二次創作ファンアート部屋
ローコラマンスリーお題「花」で一本
花は桜 君は美し/いきものがかり で書きたい
転生現パロ
ローくん:記憶なし(おぼろげ、思い出せていない)
コラさん:???(多分記憶ある)
→ここが悩みどころで、ローくんが記憶なしの場合コラさんは、生きているならば、しあわせならばそれでいい、と一人で満足して消えてしまいそうなんだけど
→ここは初回に出会ったときにローくんがなにかしら腕を掴むなり無自覚の執着というか望みを見せることでものすんごく迷った末に連絡をしたという流れが自然かもしれない コラさんにも未練だって執着だって明らかにあったわけなんだから
初対面のあと別れ際に名刺(連絡先)を渡すローくん
あんた、見たところ相当あぶなっかしいようだから
また怪我とか、なにかあったら――
いや
なにもなくても
よかったら、連絡をくれ
季節:初春~ 桜が芽吹きはじめている頃の雨、雲間から覗く陽光に水たまりを叩く雨のしぶきがきらめく
傘を差して待っているコラさんの横顔
そうだあのひとだ
つめたさをほのかに溶かしていくような、春のようなひとだった
執筆中BGM:花は桜 君は美し-instrumental-/いきものがかり
 見知らぬ番号が液晶に表示されている。窓を叩く雨音を背に、続く細かな振動音を、三度ほど、固唾を飲んで見過ごす。その、電話の主がいったいだれであるのか、おれはきっと知っていた。
(『よかったら、連絡を――』)
 脳裏によぎらせていたのは、一月ほど前に連絡先を手渡した、あのひとのことだ。駅の階段、その一番上から派手に転がり落ち、医者であるおれの前で尻もちをついたまま流血しながらも、唖然とこの顔を凝視していた、とほうもない大男。帽子のずれ落ちた、厚みのある金髪の下、お世辞にも良いとは言えないあかい目つきが、ひたすらにぶれていたものであったから、おれは、すわ脳震盪でも起こしたのかと、泡を食って救急車を呼んでは仕事場にとんぼ返りをしたのだったか。
 だいじょうぶです、だの、頑丈なんで、だの、なにやらもごもごと口走ってはやけに帰りたがる壮年のそのひとを、強引に検査に回し、異常がないことを確認して外傷の処置をする。大事に至らなかったからいいものの、あんた、気をつけねえと死ぬぞ。目の前で繰り広げられたあまりの転落ぶりを思い返して言えば、ずっと視線も合わせようとしなかったそのひと――名をドンキホーテ・ロシナンテというらしい――は、虚を突かれたように持ち上げた目をわずかに見張ったかと思うと、ああ、と、その高い頬でもって苦く笑んでみせたのだ。
(『……こればっかりは、死んでも治んなくってよォ』)
 ああ、いや、すみません。わけわかんねえこと言っちまって。くしゃ、と、限りなく薄い眉を下げて、包帯を巻いたばかりの頭を掻こうとするそのひとに、わけはわかんねえが、なにが言いたいのかはなんとなくわかった、と、その手を制す。またぎこちなくわらうその、涼やかな目尻には、かすかな小皺が寄っていた。
(――なんだ?)
