‪ ふ、と頬に沿った手のぬくもりに、手の内の点字に落としていた盲目をそちらへ向ける。乾燥にところどころささくれ立ち、幾多もの闘争に立派な胼胝をこしらえた厚みのある手が、この大のおとこの顔面さえすっかりつつんでしまえるほどのおおきさでもって、ゆるゆると傷の残る肌を撫ぜてくれている。はらむぬくみはその圧倒的な筋肉量相応にあたたかく、まとっていた冷えがあたかも吸い込まれていくような感覚の心地よさに、思わず気が緩むままその手へと頬を寄せれば、彼はなにやら、ふ、と笑んだ吐息を漏らすのだ。‬
‪「‬ねこみたいな顔になってんぞ」
「……べつにふつうだが」
 くつくつとわらっては右頬にもやわらかく沿う手のひらに、それほどとろめいてしまったのか、と、いささかきまりのわるさに顔が苦くなった。なにもからかったわけじゃあねえよ、などとうそぶいては、すかさずちゅ、となだめるかのような軽いくちづけを降らせるのは彼の得意技だ。それでもおれが変わらず神妙に努めているのをなんだと思ったのか、彼はイギー、とひとつささめいたかと思うと、おもむろにそのおおきな腕でもっておれをすっかり抱きこめてしまった。背に滑る右手、後頭を抱く左手。
 あまたのいのちを掬い上げ、すこしでも多く取りこぼすまいと広く鍛え抜いた手のひらが、たったひとりに手を焼いている。
「……おまえは、手がいちばん、正直だ」
 節くれだった太い指に、かさついた皮膚に、彼の歩みのなにもかもが刻み込まれている。この身に触れる瞬間、ささやかに走る緊張や遠慮、おそれもまたその一部であるのだろう。たしかめるように、いたわるように触れるおおぶりの手は、いつだって底なしの情をありありと語る。
「……そんなに、うそつきなつもりはねえんだがな」
「素直ではないだろう」
 少なくとも。
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初公開日: 2020年08月02日
最終更新日: 2020年08月11日
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