※長義さに。審神者名(八雲)出ます。
※イケメン女審神者と片想い長義のお話。
「雨の日」
ぽつぽつと振り出した雨は、八雲と長義が万屋から出てくる頃には本降りになっていた。来る時は雨の気配はなかったので、傘の用意はしていない。走って帰るような距離でもないし、買い物後で荷物も抱えていた。あんまり濡れたくはない。店先で二人して顔を見合わせる。
「傘を持ってはきていないよね」
「ああ。まさか降るとは思わなかったからな」
長義は空を見上げ、目を細める。
「雲の流れは速いようだし、通り雨だろう。少し待てば止みそうだけど、どうする?」
八雲も同じように空を眺め、静かに息を吐いた。
「少し、雨宿りをしていこうか」
ざあざあという、雨音を聴きながら二人で並んで立っている。幸いにも店の軒下は広く、邪魔にならなさそうな場所なら二人で並んで立っていても問題なさそうである。同じように買い物に来ていた客も皆、出てくるなり雨に気付いて驚いた顔をする。けれどすぐに迎えが来たり、折り畳み傘を持っていたりして皆足早に帰っていく。
長義はそれを横目で眺めながら、本丸を出てくる前に天気予報を確認しなかったことを悔いながらも、こうして少しの間彼女と過ごせることを内心では少し嬉しく思っていた。ここ数日の本丸での八雲は大忙しで、あまりゆっくりした時間は取れていない。忙しいのは近侍である長義も変わらないので、休憩すら満足に取れないのだから、彼女と二人で過ごすことなど以ての外だ。
この度の買い出しはそんな多忙の合間を縫って、気分転換替わりに長義が八雲を連れ出したのだった。買い物の内容としてはただの備品調達ではあるが、長義はそんな僅かな間でも八雲と過ごせることが嬉しくてたまらない。……八雲の方は、どう思っているのかはわからないが。
雨が降ったのは誤算であるが、雨宿りによって彼女との時間が伸びたことは嬉しいのだ。
「長義は、雨は好き?」
ふと、八雲が訊ねた。彼女は空から流れ落ちる雨を眺めている。その横顔は意外にもどこか楽しそうで、リラックスした表情に見えた。
「好きかどうかと言われると……好きではない、かな」
別段嫌いでもない。ただ、晴れているのとどちらが良いかといわれれば晴れている方が良いと思った。彼女は違うのだろうかと、問い返す。
「君は、雨が好きなのか?」
「うーん、こうして出掛けている時に降られると煩わしさも感じるけれどね」
八雲は情景を思い浮かべるように少し目を伏せる。
「例えば部屋の中に居る時、静かに雨音を聴きながらゆっくり過ごすのはあまり嫌いではないかなって思うんだ。あんまりずっと降られていると、それも困るけれど」
なるほど、彼女の言いたいこともなんとなくわかる。確かに、雨の日の作業は集中力があがるような気がする。気圧の変化には困らされることもあるものの、雨音はどこか心を落ち着かせる作用があるようにも思える。
と、八雲は言葉を続けた。
「……今もね、あんまり嫌って感じがしなくて」
今日は出掛けているのに不思議だね、と彼女は言う。それから、ちらりと長義へ視線を寄越して笑った。
「もしかして、長義と一緒だからかな?」
「……!」
それはまさに、長義が先程から思っていた気持ちと同じで。一方通行だと思っていた気持ちが、少しは伝わっているのだろうかと僅かな期待がわきあがる。この恋心が簡単に伝わるとは思っていないけれども、少しでも彼女が自分のことを特別に想ってくれるのならばこれほど嬉しいこともなくて。長義は、ついつい声を張り上げた。
「あ、あの!俺も……こうして、雨宿りしているこの時間は少し気に入っていて……」
きっと自分の頬は赤く染まっているだろうと自覚している。動揺で、言葉も上手くでてこない。興奮で少し声も上擦った。全く、恰好がつかない。けれども八雲はそれを指摘することもなく、嬉しそうに頷く。
「そう。じゃあ、雨が降って良かったね」
「……そ、そうだな」
それから、八雲は再び空を見上げる。雨はまだ勢いを止める気配はなかった。
「なかなか、止みそうにないね」
「ああ……まだしばらく、かかりそうだ」
言葉を返しながらも、なんとなく心境は複雑である。あんまりここに長居するわけにもいかないし、八雲を雨の中立たせておくのも気が引ける。けれども、もう少しこうして二人で過ごしていたい気持ちもあるのだ。それに――実は、ずっとこうして雨宿りをしている必要もないのだ。万屋の店先である。さっさと傘を二本買って、差して帰れば良い。そんなことは最初から分かっていた。でもそれを提案しなかったのは、ちょっとした長義の我儘だった。
(だが、そろそろ……潮時かな)
長義が諦めて口を開きかけた、その時。
「ねえ、提案があるんだけど」
先に八雲の方が声を上げる。悪戯っぽく微笑みながら、八雲は長義を見上げた。
「隣の通りにとっても美味しいカフェがあるんだ。お店で傘を買って、そこで雨宿りをするっていうのはどうかな?」
それはこれ以上もなく、魅力的な誘い文句である。願ってもないことであり、断る理由なんて勿論ない。長義は嬉しくて、思わず表情が緩むのを止められなかった。八雲を見つめ返して、笑みを浮かべる。
「ぜひ、ご一緒させてくれるかな」
すぐに一本傘を購入した二人は、肩を並べて歩きだす。
もう少し、この雨が続けばいいと思いながら。
おわりました!
ありがとうございました!