リスクとリターンを考えるという話
 さて、全員の仮眠と準備が終わり、再びの出発が午後7時相当だ。このまま日付変更線ギリギリまで攻略を続け、その後まとめて休息をとるらしい。
「何故に?」
「ほら、一気に『スポット』が攻略されたでしょ? それをこう、いい感じにするというか、皺を伸ばすというか、そういうことをするのに大体5時間ぐらいかかるみたいなのよね」
「成程」
 そしてその間は『スポット』へ入る事は出来ず、またその作業が0時から始まるという事で、それまでに出来るだけ攻略を進めておくのだそうだ。なお、0時に『スポット』の中にいた場合、強制的に弾き出されて報酬が半減するらしい。
 今までのペースからすると200の節目は無理だろうな、と思いながら、相変わらず一塊となって濁流のように進む『アベンチャーエール』の冒険者達に守られつつ歩調を合わせる。『スポット』の難易度が上がって来たからか、普通に遠距離攻撃や飛行能力持ちが出るようになっていて中々忙しい。
 うん。そういう意味でもさっきの『アースハンマー』と一緒に行動している間は楽だったな。この、基本的に撃ち漏らせない緊張感はなかなかしんどい。
「っ、止まれぇっっ!!」
 とか思っていると、唐突なマスターからの号令。同時に周辺へ向けていた感覚に集中する。……こちらには特に異常は無い、な?
 どういう事だ、と正面に目線を向け、恐らくは勢いと流れで倒されたのだろう獣系コアエネミーが居た筈の、森の中の広場と言った場所の更に先を見る。そこには、次の『スポット』に繋がる扉がある筈だが。
 そして、視線を向けて、周囲へ気を配っていた為に、曖昧になっていた輪郭と色と形がしっかりと像を結び、
 ぞ、っと。
 背筋に氷柱を差し込まれたような寒気がした。
「……全く、今年は随分な当たり年だな、えぇ?」
 唸るようなマスターの声で我に返る。ぞくぞくと肌が泡立つような感覚はそのまま、もう一度周囲に何もない事を確認して、改めて目の前の扉に視線を向ける。
 今までの『スポット』から『スポット』へ移動する扉は、石で出来ていた。特に装飾も何もなく、押し開く形で取っ手が付いているだけの、実にシンプルなものだ。石の色は周囲に合わせて変化するが、大体白っぽい灰色で共通している。
 だが、今回のこれは。タールのように黒い色をした、恐らく金属製だった。表面にはびっしりと彫刻が施されていて、人も獣も問わずうず高く積み上げられた骨の山が描き出されている。取っ手もそれに合わせてか、カパリと顎を開いた髑髏だった。
「初日に出るなんて、ツキがあるのかないのか……」
「……スピカ、あれは?」
「えーっとねぇ」
 相変わらずの爆速攻略だったので、時間は残っている。いったん休憩を入れることにしたらしいマスターの号令で休む態勢に入りつつ、同じく休みながら息を吐いたスピカに聞いてみた。
 少し考えた後、うーん、と首を傾げつつスピカが答える事には。
「一言で言うと、ボスラッシュ……かしら」
「ぼすらっしゅ」
「ボスラッシュ」
 思わず単語をそのまま繰り返すと、こくりと頷きが返ってきた。ボスラッシュとな。
「仕掛けや、広さや、ギミックが何もない、ちょうどこれぐらいの広場があるだけなんだけど……規定数のコアエネミー相当のエネミーを倒さないと、進むことどころか退くことも出来ないのよね」
「撤退も出来ないのか」
「出来ないのよ。ただその分、こう、ね? 球の魔石がごっそり入るし……言っては何だけど、ドロップとしてはすっごく、すーっごく美味しいのよね」
「……まぁ、それは、理屈としては分かるが……」
 分かるが、と言葉を濁した先は通じたらしい。もう一つスピカは頷いた。
「そうなのよね。総力戦が、インターバル精々5分で、何十回だもの。普通はやってらんないわ。というか、まず間違いなく途中で全滅するわね。今までの最高記録は確か……31回だったかしら」
「だが、退けないのだろう?」
「退けないわね。でも色々と特別らしくて、ここで全滅したらギルドで復活するのよ。……その分なのか、次の日まで挑戦が出来なくなるんだけど」
 それはダメなのではなかろうか?
 というか、0時が数時間後に待っている現在時点で挑戦するのはまずくないか? 途中で放り出されると確かペナルティが大変な事になった筈だが。
「このボスラッシュ……えっと、確か正式名称は…………何だったかしら」
「正式名称があるのか……」
「うん。報酬にね、こう、トロフィーみたいなのがあって、それに確か……うーん、ナントカの試練、だったと思うんだけど……」
「試練」
「そう、試練。だから、ボスラッシュをやってる間は、『スポット』の中でも時間が経ってない扱いになるみたいなのよね。だから何十時間かかっても大丈夫なの」
「なんじゅ……いや、まぁ、そうか……ボスラッシュだもんな……」
 どうやらペナルティについては大丈夫なようだ。また、全滅した場合でもこのボスラッシュの時に限りペナルティ無しで撤退という扱いになるらしい。
 なおここでギルド証を使ってギルドに戻る事であのボスラッシュ用の扉はキャンセルされる。当然ながら、キャンセルすると次いつどこで遭遇するかは分からないのだそうだ。むしろ、遭遇する方が珍しいとの事。
 となると……残り数時間で日付が変わる現在は、むしろ挑戦には都合がいいのか。そんなに挑戦した『スポット』の数が多い訳でもないからそんなに消耗もしていないし。
「そういう事ね。だから多分――」
「よぉし、10分後に挑戦するぞ! 各自、最終確認を怠るんじゃねぇぞ!」
「「「応!!!」」」
「――こうなると思った通りよ」
「知ってた」
 まぁ、挑戦しない訳がないな。
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文字通り世界の皺寄せを受ける話 29
初公開日: 2020年05月16日
最終更新日: 2020年05月16日
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コメント
これは多分現代ファンタジーな感じ。
28の続き。
心の底から清々してます!! 12
乙女ゲーム世界への転生を果たした悪役令嬢。多分他には転生者も転移者もいない……筈なのに! 同タイトル…
竜野マナ
心の底から清々してます!! 11
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