夢を見た。
薄気味悪いくらい、現実みたいな夢だった。
上を見れば、果てしなく赤く濁った空。
下を見れば、どこまでも赤く乾いた砂。
こんな光景、現実でも夢の中でも見たことがない。
「おーい!」
僕は思わず声を上げて、弟を呼んだ。
でも、その声は赤い空の向こうに消えていくだけで、どこにも、だれにも届かない。
弟。
僕の大切な、この世でたったひとりの弟。
この世の誰よりも、僕のそばに、文字通り一心同体であるはずの弟の姿が、どこにもない。
「夢だから」という理由でなんか、絶対に納得できない。いいや、夢だからこそ、弟がいないとおかしいんだ。
僕はたまらず走り出した。どこにいるのかもわからない、弟の姿を求めて。
僕たちは、生まれたときから体が腰のあたりでつながっている。「シャム双生児」とか「H型二重体」というのだと、教団の先生たちは言っていた。
僕たちみたいに体がつながった姿で生まれてくる人々は他にもいるって、教団の図書室にある本で調べて知ったけれど、僕は本の中でしかそういう人たちを知らない。僕は、僕たちは、生まれたときからこの教団から外に出たことがないから。
これから出ることがあるのか、それはわからない。でも、この教団にとどまるにしても、ここから出ていくにしても、僕たちはずっといっしょだ。
弟と僕は、生まれつき体がつながっているせいで、ふたりでひとつの心臓を使っているって聞いた。だから、弟が寝ているときは僕が眠り、僕が眠っているときは弟が眠っている。
僕は、弟の声すら知らない。直接話したこともない。でも、僕らは体も心もつながっている。
だから、僕らは夢の中で会っていた。
僕によく似た弟の顔、現実では聞いたことがないけれど、弟の声ははっきりそれだとわかった。
鏡写しになったような弟の姿をはじめて見たときの驚きと喜びは忘れられない。
僕らは夢の中で、手をつないで走り回った。現実では決してできないことだった。
腰のところでつながっていなくても、手を繋いでいれば弟の存在を身近に感じることができた。
弟の体を抱きしめると、そこにははっきりと体温があった。胸に耳を押し当てると、心臓の音が聞こえた。弟だけの心臓の音が、涙が出るほどうれしかった。
同じように弟も、僕の胸に耳を押し当てた。弟は僕と同じように、嬉しそうに「兄さんの心臓の音が聞こえる」と言って、泣きながら笑った。
僕たちは夢の中で出会うたび、お互いの存在を確かめるように……いいや、お互いの存在を確かめるために、心臓の音を聞いた。
目が覚める度に、ベッドの左で安らかに眠っている弟の顔を見て、僕はほっとした。自分とよく似た弟の顔を撫でて、そのぬくもりに安心した。
現実では話すことはできないけれど、夢の中でなら声が聞ける。
けれど――。
赤い空と赤い砂の夢の世界をどこまで走っても、弟の姿は見つからない。
いくら呼んでも、弟の声はどこからも聞こえない。
聞こえるのは、風の音のような、動物の唸り声のような、うおおおおおおおん、うおおおおおおおんという音だけ。その音だけが、赤い世界の向こうから響き続けている。
突風に足元の砂が巻き上げられ、僕は目を覆った。
風は止まず、目を開けていられない。赤い砂嵐の中で、僕はかがみ込んで耐えていた。
やがて砂嵐が収まったとき……この夢の世界ではじめて、赤い空と赤い砂以外の物が見えた。
影だった。
なにか……建物のように見える。
砂嵐が薄れていくごとに、その影がだんだんとはっきり見えてきた。でも、はっきり見えてくるごとに、その建物がなんなのかわからなくなってくる。
赤い地面から赤い空に向かって、空と地面をつなぐように伸びているその姿は、塔のようだ。