『太陽に触れた日』
 先程までの喧騒が嘘かのように静かな帰り道だった。隣を歩く男は散々しゃべり倒し新人を卒業したイリーナや相棒であるルードをからかい屈託のない笑みを浮かべていたというのに、私がなんでもない世間話を振ろうとも「ああ」とか「そうだな」とか、上の空な返事しか返ってこない。しまいにはため息まで吐く始末だ。普段の飄々とした彼もこんな物思いに耽ける表情をするのだとついついマジマジとその憂いを帯びた横顔を見つめてしまう。
「……なんだよ、と」
「いや、なんか悩み事かなーって」
 あからさまに凝視する私の視線に居心地が悪そうにちらりと向けられた薄い青緑の瞳。魔晄の街灯が消えた街の夜更けに溶けきらない燃えるような赤い髪が、ちかちかと目の奥を刺激する。
……眩しいなぁ、といつも思う。壊れた世界にとってその色彩は酷く大きなものだ。太陽然り、夕焼け然り。彼の"その赤"は偉大なそれらと似たような印象だが、もはや太陽や夕焼けを越える彼の代名詞だと思っている。少なくとも、私は。
「無理には聞かないけどね」
 同じタークスだけどそれほど任務が被るわけではないし、同期でもない。それでも年月だけでいえば人生の大半を占めるほど長くなりつつある。遠からず近からず。その存在がそこにあるとしても、届かない距離。いくら恋焦がれた太陽に手を伸ばしたって、その手は空を掴むだけだと幼い子供だって知っている。
 だからこの場所がちょうどいい。その瞳にかかった薄暗い雲を拭うことは出来ないけれど、晴れるようにと願いてるてる坊主を作ることくらいなら私にだって出来るはずだ。
「さっきクラウドがどうとか言ってたよな」
「ん?」
 乾いた地面に転がる小さな石を蹴っ飛ばしながら歩いていた私とは対象的にそう言い足を止めたレノの突拍子もない言葉に一瞬何の話か分からなかった。それでも、そのさっきが今し方ではなく皆と飲み食いしていたところまで遡ったのだと直ぐに気づいた。まぁ彼にこんな顔をさせる悩みを私に言うとは思ってなかったから、きっと誤魔化すための会話だと瞬時に判断した。
「うん、久々に会ったけど元気だったよ」
「そうじゃなくてだな」
 セフィロスの案件の際当初は敵対していた私たちも最終的にはこの星を護るという大義の元共に戦い、今となっては交友関係とは言わずともそれなりの知人としてタークスでは対処出来ないものなどを彼に依頼したりするようになっていた。
 そんな彼の近況の話かと思ったが、その返しは的を得てなかったらしい。むしろ空振りもいいところだったらしく、レノは落ち着かないように二、三足踏みをした。
「指輪、もらったんだろ」
「ああ、これ?可愛いでしょ?」
 そう言って左手の指を揃え手の甲を彼へと向ける。その人差し指には、昨日までなかったので銀色の輪がしっかりと収まっていた。
「なかなか気に入ってるんだぁ」
 そう月の光の恩恵を受けようと空に手をかざせば、指輪に掘られた文字がよく見えた。そしておもむろに黒スーツのポケットを漁り手のひらに転がったそれは、私の指にはまっているのと全く同じもの。
「でも、注文の数間違えちゃったんだよねぇ」
「は?注文?」
「うん、ジュノンのお店で一目惚れしたんだけどサイズ合わなくて調整してもらってたの」
 それを取りに行けない私の代わりにクラウドに"届けて"もらった。その話を先程の飲み会の時にしたのだが、そういやレノは途中で席を立ったんだっけ。
「イリーナにあげようかと思ったんだけどやっぱちょっとイメージ合わないかなーと思ってやめちゃった」
 まぁ失くした時の予備にすればいいか、と再び光る指輪をポケットに入れようとした手が止まった。
 人は驚きすぎると声が出ないらしい。つかまれた腕に瞠目し、それを辿るように見上げれば、すぐ近くに迫ったレノのバツの悪そうな顔がそこにはあった。
「ど、どうしたの」
 ようやく絞り出した声はやたら上擦ったものになってしまった。なんせ、こんな風に彼の体温を感じる事なんて初めてだ。"太陽"が、私に触れている。それは文字通り私を焦がしその内燃えかすにでもなってしまいそうなくらい、熱い。
「それ、俺がもらってもいいか」
「そりゃ構わないけど……」
 そう掴まれた腕を見る。彼の手にはしっかりとグローブが装着されている。指輪を嵌めることは無理なのでは、と思った私を悟ったのか、おもむろにそれを外し瓦礫の積まれた背後に放り投げてしまった。あ、ポイ捨て、とも高そうなのに、とも頭の片隅で思ったがそれらは言葉にならない。彼の行動の意図が、見つけられない。
