一連の出来事の情報収集班として臨時バディを組むこととなった野呂、三ツ三は売人捕縛の意味も含めて早速S市を歩く。中央公園は老若男女でにぎわい、それに焼きとうもろこしの路上販売だのドーナツ屋のテイクアウトだのがあればあっという間にちょっとしたアウトレット施設と変わらぬ盛り上がりを見せていた。やはり想像してはいたが人が多い。平日ならばまだしも土曜日であるその日は余計に人が集まっていた。
「あのぉ」
「なんだい?」
「これ、レベルゼロの僕たちが行っても大丈夫なんですかね」
「ん?……あぁ、そうか。君はまだ入って二年も経っていなかったか。私は異能力者だよ」
そして、君もかもしれないが。三ツ三がそう言いそうになるのをこらえたのは、それが予測の域を出ていないからか、はたまたヴィランに近い思想を持つ彼だからなのかは定かではない。野呂は驚いた様子でリアクションをした。
「えぇっ、えっと、その杖って」
「異能力の代償だ。ほとんど役に立たないから無能力者同士と言っても大差ないさ」
「その能力って……」
「自分で考えてみたらどうだい?もしかしたら小説家の才能が芽生えるかもしれないしね」
「……いいです」
元より男性に対しては厚かましい側面がある野呂と、NOXからの入社という経歴故あまり自分の話をしない三ツ三。もし人事部がこれを見たらどうしてこの二人を臨時とはいえバディにしたんだと思うだろうが、彼らはそんなこと知る由もない。それぞれの視線は合うことなく公園の人々に向いていた。
ふと、野呂が視線を止めた。男。それも、他の人より頭が一つか二つ分抜けている大男。たとえ異常が日常であるような探偵社員と言えども嫌でも目についてしまうその男は、その視線を気にせず誰かと話をしているようであったが、しばらくすると奥の方に行ってしまった。
「おっきい人だなぁ」
「どうしたんだい?売人を見つけたか?」
「いえ、今おっきい人がいたなって」
「気にするまでもない。探偵社にはそういう人はいくらでもいるだろ」
「まぁ、そうっすよねぇ。桂ちゃん、でしたっけ?も、おっきいですし」
「そういうことだ。売人がいそうだったり、逆に勧誘されたら教えてくれ。早急に捕獲する」
「はい……あの、やっぱちょっと行ってきていっすか?」
「連絡は忘れずにね」
はぁい、という生返事と共に野呂は珍しくパーカーを羽織る三ツ三からふらりと離れる。どうも彼といると調子が狂うというか、弄ばれているというか、そんなことを彼に感じていた野呂はずんずんとその長身の男を目指した。わかりやすい目標は見失うことなく、やがて追いつく。
「あ、あのっ」
「はい。何スか」
「たっ、探偵社の者なんすけど、話いいっすか?」
「あー、……まぁいいけど何?人待ってるんだよ」
「すみません、すぐ終わるので。えっと、ここ最近緑色の錠剤がはやってるらしいんですけど、知りません?」
フードを深くかぶった男からの視線はどうも背筋をヒヤリとさせた。全体的に雰囲気にとげがあると感じられるそれは、なんとなく近寄りがたいものだ。男は一つ舌打ちしたように目をそらして考え、また野呂をじっと見下ろす。その手の中には、一枚のカードが握られていた。
「これ」
「えっ?」
「そこのスキンヘッドのやつに渡せ」
そう言って男は遠くで聞き込み捜査を続ける三ツ三を指さす。背伸びをして彼を補足した野呂は、男の太い指に挟まるカードを受け取った。水色の涼やかなそれは、どこにも怪しいところはないし、それどころか文字もない。違和感はぬぐえなかったが、あくまでこっちは時間を頂戴している身であるし何よりこのすごみのある男から離れたい。そう思ってぺこりと頭を下げた。
「え、と。ありがとうございましたぁ」
「あぁ、そうそう。……『ダツを知らないか』って伝言しといて。じゃ」
「えっ?」
何やら不穏な言葉と共に男は背を向ける。聞こうとしたが、それは男の振り向きざまの鋭い黄色い目で阻まれてしまう。びくっと体を跳ねさせてせかせかと三ツ三の下に戻ろうとする。大体半分くらいの距離になったその時だった。
彼はシャツの胸ポケットに、なにかくすぐったさを覚える。指が二本と何かしらの異物。先ほどより大きく肩を跳ねさせるが、今度は反射でその『何か』を入れた人物を見る。白髪の男。先ほどの男には劣るが、それなりの背丈の壮年男性。真っ赤な目がアンダーリムの眼鏡の下でギラリと光っている。
「ひぇっ……!たっ、探偵社で」
「なぁ」
その一単語とも言い難い音で、野呂は何故かその身をこわばらせた。それは先ほどのような威圧感もなければ原因のわからない漠然とした恐ろしさではない。だが、野呂は確実にその男に向かって何かをしてはいけないと思ってしまったのだ。その老年は耳元まで顔を近づけて言葉をささやく。
「『Jenga』によろしくな」
男はぬらりとその場から離れた。ハッとなって野呂が慌てて胸ポケットを見れば。
そこには小さなジップロックに入った錠剤があった。野呂の指の太さの半分ほどの小さいもの、薄い緑色の、星型の錠剤が一錠。
「えっ、名前、あああ……」
聞き損じた。これによる失敗は二度目、正確にカウントするなら三度目だ。頭を抱えて野呂は公園にしゃがみこんだ。やってしまった。悲嘆に暮れていたその時だった。
「すぐに報告しなさいと言ったね?全く、よろしくないよ」
「っあ、みつみさ」
「さっきの男は私が咲依くんとリズくんに捕獲するよう連絡を入れた。安心しなさい。それより」
三ツ三は杖を支えに野呂の前にしゃがみこみ、その手の中のカードを掠め取った。
「話は聞くよ?」
「……ひゃい」
オカルト