30日 CPチャレンジ 普独 10日目
10. 獣耳(衣装でも/生やしても) With Animal Ears
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「ただいま」
「おかえ――ぷっ、ははは! ヴェスト、なんだよそれ!」
仕事帰りの俺を出迎えた兄さんは、俺を見るなり大声で笑った。
「……イギリスの魔法が発動したんだ」
俺は苦々しくそう答えるしかなかった。
「ぷはははっ、やべ、腹痛ぇ」
文字通りおなかを抱えながら兄さんが笑う。……前にも見たなこの光景。
「まあ、とりあえず入って、飯食おうぜ」
目元に滲んだ涙を拭いながら兄さんが言う。頷く俺の頭には、ウサギの耳が生えていた。
「それにしてもタイミング良いなぁ」
「タイミングとは?」
「ん」
兄さんがスマートフォンの画面をこちらに突き出す。そこには《10. With Animal Ears》(獣耳(衣装でも/生やしても))と表示されていた
「一応、この前使ったネコ耳とウサギ耳のカチューシャを用意してたんだけどな」
兄さんはちらり、と俺の頭に視線を向けると、もう一度小さく吹き出した。
《30 Day OTP Challenge LIST!!!!》(30日チャレンジ)――それが、兄さんのスマートフォンに表示されていた文字の正体だ。お題を指示するリストが三十個ならび、それを毎日順番にこなしていく。なぜそんなことをしているのかと言えば、俺と兄さんがなかなか恋人になれないからであった。兄弟としての期間が長かった俺たちは、さあ恋人になりましょう、といったふうに一二の三で切り替えられなかった。そのため、恋人への移行期間として、一か月間、お題に挑戦することにしたのだった。
「イギリスのやつ、実は知ってたりしてな」
「止めてくれ。……いつも通りの、ただの喧嘩だ」
「フランスか?」
「いや、アメリカだ」
なるほどなぁ、と兄さんは息を吐いた。イギリスの暴走は今に始まったことではない。が、周りを巻き込むのはいい加減に止めてもらいたい。
もきゅ、もきゅ、と兄さんが用意してくれたザワークラウトを味わう。せっかく兄さんと美味しい夕食を食べていると言うのに、素直に楽しめないではないか、まったく。
「まったく……俺みたいなのがウサギ耳など生やしたら周りの人間の目に毒だろう」
しかも、ロップイヤーだ。垂れた耳が頬やこめかみに触れてくすぐったくて仕方がない。
思わずため息を漏らしてしまう。せっかくの夕食だと言うのに。
二度目の溜め息を吐いてしまわないように、俺は急いでザワークラウトを口の中に詰め込んだ。もきゅ、もきゅ。美味しい。
もきゅ、もきゅ、も――
「可愛いと思うけどなァ」
――ぎゅ!?
舌を噛んでしまって、俺は身体を跳ねさせた。思わず咳き込む。
「に、兄さん、何を言って……」
「それ、元の耳はどうなってんの?」
テーブルの向かいに座った兄さんが、頬杖を突きながら言う。
「……そのままだ。動物の耳はあくまで飾りらしい」
「ふーん」
先ほどのは聞き間違いだろうか。
俺の答えを聞いた兄さんは満足がいったらしく、続けて何かを問うことはなかった。
咳払いをして気を取り直す。
ヴルストにフォークを指したところで、
「写真撮って良いか?」
「……へ?」
「写真」
二拍して兄さんの言葉をようやく理解する。
「嫌だ!」
慌てて首を振る。こんな姿、撮られてたまるか!
というか、兄さん、いつの間に隣に来たんだスマートフォンを構えるのを止めろ!
「兄さん!」
「良いじゃんかよ!」
「駄目ったら駄目だ!」
「えー」
兄さんが唇を尖らせる。数秒のにらみ合いの後、兄さんはしぶしぶスマートフォンをズボンのポケットにしまった。
「じゃあ、せめて触らせろー!」
「あっ、待て兄さ――!」
兄さんの手が俺の耳――ウサギの方だ――に触れた瞬間、ぼふっ、という小さな爆発音が兄さんの頭の上から響いた。
「へ、?」
不思議そうに上を見る兄さんの頭には、俺と同じロップイヤーの耳が生えていた。視界の端で揺れる垂れ耳を見て、兄さんがばつの悪そうな表情を浮かべる。
「……まさか」
「ああ。触ると移るんだ」
「マジかよ!」
明日の朝、無くなっているのを願うばかりだ。
了
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