30日CPチャレンジ 普独 4日目
4、デートに行く On a Date
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《30 Day OTP Challenge LIST!!!!(30日チャレンジ)》をはじめて今日で四日。昨日までの戦歴は負け続きだ。
一週間と少し前、兄さんと無事に恋人同士になれたのは良いものの、その後の俺と兄さんの関係はそれまでのものと何一つ変わらなかった。一緒に食事をするのだって、一緒に遊びに行くのだって、一緒に住むことすらしているというのに、これ以上何をすれば良いというのか。
それはもちろん、キスだとか、ボディタッチだとか、……それ以上だとかをすれば良いのだろうけれど、その先に《進もう》とするには家族でいた時間が長すぎた。
恋人になるための移行期間。
そのために兄さんが見つけてくれたのが《30 Day OTP Challenge LIST!!!!(30日チャレンジ)》だ。毎日お題に則って行動していけば、三十日後にはきっと兄さんのちゃんとした恋人になれるはずだ。
だというのに、この三日、俺は負け続きだった。負け、というのはつまり、兄さんに翻弄されているということだ。手を繋ぐのだって、ハグをするのだって、映画を観に行くのだって、俺ばかりがドキドキしているような気がする。
兄さんを恋人として見る、という面では良い兆候だろうし、今回のチャレンジには勝ちも負けもないのだが、俺ばかりが赤面してしまうというのは少し面白くない。俺だって兄さんを慌てさせたいし、ゲルマン男児たるもの、恋人を立派にエスコートしてみたいではないか。
敗因は何かと考えてみたところ、お題を知るのが遅すぎる、ということに思い当たった。俺の手元には三十日分のリストが無い。当初、リストが載っているサイトのURLを教えてくれと兄さんに言えば、兄さんは「俺が知ってるから良いだろ」と言った。そうか、兄さんが知っているならそれで良いか、と過去の俺は納得してしまったので、俺はリストの中身を詳しく知らないでいる。だがそれが敗因だったのだ。
直前に「今日のお題はこれだぜ!」と言われるから対処が出来ないのだ。事前に知っておけば、俺だって余裕を持ってお題に臨めるのではないか。そう思って俺は、昼休みの間に兄さんにメッセージを送った。わざわざ聞かなくても自分で検索して見つければ良いのだろうが、見つけたリストが兄さんのそれとまったく同じものである保証がない。ならば兄さんに聞いた方が確実だ。それを口実に兄さんと連絡を取りたいだなんてことは、断じてない。
《今日は「デートに行く」だぜ!》
兄さんからの返事を見て、俺は動揺した。
デート!
思わずスマートフォンの画面を手で隠してしまう。それとなく周りを見回したが、職場の皆は自分たちのことに夢中になっていて、こちらを見ている者は誰もいなかった。
小さく息を吐いて再び画面を見る。
デート《Date》。
四文字のアルファベットが眩しい。普通の兄弟なら決してしないものだ。それに、著しく仲の良い兄弟も。
緩みそうになる唇に力を込めながら、俺は兄さんへの返信を打った。
《俺が、考える》
送信。
送ると同時に、俺のメッセージの傍にチェックマークが付いた。兄さんがメッセージを読んだということだ。
《楽しみにしてるゼ!!!》
過剰なエクスクラメーションマークと笑顔のヒヨコの画像――兄さん曰く、あくまでも小鳥らしい――を見て、俺は思わず小さく笑った。
ふふ、兄さんを驚かせてやる。
と思ったところで気が付いた。
……デート?
ふわふわと浮つきそうになる心をよそに、俺の脳は冷静に首を捻った。
昨日もしたのに?
昨夜は兄さんのエスコートで映画を観に行った。その後食事もして帰りは路地が暗くなっていたことを良いことにこっそりと手を繋いで歩いた。これがデートでなければなんだと言うのか。
昨日の今日で新しいデートコースを考えろというのは俺には難しい。ここにイタリアかフランスがいれば相談が出来たのだが、生憎ここはベルリンの真っただ中だ。イタリアとフランスとの会議は予定されていないし、目の前の仕事を放り出して会いに行けるはずもない。電話をしても良いだろうが、ベルリンの地理に一番明るいのは俺だ。他国に聞いてどうする。
「む、……」
浮ついた心が戻ってきて地に足をつける。さて、どうすれば良いのだろう。
考え込んでいるうちに昼休憩は終わってしまったらしい。険しい顔をする俺に、書類を持った部下が控えめに声をかけた。
「ただいま……」
「ぶはっ! なんだよヴェストその顔!」
俺の顔を見るなり、兄さんが噴き出して笑う。ハグをする代わりに兄さんは、俺の眉間の皺に指を伸ばした。
「誰かにいじめられでもしたかー?」
くすくすと笑いながら、兄さんの指が俺の眉間の皺を伸ばす。反対の手で俺の二の腕を軽く叩くが、俺の気持ちは沈んだままだ。
「……何も思いつかなかった」
言い訳をさせてもらうのならば、今日は予定外に忙しかったのだ。遅くなる前に帰って来れたことを褒めてほしいくらいには忙しかった。そのため仕事中はデートのことを考える時間も余裕も無く、気が付くと帰宅時間になっていたのだった。兄さんを驚かせるためのデートの予定を練るには、五駅分のトラムの乗車時間は短すぎた。
「兄さんを喜ばせたかったのだが……」
落ち込む俺の背中を、兄さんが叩く。
「一緒に考えたら良いじゃねぇか」
「でも、俺が考えると言ったのに」
「気にすんなって! ほら、デートで何したい?」
「それなんだが……」
