42×39
「絶対に駄目だ!」
「えー、でもだって、昔からこうだったでしょう」
「えーもだってもない。駄目だ。頼む、他のものにしてくれ」
 目の前にいる最愛の恋人は、綺麗に割れた腹筋とかわいらしい臍を丸出しにして頬を膨らませた。
 そんなにかわいい顔をしても、駄目だ。
 ようやく本当の名前で縁を繋ぐことができた俺たちは、もう一緒にいるようになって十年ほど経っていた。いまだに情報屋としての仕事を趣味で続けているレイは、今度ジプシーの踊り子として舞台に立つという。何がどうしてそんなことになっているんだ。しかも、こんなに身体の線が出て、線どころか艶やかな褐色の肌までも丸出しじゃないか。そんなきみのセクシーな姿を見るのは俺だけで十分じゃないか?なあ。
「体の線が出ちゃうのは当たり前でしょう。踊るときにより綺麗に見せるためにこういう服なんだから。お腹だって昔から出してたし、」
「俺はな、それだって気が気じゃなかったんだ」
「ライの時だってちらっと見てため息ついてたくらいなのに。僕を商家から攫って行った時だって、宝石にしか興味なかったでしょう」
「あのなぁ、ため息をついたのは危機感がなさ過ぎたからだ。あの時は父の行方を知るために方々にああして潜入して情報を集めていたから、きみを攫うことが出来なかった。商家の時だって、宝石ってあれ、きみのことだぞ」
「はぁ?」
「せっかく捕まえた宝石、イコールきみだ」
「き、気障~」
「兎に角、この服で行くのは駄目だ。もっと布地の多いのにするか、踊り子するのはやめてほかの手段を……」
「ん、もう。しょうがないから、この上に大きな一枚布を羽織ります。それで妥協してください」
 俺に寄り添ってくれたきみに、感謝の意味も込めてくちづける。そうすれば甘えるように身体を寄せてきてくれた。かわいい、俺の最愛。
「本当にあなた、僕が好きなんですね……」
「あたりまえだよ。十五のあの時から、俺にはきみだけなんだ」
27×29
 頭に巻いたターバンに括りつけられた装飾品が重い。こんなもの取ってしまいたいが、今日会う予定のこの周辺を牛耳る富豪の男からプレゼントされたものだ。あなたから頂いたもの、使わせていただいています。と上目遣いで甘えるように伝えれば、さぞかし男の口は軽くなることだろう。
 今日は『商談』という名目でここへ来ている。一粒石の大きなダイヤモンドがあればいくつか見せてほしい、と言われ、いまこのかばんにはそれが入っている。
 通された応接室は、金銀宝石で彩られて非常に目によろしくない。だんだん疲れてくる目を瞬きで宥め、いつだれが入ってきても対応できるように神経を研ぎ澄ませた。
 何の前触れもなく扉が開いた。
 気配は何も感じなかった。警戒を強めて入ってきた人物をじっと見つめる。
 赤みかかった茶色の髪は、少し襟足が長い。この地域では珍しいことに、グラスを掛けていた。そのレンズ越しに見える目は細く、まるで狐のようだった。ゆるく笑んでいるが、その笑みすら胡散臭い。黒に赤の布をあしらった服はどう見ても使用人には見えなかった。
「熱烈ですね」
「……今日お約束していたのは、あなたではありませんよね」
「ふふ、」
 愉しそうに笑う、男。ふわりと窓から入った風が運んできた男の香りに、嗅ぎ覚えがあった。
「え、」
「わたしは、欲しいものは必ず手に入れると決めているんですよ」
 一瞬の隙に、男が僕の身体を肩に担ぎあげた。そんなに軽々担げるようなウェイトではないはずなのに、男はなんてことないようにそのまま窓へと歩いてゆく。
「離せ!」
「いやですよ。せっかく捕まえた宝石、逃しません」
「え、うそ……っ!」
 そのまま男は窓から身を躍らせた。
「俺の運命の光、もう離さない」
 その声は風に攫われて、僕の耳には届かなかった。
27×24
 昼間にも関わらず、一日中薄暗く埃っぽく湿った場所。そこかしこに屯する男たちは、ぎらついた欲を露にした目をしているか、どこを見ているのか解らないようなぼんやりとした生気のない目をしているかのどちらかだ。この場所に来てどのくらいたつだろう。あの日、俺の運命の光が目の前から消えてから伸ばし始めた髪は、もうとっくに背中を超えていた。
「ヨォ、ライ。いい加減、俺たちと仕事をしようぜ」
「群れるのは好かん」
「どうせ同じ穴の狢だろう、楽して稼げて女も犯せればそれでいいじゃねぇか!」
 ゲラゲラと下品に嘲笑わらう男どもに反吐が出る。
 一瞥をくれてやれば途端に静かになり、その場を去っていった。
 凄腕の情報屋がいる。そんな噂がこの場所に広まったのは、あっという間だった。
 気まぐれな情報屋は、頭が切れ、仕事が早い。そして特筆すべきはその美貌。
 やわらかな蜂蜜のような髪に、大きな宝石のようなブルーの瞳。肌は褐色で艶めかしく、細身だがただ細いわけではなく肉付きもいい。つい、手を伸ばしたくなるような絶世の美しさだという。
 その風体を聞いた時、よぎったのはあの夏の数日間、会えば抱き合っていた彼のこと。
 まさかこんな場所にいるはずはない、そう思った俺の耳に、涼やかな声が流れた。
「あなたが、ライ?」
 咄嗟に顔をあげる。そこには、確かに俺の光が立っていた。
 ゆるりと細くなる目。まるで猫のようにするりと俺の目の前に近づいてくる。
「レ、」
「shhh、はじめまして、バーボンです」
 その名を口に出す前に、細い指が俺の唇に当てられた。
22×19
 十二の年に出会った少年を思い出す。
 ジプシーは気まぐれだ。決まったルートで移動するわけではない。それなのに、「もう会えない」という言葉を口に出すことが出来なかった。
