「そこの美しいお嬢さん、天の羽衣を落としましたよ」
「ああ。ありがとう。ただのハンカチだね」
 彼女は表情一つ変えずに再び歩き始めた。だれかとお近づきになりたくてわざと落としたとか、そういうわけではなかったらしい。だれかって誰だよと思ったけど、そんな魅力に溢れちゃってるのはこの私に決まっているよね! と、意気揚々と200mくらい先から駆けつけてあげたわけだ。もちろん、皆が皆顔を赤らめて喜ぶような台詞を添えて!
 反応、なかったな。
 一瞬落ち込みかける。いや、でもそんなはずはない! シャイなだけ! 彼女はシャイなだけ!
「もうこれは明日にでも結婚コース!」
 身体の前で拳を作る。それだけで勇気が湧いてきた。すごい、いける気がする!
 と、気分が盛り上がってきたところで水を差すように叩かれる肩。横には見慣れた親友の顔。
「全部声に出てたお前に教えてやろう」
 盗み聞きとは趣味が悪い。
「お前がクサい台詞言うときにみんなして赤くなってんのはな、言ってるお前が誰よりも真っ赤になってるからこっちまで恥ずかしくなってるだけだからな」
「やだな。負け惜しみかい子猫ちゃん」
 無言で鏡が差し出される。目の前にはいままで見たこともない程真っ赤な顔だった。
「……知りたく、なかった……」
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【即興】赤い狼 2020-08-08
初公開日: 2020年08月08日
最終更新日: 2020年08月08日
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お題:忘れたい狼
必須要素:予想外の展開
制限時間:15分