何歳になっても、誕生日の朝というのは少しだけ特別感がある。
極道一家であってもそれは同じで、松能家の六つ子達は朝食の時からどこかそわそわと落ち着きがない。
この日ばかりは仕事をしなくても良いと許されているので、専らの話題は何処に行くか、何をするかだった。
「ワシは今日はライブがあるけぇ、昼過ぎに出るわ」
チョロ松がまずそう言う。
「わしは、ネコカフェ行こうかと思うとるんよ。ウチのシマに新しく出来たじゃろ」
「兄貴そのナリでネコカフェ一人で行くつもりなんか?猫はともかく店員さん可哀想じゃのう」
「じゃあトド松とわしが一緒について行ったら」
十四松の提案に、チョロ松がどっちも同じじゃ、とにべもない返事をした。
「大丈夫じゃ、兄貴もちゃんと分かっとるけぇ、服装ちゃんと一般人ぽく出来るじゃろ、なぁ?」
「当たり前じゃ。出禁にされたらかなわんけぇそこはちゃんとする」
一松がそう言うと、トド松はにこりと頷いた。
実際、一松には行きつけにしている猫カフェが数件あるが、行く時はいつもパーカーとジーンズというラフな服装だし、髪型も多少変えている。
加えて猫さえいれば無茶はしないし、言わない。
「一松、実はけっこう上客なんよ。なぁ?」
おそ松がそう口を挟む。 
すると、話の矛先はおそ松の方へと向いた。
先ほどからの会話に、長男のおそ松と次男のカラ松だけはずっと黙っていたのだ。
「そういう兄貴らはどうするんじゃ、今日」
「んぁ?わしらは…わしとカラ松は、二人で出かけるわ」
「夜は?」
「んー…多分、遅くなる」
生ぬるい空気が部屋に流れた。
白けたような雰囲気に、おそ松が不満げに声を上げた。
「何なら、その顔は」
「いや、聞くまでも無かったわ…」
トド松が言い、チョロ松と一松が顔を見合わせて細く長いため息をついた。
「はいはい、帰って来るまで連絡もせんけぇ、ごゆっくり」
十四松がセ、と言いかけたところで、一松がその口を塞いだ。
「おう、ありがとさん」
おそ松が晴れやかに笑って、席を立つ。
それまでずっと黙っていたカラ松は、それを見て慌てて自分も席を立った。
「おそ松」
「聞いとったろ、出掛ける支度せぇ」
「わし、そんなん初耳じゃ」
カラ松の言葉に、おそ松が振り返り、口元を緩めて笑う。
「・・・カラ松はわしと二人で出かけるのが嫌か?」
「そんな事言うとらんじゃろ。意地の悪い言い方じゃ」
「お前こそ、初耳じゃあ、なんて意地が悪い事言うけぇ。・・・2年振りなんじゃけ」
数か月前、二年間に及ぶ獄中生活からやっと戻って来て、2年振りに娑婆での誕生日を迎えるのだ。
せっかくの貴重な一日を、二人きりで過ごしたいと考えるのはおそ松にとっては当然の事だった。
「そうじゃな、わしが悪かった。――で、何処に連れてってくれるんじゃ」
カラ松の言葉に、おそ松が右手でハンドルを回す仕草をした。
「・・・パチ屋、お前がおらん間に新しいとこが出来とるんよ。それからお前が気に入っとる喫茶店、もうすぐ閉店なんじゃろ?そこと、夜は居酒屋にでも入って、そっからホテルじゃ」
「ふ、なかなか良いプランじゃな。当然ホテルはスイートなんじゃろ?」
「おうよ、この辺で一番高いとこよ。露天風呂付き」
おそ松の言葉に、カラ松がふは、と楽し気に笑った。
「・・・その露天風呂、ただ外にあるだけで景色なんて見えんじゃろ」
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初公開日: 2020年05月17日
最終更新日: 2020年05月17日
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