毎年この日になると、店がバーに切り替わった途端に大宴会が始まる。特別触れ回っているわけでもないのにと不思議に思っていたが、去る年にリリスが数名に声を掛けているのをたまたま目撃してしまった。こうして着々と宴の準備をしていたらしい。なんともまぁ、マメなものだ。
祝われる当人だが、それほどこの日を意識したことはなかった。どちらかというと「七夕」というイベントの前に自分の誕生日など霞んでしまうだろうと、当人でさえ思っていた。
ラブロマンスを語るつもりは無いが、年に一度の逢瀬という言葉の響きは決して嫌いではない。現実問題、可能かどうかは別としてだが。
自分など、半年と堪えられなかった。別れ方が悪かった、きっとそれだけが理由じゃない。
宴の席、客たちと混じって談笑している晴明に視線を向けると、彼はそっと微笑み小さく首を傾げる。今ではこうして自分の生活に溶け込み、日々を共にしてくれているその存在は何よりも心強い支えであり、今まで存在しなかった“色”を与えてくれた唯一の人だ。
忘れていたものを思い出させてくれた。知らなかったことに気付かせてくれた。挙げたらきりがないほどの変化をもたらしてくれた、今となっては何よりも大切な人だ。
カウンターを出ると晴明の居るその席に向かう。リリスがそれに気付くと、何も言わずにこちらの動きを目で追った。
「どうした、ますたぁ殿。一緒に飲むか?」
「そいつぁいい、椅子一つ持って来てこっち座れよマスター!皆でパーっと飲み明かそうぜ!」
晴明と一緒に飲んでいた内の一人が景気よく言う言葉に返すよりも早く、晴明がその男を見て小さく笑いながら首を傾げる。
「ふむ、そうかそうか。どうやら奢ってくれるそうだぞ」
「おう!今日の主役を持て成せるなんざ、鼻が高いってもんだ!」
全く気持ちのいい男だ。揚がる喝采に応えに来た訳ではないのが遺憾に思われるほどの持て成しに、悪びれながらも改めて晴明を見る。
「少し、表を歩かないか。……二人で」
呆気にとられたようにこちらを見る客らの中、晴明だけが目を真ん丸く見開いていた。
――やはり、急だったろうか?前もって抜け出そうと声を掛けておくべきだったろうか。どうやら晴明もこの席を楽しんでいるようだったし、悪いことをしてしまっただろうか。
一人悶々と考え込んでいる中、晴明が椅子を引いて軽く腰を上げた。
「だ、そうだ。という事で俺は行ってくる」
「ええっ、今日の主役がここで抜けるってのかよ!」
「今までずっと居たでしょうよ!宴もたけなわと思って、行かせてやって頂戴」
少し離れたテーブルに居たリリスがすかさず助け船を出してくれる。相変わらず口が立つことだ。今はそれに助けられた訳だが。
「すまんなぁ、まぁ皆で仲良くやっていてくれ」
引いた椅子を戻し、皆に声を掛けてからこちらに来た晴明がそっと俺の指先を掬う。
「では……行こうか、ますたぁ殿っ」
あどけなく笑うその姿が愛おしくて、思わず綻ぶ顔を隠す事も忘れたまま一度頷くと、その手を引いて歩き出す。宵闇の空。光る星を見て、こうして傍に居られることの幸せを改めて噛みしめながら歩こうと思う。
二人一緒に。