ダイニングのソファへ誘導されながら、俺は続けた。
「昨日もその、デートみたいなことをしただろう? 今日同じことをしても、つまらなくはないか?」
「俺様とデートすんのは飽きたか?」
「いや、そういうことではないんだが……その、せっかくのチャレンジなのに、同じことをするのはルール違反でないかと思って……」
「お前、相変わらず固ぇなー!」
兄さんが笑いながら俺の頭を乱暴な手付きで撫でてくる。整髪料で整えた髪が乱れて、前髪が一房俺の額にかかった。
「それじゃあよ、買い物行こうぜ!」
「買い物」
「本屋。お気に入りの作家の新作が出たって言ってただろ? 丁度良いし、買いに行こうぜ!」
買い物。なるほど、それなら昨夜の行動にも重なっていないし、デートのようだと言うこともできるだろう。
さすが兄さんだ。
「ほら、行こうぜ!」
兄さんが差し出した手を、俺は掴んだ。
俺も兄さんも、読書は好きだ。そう言うと一部の国は「まさかプロイセンが」と胡乱な表情を浮かべるかもしれないが、驚くことなかれ読書量は兄さんの方が多いくらいだ。俺の方が仕事などの拘束時間が長いというのも理由の一つではあるが、純粋に兄さんの方が読むのが速いのだ。集中した兄さんは、それは本当に読んでいるのかと問いたくなるような速さでページをめくる。最近はあえてゆっくり読むことにしているようだが、それでも一般的には速い方だろう。
俺と兄さんがやってきたのは大型の本屋だ。俺が人として生きる時に使う人名と同じ名前のその本屋は三階建てで、各フロアごとに売られている本のカテゴリーが異なっている。
「ルートヴィッヒ」の本屋があるのなら、「ギルベルト」の本屋もあるのだろうか。
そんなことを思いながら、俺は兄さんと共に本屋に足を踏み入れた。
本は好きだ。本屋も好きだし図書館も好きだ。
俺も兄さんも本を読むのが好きだから、家の中の本棚は常にいっぱいになっている。図書館で借りれば良いのだろうが、国内の経済と著者を応援したくて俺も兄さんも本は買うことにしているのだ。ある程度増えすぎてしまったら、国内の学校や病院などに寄贈する。
インターネットが発達した現代なら、クリック一つで本も買えてしまう。それでも俺は直接本屋で買い物するのが好きだ。本の並べ方に店員の好みや意図が読みとれるのが楽しいし、買う予定の無かった本とたまたま目が合うのも運命のようでおもしろい。
兄さんの読む本のジャンルは特に決まっていない。だから本屋に入った時も、兄さんは心の赴くままに店内を歩き回っている。一方俺は見るジャンルは決まり切っていて、はじめお菓子のレシピ本のコーナーをそれとなく通った後――これは、人がいないかどうかを確認するためだ。いなければそのまま雑誌を手に取るし、人がいれば立ち去ってまた後から寄る。これはひとえに、お菓子作りが趣味だと知られてしまうのが恥ずかしいからだ――、文芸書コーナーへ進む。そういったところには売れ筋ランキングなどが掲示されていたりするのでそれを見た後――そして今日は目当ての新作を手に入れた後――、歴史書コーナーへと向かう。俺が見るのは主にローマ帝国やイタリアの歴史などの棚だ。新しい本が出ていないかと確認するのが楽しい。そして最後は自国史についてのコーナーだ。「ドイツ」に関する本はチェックするようにしているのだが、たまに知らない本が出ていたりしておもしろいのだ。
「あ、」
ふと、見知らぬタイトルを見つけて俺はその本に手を伸ばした。
ずっしりと重いハードカバー。表紙には見慣れた国旗がデザインされている。その表紙とタイトルに、どうしようもなく胸が高鳴った。
「ヴェーストー」
店内を見終わったらしい兄さんがこちらへやってくる。
「何持ってるんだ?」
「兄さん! 見てくれこれ!」
表紙が見えるように、手に持った本を兄さんに差し出す。
「『プロイセンの知られざる裏側』! すごい! こんな本が出てたなんて!」
「ちょ、ヴェスト、声でかい」
「俺としたことがチェックし損ねてたなんて!」
手の中の表紙には、黒と白の国旗に黒鷲――プロイセン国旗が大きくデザインされている。かっこいい!
「ヴェストー、声」
「だって兄さん! 兄さんについて書かれた本だぞ!」
「分かったからっ、声、下げような!」
背中を叩かれて、ようやく俺は自分の声の大きさに気が付いた。少し離れたところで立つ男性が驚いたふうにこちらを見ていた。
恥ずかしい。
俺はごまかすように、小さく咳払いをした。
「兄さん。これ買って、早く帰ろう」
中身が気になって仕方が無い。『プロイセンの知られざる裏側』――知られざる、だ。それに、裏側。一体何が書かれているんだろう。今晩は夜更かしをしてしまいそうだ。
駄目だ、口が緩む。
早足にならないよう気をつけながらレジへと進む俺に、兄さんが困惑げに話しかける。
「ヴェストー? プロイセンのことだったら、俺様に聞けば良いんじゃね?」
「何を言ってるんだ兄さん」
俺は立ち止まって兄さんを真正面から見据えた。
「俺は、貴方以外から見た貴方が知りたいんだ」
「え、」
「兄さんから聞いたら意味ないじゃないか」
「あ、えっと……」
兄さんがめずらしく口籠もる。
「……お前、俺様のこと大好きだな……?」
「当たり前だろう」
何をいまさら言っているのか。
分かり切ったことを聞く兄さんにあきれて、俺はレジへと足を向けた。
ので、俺の背後で兄さんが顔を真っ赤にしていることなど、俺は知る由も無かったのだった。
了
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