 いきおい、胸がざわつきだしたのは、このときのことだ。奥深く、手も届きそうにないそこが、静かに、けれどたしかに、明確に波立って、それはひとつき経ったいまでも変わらず、ほとんど気がかりのようにおれを惑わせている。そのときのおれも、きっと、いてもたってもいられなかったのだろう。今度こそ帰り支度をし、じゃあ、ありがとうございました、と頭を下げて去ろうとするその腕を、おれはつい、引き止めるように掴んでしまっていた。
 驚愕したように振り返る、そのかんばせに、どうしてこれほどまでに焦燥を覚えるのか。それすらもわからぬまま、待ってくれ、と、からからに渇いた口がひとりでに動く。気づけば、もつれるように名刺を取り出していた。取り出したそれを差し出して、しかしいちど引っ込めては、空白に個人の連絡先を走り書いて、ふたたび押しつけた。
(『……トラファルガー、ロー……』)
 当惑しながらも受け取ったちいさな紙切れに落としたそのひとのひとみが、この名をたどるそのくちびるが、ああ、いま思えば、なぜ、あれほどまでに揺れ動いていたのだろう。あんた、相当あぶなっかしいみてえだからな。かかりつけ医がいるかは知らねえが、うちなら大抵の怪我はきれいに治してやれるし、また派手に怪我とか、なにかあったら。前のめりに舌を回しながら、正体の知れぬこの胸の感情が、ひとつ、おそれというかたちをとっていることを自覚する。はたしてなにをおそれているのか、探る間も惜しい頭に唐突に浮かんだ、二度と離してはならぬという強迫は、御託を並べていたこの口に、す、と息を吸いこませた。
 いや。声がかすれる。目の前の、冬にこごえたようにわびしげなひとが、たゆとうひとみをまっすぐにこちらへ向ける。
(『……なにもなくても、連絡をくれ』)
 妙に力のこもった声になってしまったかもしれない。見ず知らずの、ただ事故現場に遭遇し傷を処置しただけの、それだけの人間が見せるには、いささか気味のわるい執心であったかもしれない。
 けれど、あのひとは、ありがとうと告げたのだ。うなずくでも、首を振るでもなく。
 電話が鳴っている。あれからひとつきも経った、いまになって。
「もしもし」
 しばしぼうぜんと画面を見つめてから、このままでは切れてしまうと我に返るなり端末を掴み取っては応答する。向こうはずいぶんと静かであった。よもや不審電話であったかと、己の早とちりを視野に入れかけたそのとき、もしもし、と、ひくくやわらかな声が響いた。
 あのひとの声だった。
「ろ……アー、トラファルガー先生?」
「そうだ」
 あんた、ロシナンテさんか。たったひとつき、それだけしか経っていないはずであるというのに、とほうもなくなつかしく感じるその声音に、喉の奥が締まる。こじ開けるように名を問うた。平常であれば防犯上危険極まりないその決めつけが、どうしてか絶対にまちがいではないと、胸の奥でだれかが叫んでいた。
 ああ、と、スピーカーの向こうの声が笑んで崩れる。なんだ、おぼえててくれたのか。ひとりごとのようにそうこぼし、はは、と、余韻を残すそのわらいかたに、あの、しかたなさそうに目を細める面貌が瞼に浮かんだ。それはいやに鮮明であった。たったいちど、あの日にしか目にしたこともないというのに、まるでずっとずっと、だいじにしまいこんでいた古びた写真とぴったりと重なりあっていたかのように、あまりにも容易に浮かび上がった面影であった。
 また、怪我でもしたのか。落ちる沈黙に投げた質問は、もしかしたら、無粋に過ぎたのかもしれない。ことばに詰まる気配、続けて滑らせる口に、思わず口端が緩む。
「怪我は……いや、ちょいちょい、してはいるんだが」
「だろうな」
 あの調子なら、そうだと思った。また派手に転けて、尻もちでもついてるんじゃあねえのか。距離感を見誤ったような台詞の波が、自然と口をついて出る。今度こそ、電話の相手はしん、と静まり返った。
 いったいおれは、なにを言っているのか。引きかけた血の気は、しかし、その静寂の中のかすかな息遣いに、ぴたりと止まる。吸っては吐き、また吸っては、わななくように深く、ゆっくりと息を吐く、そのひとは、いくらかそうした呼吸を繰り返した末に、ひとつ、声を絞り出すのだ。
 ロー。濁った声音であった。
「なんにも、用がなくたって、よかったんだったよな」
 つとめて明るい、されど、かき乱れた声であった。ず、と、ひそやかに鳴ったのは、鼻をすする音だったろうか。読めなかった向こうの気色が、ひといきに見えた気がした、そのときであった。
「……逢いてえなって、思っちまった」
 に、と、きっと浮かべているのは下手な笑みであった。自嘲混じりにぽつりと、それでいて切々と、告げられた感情は、明らかに願いであった。
 心臓が駆けている。もうすこしで届きそうな、おぼろげななにかを追って。
「――逢おう」
 いてもたってもいられなかった。今すぐにでも飛び出してしまいそうな身を抑えて、驚く彼に数時間後の約束を取りつけた。うろたえながらも、わかった、と、電話の向こうでうなずいてくれたらしい彼は、じゃあ、と、濡れた名残のある喉をふるわせた。
「あの駅で、落ち合おう」
 花冷えの雨はいまだ天より降り注いでいる。傘に弾かれる雨粒の響きをぼんやりと感じながら、息を切らして駅へと続く道を足早に歩く。薄紅色の花をつけはじめた木々は春霖に濡れ、この悪天候はしばらく続くと、なにかの媒体で予報士が解説していたのをふと思い出した。
(……おれは、なにがしたいんだ?)
