「ねえ総悟、この服どうアルか?可愛い?」
「ああ、よく似合ってらァ」
「む...」
「?...どした?」
「んーん...何も。アリガト!」
沖田総悟は、決して『可愛い』と言ってくれない。
アパレル店員として、同じ職場で出会った私たち。
付き合うまでに、時間はかからなかった。
「あのネ、私のネックレスが見当たらないんだケド...」
「あー、それならベッドサイドだろィ。ほら、昨日俺が外した」
「昨日?」
「...夜。絡まったら痛ェかと思って...」
「...あ、」
総悟は、したり顔で笑ってみせる。
「...思い出した?まあ無理もねェか。チャイナはあの時すでにそれどころじゃ...」
「アーー!!もういいアル!分かったから!ありがとネ!」
ダッシュでベッドサイドのネックレスを掴み、洗面所へ駆け込んだ。
「チャーイナ、なんで逃げんの?」
続いて総悟は私の横から手を伸ばし、慣れた手つきでピアスを装着する。
「べ、別に逃げてなんか...あ!またいつの間にこんなところ...!」
コンシーラーを重ね、首元についた鬱血痕をすかさず隠した。
「...今日仕事じゃねえのに」
「さすがにここは目立ちすぎアル...」
「痛ァッ!?」
「...薄着にも程があらァ。朝から誘ってんの?」
「そんなわけないダロ!早く準備しないと映画に間に合わないネ!」
「チャイナが寝坊すんのが悪い」
「そ、総悟が昨日しつこくしたから...!」
「なんのことかねィ...」
「む...!今日の服も昨日のうちに決めておきたかったのに...ひゃっ!?」
総悟のお気に入りの指輪が、お腹にひんやりと触れた。
「なァ、1回だけ...」
「いい加減にするヨロシ!!」
寝起きの割には、良いアッパーが繰り出せた気がする。
*
「あうーー」
「ん?なんでィ、かわいーねィ」
映画館を出たところで、総悟は小さな女の子に懐かれていた。
「こら!どこでも行かないの!すみません...」
「いーえ。お構いなく」
子どもとか動物だったら、『可愛い』って言うところ見たことあるのにナ。
「チャイナ、あっちの店行きてェ」
「え、あ、ウン!」
デート中はファッションの勉強も兼ねて、必ずウィンドウショッピングをしている。
「...このワンピ、可愛いアル...」
「...試着する?」
「...ウン!」
実際に試着したり、購入することも度々あるわけで。
「みて!ごっさ可愛いアル!」
「...ん、トレンドもおさえてて良いと思う」
「ぐぐっ...」
やはり、ここでも『可愛い』はもらえなかった。
総悟はセンス良いから、仕方ないのかナ。
ただ一言、『うん、可愛い』って言ってほしいだけなのに。
「だって、彼氏だヨ?可愛いって思われたいアル...」
「ん?」
「...はっ!!」
しまった、思わず口に出ていた。
「...可愛いって思われたい?」
「ち、違っ...いや違わないけど、これはその...だ、だって!総悟は私に可愛いって言ってくれたことないんだもん...」
「...いや、いつも心の中で死ぬほど思ってっけど」
「え?」
「...そういうことほど、言うの恥ずいっていうか、...すげー言ってた気でいた」
「あ、ううん...私こそ変なこと言ってごめんアル...」
「別に変じゃねェよ。俺だってチャイナにかっこいいって思われていたいし、言われると嬉しい」
「...かわいい、チャイナ。...それ着て帰る?」
「ううん、今すぐ着替え...きゃっ!?」
「...そういうところ。バ可愛すぎてしんどい」
「...バは要らない」
「...要望の多いお嬢さんだねィ」
「...服買ってくれるから許すアル」
「...むかつく」
「よく考えたら俺、昨日も可愛いって言ってた気がするんだけど」
「いつネ」
「だーかーら、夜。...なんなら今夜試すか?せいぜい意識飛ばさねェようになァ」
「なッ...!!」
「新作入荷したアルか?ごっさ可愛いネ!社割使おうかナ〜!」
「ねえ総悟、右と左どっちが可愛いアルか?」
「んー?」
「...まんなか」
服で両手が塞がっているのをいいことに、驚く暇もなくチュッとされた。
「...チャイナがいちばんかわいい」
彼はすっかり、『可愛い』攻撃を覚えるようになり。
「いつも人前でちゅーとかしないのに...なんで?」
と呟けば、
「...チャイナが可愛くて、つい」
確信犯は、そう供述した。
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