「応援が必要か?」
「うん。歩行者と車の接触事故で歩行者側が全身強く打ってる。心肺停止で来てるから今歌仙が蘇生してる」
「わかった。すぐ行く。長義も早く来い」
国広は走って当直室を出て行ってしまう。さっきまで俺を抱いて眠っていたことは忘れているように見えて腹が立つ。人の気も知らないで。
でも今はそんなことを考えている場合じゃない。
長義は急いでベッドを出た。