医務室で手首の怪我をみてもらうと、全治二週間程度の捻挫だった。来週のマジフト大会は当然出場停止だ。補欠だから試合自体に支障はないけど、当日はベンチにいなくてもいいかもしれないのはありがたい話だった。テレビ中継とかまじでいやすぎる。絶対に避けたい。
 ついでに階段に打ち付けた体もみてもらった。移動している間にあざがくっきりとでてしまったらしく、それをみた養護教諭はヒュッと息を詰めていた。自分でも確認してみると養護教諭の気持ちがものすごくわかる。
 思った以上に赤黒い大きなあざがいくつもできていた。強打した半身に満遍なくできた打身によって、実に気持ち悪い体になっている。痛みに慣れているとはいえ、これだけ多いとそれなりに気を使うし、しばらくはそれらを気にしながら生活しなければならない。そのことを考えると面倒臭すぎて、早々に諦める未来が見える。いまこの段階でも見えていた。
 痛むことによりストレスは溜まるけど、我慢できない痛みではないのだ。日常生活を制限するほうがストレスが溜まって鬱屈する。それならどちらを取るといわれれば、という話である。
「シュテル氏……いまなんと……」
「いま噂になってるマジフト大会関連のやつで怪我したので選手辞退する」
「いや、そのあと」
「ゲームしよ」
 養護教諭に手首をガチガチに固定してもらってから、イデアの自室へと尋ねた。彼はイグニハイド寮長でもあるので選手辞退のことを報告しつつ、ゲームに誘いにきたのだ。
 右手首のテーピングをみて一時騒然となったが、なんとか落ち着かせて手短に説明する。イデアは目を見開き、青い顔をしてわたしの手首を見ていた。あまりにも凝視しているので、ひょいっと持ち上げれば面白いくらいに体を跳ねさせる。萌え袖で両手を丸めて胸の前に持ってくる、いつもの姿勢でびくびくしていた。あざとい。
「なんでそんなにビビってんです?」
「いや……だって……ガッチガチじゃんそれ……大怪我でしょ……」
「捻挫ですって。折れてもないし二週間もすれば治ります」
「二週間もコントローラーを握れない?? そんなの拙者耐えられない」
「僕はゲームしますけどね」
「ダメダメダメ! 安静っていわれたんでござるよ!?」
「平気でしょ〜〜」
「シュテル氏わかってるでござるか? いま無理してゲームして遊んだら治りが遅くなって全力で拙者とゲームできる日が遠くなるんでござるよ? もしかしたら悪化してコントローラーさえ握れなくなるかも……そんなことになったら拙者とゲームできない日々が続いていつかシュテル氏は拙者を忘れて……ダメダメダメ!! そんなのダメでござるよ!? わかってる!?」
「僕とめっちゃゲームしたいんだなっていうのはわかった」
「誰だ……誰でござるか……我が友シュテル氏に怪我させたやつは……絶許」
 青い顔をしたり怒りだしたりと忙しい人だ。
 呆れてため息をつき、とりあえずイデアが落ち着くのを待つ。思案顔で何事かをつぶやき続けていた彼がPCに向かい、凶悪な笑みを浮かべ始めたのはさすがに止めに入った。心配をされているのはありがたい話だが、そのために法を犯させるのは望むところではない。
 いやがるイデアを無理やり椅子から引き摺り下ろす。大きな身長差はあるけど、日々鍛えているので簡単に剥がすことができた。わたしに力で負けたことがショックなのか、イデアは力なくされるがままだ。
 脇の下に腕を差し込んで肩を固定したまま、ぐったりとしたイデアを体を左右に揺らす。
「怪我なんて慣れっこだから平気ですって〜なにをそんなに躍起になってんですか〜」
「なんで止めるの……怪我って痛いのにシュテル氏にとってはそんなどうでもいいことなの……? つまり拙者がやっていることは大きなお世話……口出すなってことですかあーはいはいでしゃばり隠キャは大人しくしてろってことね理解理解」
「そんなこといってないです。今日はほんといつも以上に意味わかんないですね」
「えっ拙者いつも意味わかんないって思われてたの……?」
「どうしたんですか」
「……」
「イデア氏〜?」
「……だって、シュテル氏とやっと遊べると思ったらこれでござるよ……」
 拗ねたようにぼそり、といわれた言葉に目を丸くする。どうやらわたしを遊びたくて仕方がなかったらしい。いや、知っていたけど、知っていたけど、ここまでだったとは。
 思わず吹き出して後ろから抱きしめてやった。
 弟がいたらこんな感じなのかもしれない。
 かわいいやつめ。
「シュテル氏?」
「ゲームはできるから今日は遊びましょうぞ!」
「む、むむ無理はしないで……」
「もちろん」
 その日は久しぶりにゲームで完徹した。
 怪我人相手でも容赦なく完封してくるあたりさすがイデアだった。
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