水天一碧/金銀の日
 今年も夏がやってきた。
 今夏も時の政府は各本丸にとある通達を下し、その任務を遂行するため多くの刀剣男士たちが海辺へとやってくる。
 名付けて、連隊戦・海辺の陣。
 その大型任務は、各本丸だけでなく時の政府に所属する男士たちにも影響を及ぼした。
 管理本部特殊怪異対策課とは、山姥切長義と山姥切国広が所属する、時の政府のとある部署の名称である。その名の通り、本丸やら、万屋やら、はたまた政府内の施設だとか、そんな場所で起こる少し変わった怪異現象の対策、解決のための部署。……であるはずなのだ、本来ならば。
「……今度は海、か……」
 諦めの色をのせたため息とともに落とされた言葉は、山姥切長義のもの。
「山姥切、俺たちは特殊怪異対策課に所属する刀剣男士であっているか」
「ああ、そうだよ」
「今回の任務は怪異に関することだったか。俺が見た書類に怪異のことは一つも書いてなかったが」
「俺が聞きたいね!!」
「む......」
 くありと牙を剥いた長義をみて、国広は口を閉ざした。
 触らぬ神に祟りなし。
「はー、全く、名ばかりの部署だな!」
 実力的な意味ではない、むしろそちらは申し分ないほどだ。名ばかりなのは、案件的な意味で。
 特殊怪異対策課、通称特対課に持ち込まれる案件はその実、怪異に関係のないことも多く、現在の特対課の実情はなんでも屋ともいえるようになってしまった。
 とはいえ、どの任務も遂行の必要性はあるもので、結局のところ全て引き受けてしまっているのが現状。
 今回の任務もそうした、本来の管轄分野とは少々外れた内容だったのだ。
「……意外にも、面白かった」
「そうか」
 よかったな、と言うべきか言わざるべきか悩んで、国広は言うのをやめておいた。
 どうも山姥切国広という刀剣男士は、一言多かったり逆に言葉が足りなかったり、そう言う傾向にあるらしいと言うことを最近学んだからだ。ソースは隣の課に勤める極の同位体である。
 任務がひと段落した今、二振りは浜辺に佇んでいる。特に理由はない。国広がこれまで海に行ったことがないと言ったら、いつの間にかここに連れられてきていた。
 ざざっ、ざあぁ……と、寄せては返す波。たえず砂をさらうその様子が興味深くて、ついじっと眺めてしまった。
「気になるなら触ってみれば」
 長義の声が降ってきて、そこで自分がいつの間にかしゃがみこんで波打ち際を眺めていたことに気がついた。
「ほら、布が汚れるよ」
「汚れているくらいでちょうどいい」
 砂に投げ出されていた布の端を結ばれそうになり、慌ててたぐり寄せる。
「いや、……まあいいか」
 諦め声にほっと息をついて、それからおそるおそる水に手を伸ばした。
 目の前に広がる、果てしなく続く海。懐かしいな、と小さく口の中で呟いた。ただの刀であった頃の記憶。閉ざされた城の中から見えた海。
 眼前の景色を、過去の景色と重ねながらぼんやりと眺めて、ついと目線を落とす。白い布の塊から、そろそろと伸ばされた手がぱしゃぱしゃ、水と戯れていて。
 海は初めてだという。……どうやら、ただの刀であった頃に海を見たという記憶はないようだ。
 じっと水を眺めるその表情には相変わらずなんの色もないけれど、その瞳にはゆらゆらと揺れる波が映り込んでいた。
「山姥切」
 呼びかけに応えば、ずい、と差し出された手のひらの中には色のついた夜光貝が一つ。
「みつけた」
「これは......」
 虹色の夜光貝、と言うやつなのでは。海辺に出陣する刀剣男士が必死に集めている代物のはずだ。
「持って帰ってもいいか」
「えっ、持って帰るの」
 まさかの申し出に驚いて、思わず聞き返してしまう。
「綺麗だから......」
 やはりだめだろうか、と呟くその姿は少々しょげているようにも見えて、長義はひとしきり悩んだ後、頷いた。
「まあ、そこに落ちていただけならいいんじゃないかな……でもそれ、多分一定の期間を過ぎたら消えると思うよ」
「わかっている」
「なら、まあ、いいと思う」
「わかった」
 国広は虹色の夜光貝を布の中にしまいこんだ。……いったいどうやってしまっているのだろうか。
 立ち上がって服の砂を払い落とした国広が、長義の隣に立ち並ぶ。そうして、二振りで海を眺めた。どこまでも続く晴れ渡った青いそれと、穏やかな青い海。まるで溶けて一つになってしまうのではないかと言うほど視界を埋め尽くす青、蒼、碧。目眩さえ覚えてしまうかのようで。
 白い鳥がゆったりと、優雅に大空を舞う。
「あれはどこまで飛んでいくんだ」
 国広の問いに、長義はさあねと応えた。
「広い海も、飛ぶ鳥も、自由でいい」
「お前だって自由だよ」
「……そうだな」
 黙って空を見上げる国広を、長義は見つめた。
(お前は覚えていないだろうけれど)
 城からみた、小田原の海は遠かった。自由の象徴の一つでもあるそこに、自力でたどり着くことは到底かなわなかった。かなわなかった、はずだった。
 けれど、今は違う。時の政府という枷の中にあれど、今の自分は、自分たちは自分の足で好きなように歩き、自分の意思で、自分の手を使って好きなように刀を振るうことができる。これが刀にとって最大の自由でなくてなんだろうか。
ひときわ強い風が吹いて、灰色ははためき白色が翻った。
一瞬ののち、そこに在ったのは眩しい太陽の光にきらきらときらめく、美しい金と銀。
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小夜
伯仲ワンライ お題:水天一碧/金銀の日
63:08
小夜
なんとかひととおり終了...!
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向き
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伯仲ワンライ
初公開日: 2020年08月02日
最終更新日: 2020年08月02日
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コメント
配信のお試しもかねて。
果たして60分で書ききれるのか……。