おわり!ありがとうございました!!!
 ピピピピピ
 
 甲高い音で鳴り続けるそれを止めて起き上がる。三時半。寅二つ。外はまだ暗く、カーテンの隙間からは冷気が差し込んでくる。身を震わせて布団を剥ぎ、音を立てないようにロフトベッドから慎重に足を下した。フローリングが、足の熱を奪っていく。
 昨晩用意しておいた服に着替え、寝巻を抱えて階段を下りた。静まり返った寮の廊下は、いつもの騒がしさとは打って変わって、全ての音を吸収してしまうような気さえする。
 洗面所にある洗濯籠に寝巻を入れ、顔を洗う。男七人もの大所帯ともなれば、毎日それなりの量の洗濯物は出るが、誰かが回すだろう。一応ある当番も、仕事仕事であまり意味をなしていなかった。
 共有スペースには当然ながら何もない。鍋に残っていたスープの火をつけ、ケトルに水を入れてスイッチを入れる。それから、コンセントの抜かれた炊飯器から冷や飯を茶碗によそう。電子レンジで温めている間に、冷蔵庫を開ける。
 きのうの残りのチキンステーキとマカロニサラダ、ほうれん草とアサリのバター炒め。それから常備菜の蕪と柚子の漬物を取り出す。温め終わりの音を知らせる電子レンジから取り出した茶碗と入れ替え、再びスイッチを入れた。鈍い音を立てて回転する皿をぼう、と眺めてから鍋の火を止める。沸騰していなくて良かった。
 マグカップに湯を注ぎ、棚から取り出したティーバックを静かに沈めた。温め終えた皿を並べ、静かに手を合わせる。
「いただきます」
 返ってくるはずの返事がないことに違和感を覚えながら、黙々と食事を口にしていく。と、傍らに置いた携帯電話がメッセージの受信を伝える。片手間に返事を返し、ショウガの効いた肉団子のスープを啜った。
「おはようございます」
「おはようございます。すみません、もう少し待ってください」
 食事を終えた直後に聞こえた玄関の開閉音。直後に開かれた共有スペースの扉から顔を出したのは、朝からぴっちりとスーツに身を包んだマネージャーだ。所属する小鳥遊事務所の社長の愛娘である彼女に、棚から取り出したマグカップにケトルから湯を注ぎ、新しく取り出したティーバックを沈めて渡す。それから、食べきれなかった残りを冷蔵庫にしまう。
「一織さん、こちらはやっておきますので、準備をしてきてください」
「すみません。ありがとうございます」
 振り返れば、マネージャーが食器手に立っていた。厚意に甘え、洗面所で歯を磨いて寝癖がついていないか鏡を覗き込む。ひとまず大丈夫そうだろう、と部屋へ戻ってカバンを持ち上げた。
 共有スペースに戻れば、マネージャーが手を拭いていた。声をかけて玄関へ向かう。今日の朝の顔となるために。
 以前よりも大分安心して身を任せることができるようになったマネージャーの運転で今日の収録現場であるテレビ局へ。ネットで主要なニュースはチェックしておく。アメリカ大統領選挙が近いが、国内は……きのう青森県の水族館でゴマフアザラシのメイちゃんが出産したという情報を見た。念のため頭に入れておこう。念のため。
 そうこうしているうちに、地下駐車場へ車が吸い込まれていく。毎日のように都心で運転をしているだけあって、駐車もスムーズだ。入館パスを受け取り、ゲートを通過。今日の控室の場所を確認しながら、一日のスケジュールを確認した。
 八時半までは朝の情報番組。その後時間が空くため学校へ行き、夕方から雑誌の取材。
「おはようございます。今朝のニュースをお伝えします。アメリカ大統領選挙がもう間もなく――ニュースの途中ですが、速報が入りました。先ほど、J県P市の商店街にて通り魔事件がありました。繰り返します。先ほど、J県P市の商店街にて、通り魔事件がありました。犯人は現在逃走中とのことです。詳しいことがわかり次第、続報をお伝えします――」
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アイナナ原稿
初公開日: 2020年05月14日
最終更新日: 2020年05月14日
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コメント
身内で発行する本に載せる話。和泉一織編。たぶん終わらない。