情報収集のオマケで参加した“一仕事”は、思いの外退屈だった。
うだつの上がらない会話を交わす一時の仲間たちに悟られないよう、トリックは傍を向いて小さく欠伸をする。宝の情報を探るよう船長の命を受け、単独でこの船に乗り込んで、確か、今日で十日目。だが、どこへ行っても取るに足りないような商船を襲うばかりで、宝の情報のたの字もない。まあ、諜報の任務でハズレを引くことなんて、今更珍しいことでもないが。
愛想笑いにも飽きてきて、酒瓶の一つでも頂戴して適当に退散しようかと考えていた七日目。船の頭に声を掛けられたのは、それを、いよいよ実行に移そうとしていた夜のことだった。
「お前は本当に筋がいいな。船に乗って長いのか」
「まさか。俺がそんな真っ当に生きてるように見えるか?」
「ははっ、確かにその細腕じゃあな」
たぶん、目の前で大袈裟に笑う男の想像より、遥かに真っ当な生き方をしてないだろうが、勝手に納得してくれたようなので良しとする。
「お前のことは、気に入った。次も、その仕事ぶりを発揮してくれるってんなら、分け前を増やしてやってもいいぜ」
「今度の取引は、大金が手に入るんだ」と、わざとらしく声を顰める仕草に、トリックも同乗する。
「金貨が何枚だ?」
「ばか言え。たんまり入った袋を、両脇に抱えても足りねぇよ」
話によると、その仕事は三日後。いつもの強奪でなく、紳士的なトリヒキで行うとのことだった。内容が変わったところで、仕事のレベルは相も変わらず大したことはない。強いて言うなら、偽造した入港証を手に入れる時、少しばかり交渉を手伝ったくらいで。
船を着けた入江の、小さな桟橋の橋。仰々しく執り行われている話し合いを、いらいらしながら船の上から眺める。
当初の目的が果たせないとなった今、そのトリヒキとやらに付き合ってやる義理はない。しかしここまで付き合わされた以上、この退屈という名の拷問に見合うくらいの小遣いは最後に稼がせてもらおう。普段の船でなら、ガキンチョやなんとかズにでも務まるような仕事の報酬が、どんな経緯で袋いっぱいの金貨になるかはわからないが。
「終わったぞ」
息を弾ませて船に戻った男は、確かに宣言通り、両脇に重そうな袋を抱えて現れた。桟橋の麓には、同じ素材の袋を積んだ馬車も見える。仕事は無事に終わったようだが。
「約束の報酬だ」
「ほら」と放られた袋は確かに、手応えを感じる重たさで。けれど、手にしたその感覚、重量に後立って手の中でくすむ音、そしてなにより荒い繊維から零れ飛び散る、不快な香り。
「東インド貿易会社で取り締まりが始まるのも時間の問題だと思ってな。今の内に仕入れたんだ。お前の腕と話術なら、もっと高値で捌けるだろうよ」
「自分であまり吸い過ぎるなよ」と、下品に笑うその小脇の袋に風穴を開けるのは、ここ数日の仕事の中で一番容易くて、でも久々に胸が躍る瞬間だった。
「ま、待て。それっぽっちじゃ不満だってのか?」
驚いて後ずさる男の、取り乱したような声が響く。
大事そうに抱きしめたその穴空きから、絶えず流れ落ちる白い粉が、自分の命の残りの時間だと。察しの悪いこの男が気付くには、あと何発かかるだろうか。