 音がこもる傘の中、信号を待つひとびとに混じって立ち尽くしながら、自らの呼吸を聞く。医者の家に生まれてこのかた、家族にも、お調子者ではあるが友人たちにも恵まれ、何不自由ない生活を送ってきた。十分にすぎるあたたかな場所にいながら、しかし、こころのどこかで、おれはずっとなにかを探していた。胸の深層、それこそ魂に刻みつけられているのではないかというほどに強烈なその渇望は、十三の冬を越えたあたりから、さらに苛烈になっていった。いったいなにを探しているのか、それすらもなにもわからないまま、気のおもむくままに旅を繰り返した。何度目かの旅から、おれが放蕩癖を発揮する法則を掴んだ、と得意になった友らが時折同行するようになり、それから何年か経ってはじめて、おれは隠し持った渇望をひとに白状したのだ。
 友らは驚かなかった。なんか、そんな感じだと思ってましたよ、などと、ただわらっては、こころを寄せてくれた。
(『探し続けりゃあいいでしょうよ。あんたの人生なんだ』)
(『おれらも協力しますよ。といっても、なんもわかんねえけど』)
(『わかんなくても、見つかったらいいよね。見つかるよ』)
 キャプテンなら。身に覚えのない呼称をし続け、楽観なのか適当であるのかわからぬ台詞を吐く友に、たったそれだけで、胸のつかえがすこし取れたような、そんな心地がしたことを覚えている。歳を重ねるうち、旅の頻度は次第に減り、二十も半ばとなったいまでは、年に一度ほどにまで減少した。
 ただの若気の至りであったのか。悩める思春期の、ありもしない葛藤であったのか、そう問われれば、いっそうなずいてしまいそうなほどに、いまや漫然とした生を送っていた。ふと舞い降りた静寂になにかを探し出そうとしてしまいながら、周りの胡乱な目には我に返るような、そんな、うすら寒い日々だった。
 それだから、彼が眼前に降ってきたとき、いきおい目覚めた胸の熱に、惑うしかなかったのだ。あの焦燥は、あのおそれは、たしかに彼への渇望であった。手放したくないと、なくしたくないと、喉を裂かんばかりにがなるだれかは、ああ、ほかでもない、おれ自身にちがいなかった。
 ひとめぼれでもしてしまったのかと思った。されど、そんな生半可なものではないと、このさびしさは告げていた。
(おれが、探してたのは、きっと――)
 空が、やにわに明るさを帯びる。雲間から覗く陽光に、水たまりを叩く雨のしぶきがきらめく。いつしか、駅はもう目の前であった。
 心の腑が揺らぐ。遠くからでも一目でわかる、ひときわ大きな背丈の、黒い傘が、近くの樹の下に佇んでいる。不意に差し込んだ木漏れ日に気がついたのだろう、深く差されていた傘が、誘われるように持ち上がった。
「――あ」
 待ち望んでいた瞬間を、見たような気がした。最期の力を振り絞った笑顔で、閉じられる箱。次にそこが開かれる、そのときには、きっと彼が、あんたが、そこにいてくれると思っていたのだ。あんなわかりきった、やさしいうそなんかつかなくたって、おれはあんたといられれば、あんたがなにものであってもどうだってよかった。ただ、なにもかもをくれようとしたあんたの、そのこころと、ずっととなりあっていたかったのだ。
 いとおしいかんばせが、雫を乗せたちいさな花を見上げている。降りしきる催花雨が、燦々と彼の輪郭をかがよわせて、ああ、霞の先に浮かぶそのほほえみを、おれは、もう二度と離さぬものかと、跳ね上がる飛沫も知らず、駆け寄らずにはいられなかった。
「――コラさん!」
 傘もかなぐり捨てて、その身を抱きしめていた。ざわめく群衆にもかまわず、腕に余る巨躯のぬくもりに顔をうずめていた。顔を上げる。湿りだしてしまいそうな視界に、ひどく瞠目した、彼の、おれの恩人の顔が映る。
 いまにも崩れてしまいそうなくちびるが、それでも、やさしい弧を描いた。
「……待たせたな」
 ロー。そっと背に、しっかと回される片腕。頬が濡れたのは、雨のせいなどではけしてなかった。
きみはうるわし
2025.04.01
BGM:花は桜 君は美し/いきものがかり
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ローコラマンスリーお題「花」で執筆中
初公開日: 2025年03月28日
最終更新日: 2025年04月01日
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