 暑い日。透き通ったうつくしいオアシス。
 そこに映える緑のような、鮮やかな翡翠の瞳が焼き付いて離れない。
「きっと、もう忘れてる」
 数年たっても変わらないあの時の泉に、足を沈めた。
 この厳しい日差しの中でも冷たい泉の水は、火照った体を冷やしてくれる。ざぶんと一気に頭まで沈む。目の前が薄青一色に染まった。こぽりと自分の口から漏れた空気を追って水面に顔を出すと、獣のように頭を振って水を切る。周りに飛び散る水滴が光を反射して、まるで昼の星のようだ。
 ふと、視線を感じた。そこに目を向けると、一人の青年が目を見開いてこちらを見ている。
 揺れる黒髪、森の色の瞳。あの時、自分とそこまで変わらない線の細い少年は、すっかり大人の男になっていた。
「レイ……レイっ」
 まっすぐにこちらに駆けてくると思ったら、そのまま泉の中に入ってきた。
「ちょ、服……っ!」
 仕立ての良い布が、ずぶ濡れだ。それに構わずシュウは水の抵抗を感じさせない速さで僕のそばにやってきて、あの時のように腕の中に引き込んできた。
「やっと、会えた……」
 抱きしめられる腕は、太く力強い。胸は厚く、明らかに自分よりも背が高くなっていた。まるで最愛の恋人にするように、思いきり抱き締め、顔を摺り寄せてくる。
「覚えていたんですね」
「こちらの台詞だよ。あれから毎年、この時期には必ずここに来ていたのに会えないから」
「ジプシーは気まぐれなんです。同じ場所に必ず現れるわけじゃない……」
「それでも、きみはまたここに来た……」
 見つめ合う。グリーンに引き込まれてしまいそう。
 そっと顔に触れる掌は、熱かった。ゆっくりと近づいてくる唇に、嫌悪感なんてなかった。
 だって、初めて目があったあの時から、僕の心にはこのうつくしい翡翠が心に住み着いてしまったから。 
15×12
 陽光に煌めく水しぶきが、彼を彩る宝石のようだった。一糸まとわぬ姿でオアシスの湖に身を沈める姿は、まるでお伽噺で聴いた人魚だ。透明度の高い水に、褐色のしなやかな身体が透けて見える。視線に気づいたのだろう。こちらを見た瞳と目があった。
 まるで、この泉を閉じ込めたようなうつくしいブルー。
 立ち上がる彼の、水に濡れた髪から滴り落ちる水滴。張り付いた髪は太陽の光を反射する柔らかなゴールド。思わずその美しさに見惚れていると、小さな唇が開いた。
「お前、誰だ。どこかの旅団の子供か……?」
 少しかすれた、ボーイソプラノ。こちらを警戒するような眼差しに、敵意はないと占めるように両手をあげた。
 ざぶざぶと水をかき分けてこちらに向かってくる。下履きがペタリとくっついてその未発達な体の線を露にしていた。俺をじっと見つめる彼の目は、いまだ警戒を緩めない。
「随分いい仕立てだ。どこぞのお坊ちゃんか?ここはジプシーが休憩所で使っているオアシスだ。捕まって売り払われないうちに巣に帰れ」
「きみは、」
 くるりと方向転換すると、近くの木に吊るしてある布を羽織る。そのまま立ち去ろうとする彼の腕をつかんで、引き寄せた。「何をする!」と暴れる華奢な体を腕の中にとらえると、甘くいい香りがした。
「名前を、」
 こんなことは初めてだった。どんなうつくしくかわいらしい娘にも、心が動くことはなかった。目があった瞬間、彼のブルーに心が絡めとられてしまった。細く、頼りない繋がりでもいい。一つでいいからなにか欲しかった。
「……俺はシュウ、きみは?」
「…………レイ、」
「レイ……綺麗な響きだ。きみに似合う」
 おとなしくなった彼の、レイのぬくもりを抱きしめる。少し乾いた髪は、ふわふわと俺を頬をくすぐった。その髪にくちづける。
「また会えるか」
「……縁があれば」
 そうして緩んだ腕からするりと抜け出た体は、猫のようにしなやかに俺のそばから離れていった。
 その金色が、見えなくなるまでずっと見送る。どこにいようと探し出していつか、きみを迎えに行く。そうその消えた後ろ姿に誓った。
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秋本速斗
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秋本速斗
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秋本速斗
こんばんは~
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秋本速斗
あざますー!
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こんちはー!
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あざますー!
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おかえりなさいー
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秋本速斗
こんばんはー!
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秋本速斗
どうでしょうねー
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秋本速斗
お二人ですねー
4,414:05
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