「相談したいことがあるんだ」
目の前に現れたたった一人の同期は、いつになく神妙な面持ちでそう告げた。
「大好きな人に、贈り物がしたくてさ。…その、分かると思うけど、俺、そういうことって今までしたことがなくて」
「マンマのことじゃないよね?こないだみたいに」
「まさか。勿論、大事な人だけど。マンマさんも」
「そういうのとは、ちょっと違うんだ」と、照れ臭そうに頰を掻く仕草に、俺はほほう、と感心したふりをする。
「明日港に買い出しに行くことになったから、その時にでも、どう?」
「いいよいいよ!付き合う。何でも聞けよ!」
恐縮したように下げられる肩に腕を回して応えると、俺の歳の半分も生きていないような青年が腕の中で気弱に笑う。安堵したような溜息は、生きた年月に不釣り合いな気苦労を孕んでいて。
「よかった。バッロなら、チップさんが好きなもの、いっぱい知ってると思って。心強いよ」
まあ、そんなとこだろうと思ったけどね。
いつも通りの下っ端の買い出しを装って、船を出たのが、確か昼過ぎ。夕方には、夕飯の支度が始まるからそれまでには帰らないと。そう言ったはずなのは、他でもないクックなのに。
「ねぇ、そろそろ行かないと」
「待って。すぐ行く」
露店が並ぶ通りに辿り着いて、早速花を売る少女に声を掛けられたのを皮切りに、クックは客引きに呼ばれるがままに、一つ一つの店を見て回った。それだけならまだしも、その店々で、丁寧に買い物をしようとする。流石に買い出し用に預かっているお金に手はつけてないけど。
「今日は、チップへの贈り物を買いに来たんだろ」
「そうだけど…。こんなに小さい子が一生懸命客引きしてるんだよ。力になってあげたいじゃないか」
「それに」と、ただでさえ騒がしい繁華街の中でクックが声を潜めて言う。
「お金を持って帰らないと、あの子、誰かにぶたれるんだ」
「…あの子が、そう言ったの?」
「ううん。服の下に、そういう痕があった」
代金を宝物のように握りしめた子供を、クックが見送る。
「助けたい、とか。そんな大それたことじゃないんだ」
再び歩き出してしばらくしてから、クックが力無く笑う。
「海賊になる前はさ。皆が俺を見えないフリ、してた。お金、なかったからさ。だから、話しかけられるのが。声を掛けて、利用でもいい。頼ってくれるのが、少しだけ嬉しいんだ」
「それだけ」と、へにゃりとはにかんだ顔を見て、俺は妙に合点がいった。何かが、少しだけ腑に落ちたような。
「チップにあげるのも、何かのお返し、だったっけ」
「そう。前の港で、お土産にってお菓子をもらったんだ」
「そっか。楽しいよな、お返しって」
油に、干し肉に、香草に、それから、ちょっぴりの余計なものを両手に抱えたクックは、それでも嬉しそうで。
「キャプテンチップは、お花も好きだったよな。最初に買った花、押し花の栞にしてやるのはどうだい?」
「おしばな?しおり?」
「大丈夫、作り方教えてやるよ。そうと決まれば、リボンが要るな」
興味に目を輝かせるクックに、今度は俺が笑い返す。
「因みに、この俺様にはどういうお返しをくれるわけ?」
「勿論、とっておきのペペロンチーノをご馳走するよ。それから、パニーニも」