 その視線が再び握られた指輪に集まり、レノの手が伸びてくる。思わぬ熱にキツく握り締めていたそこに彼の指が滑り込み簡単に絆された手のひらとは逆に、身体は更に硬直した。
「小せえな」
 手にした銀色の輪っかを裏表とひっくり返して眺め、とりあえず人差し指にさしてみる…も、私の人差し指でピッタリなそれが彼の指に入るわけもない。次に中指…も第二関節て引っかかる…薬指、は嵌める前に何かに気付いたように一瞬動きが止まり、誤魔化すように小指へと移った。
「はいった」
 ふう、と肩で息を吐き安堵さえ伺えるその表情。マジマジと自分の小指に収まったそれを満足気に見つめる瞳に背を向けた。レノにバレないよう胸に手を当て早まりっぱなしのそこに落ち着けと言い聞かせる。例えこの指に彼と同じものが光り輝いていたとしても、深い意味は無い。あるわけない。
「お返し、しねーとな」
「い、いいよ……間違えて買っちゃったものだ、し」
 レノの言葉に慌ててその手を下ろし振り返る。だが、思ったよりも近くにいた彼に落ち着き切れていない心臓がまた跳ねた。
 嫌でも分かる。レノが私の指輪の嵌められた手を見つめている事が。逃げ出したい衝動に駆られている。だけど、身体が言うことを聞いてくれない。
「レノ、」
 出来たのは焦がれた彼の名を呼ぶことだけだった。ああ、燃えてしまう。こんなにも近付いてしまえば。警告にも似た焦りが生まれようとする"期待"を殺しにかかる。だけどそれは、私にトドメを刺させてはくれない。
「俺は」
 私の左手をそっと掬い上げるレノの手。彼の相棒であるルードと並ぶ姿に腰も腕も細い細いとばかり思っていた彼の手は、こんなにも大きい。角張った指が私の一本の指の周りを測るように撫でる。"期待"は逆に牙を向き、私はもう、息すら止まってしまいそうだった。
「ここの指輪をやってもいいか……と」
 そう言って向けられた視線が熱を孕んで私に襲いかかる。逸らせない瞳と左手の──薬指に触れるレノの指。
「なぁ、あんたは」
 手のひらを擦るように広げさせ、互いの指がクロスする。ぎゅっと握られればそれは所謂恋人繋ぎというやつで、
「俺があんたを好きって言ったらどうする……?」
「っ、」
 飲み込まれた。手のひらも、適度な距離でいいと強がっていた自分も──
「嬉しくて、死んじゃう」
 ぽろぽろと零れた涙に予想外だったのか、レノの目が大きく開かれる。
「なん、だよ……もっと早く言っときゃ良かった」
 ほぼ口を開かずに言った言葉は聞き取れず、二、三瞬きをすればレノは「こっちの話」と息を吐いた。
 改めて向けられる色めいた視線が月明かりに反射し、いっそうその緑が強くなる。握った手と反対の手のひらが私の涙が伝った頬を拭い、包み込んだ。
「……好きだ」
──飲み込まれた唇は、身体は、心臓は、キチンとここに存在しているか分からなくなるほど熱い、私の太陽。
 少し唇を離した先で照れながらも笑う彼はやはり眩しい。そっと手を伸ばせば、彼の綻んだ頬と燃えるような赤い髪がふわりと揺れた。
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真山ソラオ
ソラオですお邪魔してます…!!
27:44
あず
わわ!すみません!ごゆっくりどうぞ!
34:46
おおとり
あずさんこんにちは、お邪魔してます☺️
46:28
あず
おおとりさんまで😂ありがとうございます!ごゆっくりどうぞ~
47:46
真山ソラオ
レノくんと♀ちゃんのやりとりをリアルタイムで物陰から眺めている気持ちになりますね最高
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向き
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202005291905
初公開日: 2020年05月29日
最終更新日: 2020年05月30日
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コメント
レノ夢。お試し。終わるかは非常に微妙
202006172006
レノ夢。カフェ店員のお話。SSだから終わるはず
あず
202006141906
レノ夢。終わらないだろうから飽きるまで
あず
預け傘
梅雨入りしたから相合傘するゆう喜を書きます
篠畑