待ち構えていた相手をどうするかという話
さて。報酬の分配と、それを使った強化や装備の整備、消耗品の補充。そして仮眠を含む休息を挟めば、再び大祭仕様の『スポット』の攻略が始まる。
どうやらギルドとしても結構な量の収入になったらしく、「おたから箱」を強化したと言っていた。つまり、耐久力や収納力に加え、内部重量の軽減率が上がったという事らしい。
「まぁ、ベルトも強化してはいるからな」
なおベルトは良さそうな装備があったので、「強化合成」を行ってから進化限界まで強化した。動きが鈍るのは何としても避けたい。色々な意味で。
まぁそういう訳で、先程よりは随分と(重量的な意味で)「おたから箱」の容量に余裕を持って進める筈だ。つまりそれは連続で『スポット』を攻略することで出てくるボーナスステージに、多く挑戦できることを意味する。
スピカは100個連続で挑戦した場合しか知らないらしいが、他のギルドから聞いた話、というていで知識は持っていた。それによると、連続挑戦の回数が増えれば増える程、ボーナスステージの報酬は豪華になって時間が伸びるのだそうだ。
「よぉし!! 行くぞぉ!!」
「「「応!!!」」」
またしてもマスターの声掛けで、『スポット』へとなだれ込む『アベンチャーエール』冒険者一同。その中心部分で変わらず守られる形で速度を合わせながら、周囲を見回す。とりあえず今回はまた、普通の『スポット』のようだ。
……ボーナスステージに行きたい気持ちはある。あるが、それ以上に、『スポット』を攻略したという事は、先程の襲撃者が復活したという事でもある。それにあの……不健康そうな水色の髪の男の動向も気になる。
全く、気の抜けない事だ。
「それ」に遭遇したのは、たぶん攻略した『スポット』が50を越えた辺りの事だ。
「……おいおい。こりゃまた、随分と豪勢な出迎えじゃねぇか」
口調自体はいつも通りだが、そのしぐさや動きは臨戦態勢。その状態で、変わらず集団の戦闘を勤め続けていたマスターは、正面へと声をかけた。その左右を、じりじりと『アベンチャーエール』の冒険者が固めていく。
今いるのは『アベンチャーエール』が苦手としている広い平原。つまり、鳥型エネミーばかりが存在する『スポット』だ。出来るだけ早く駆け抜けようと加速の号令をかけた所で、そいつらは目の前に現れた。
……恐らく、今までワンパターンでこちらを狩ろうとして、返り討ちに合った、スピカ曰くの「不良ギルド」の冒険者達だ。それが、勢揃いしたのか、という人数で、「待ち構えていた」。
「るっせぇ筋肉バカが! お前らを狩れなきゃ、連合から除籍処分になるんだよ!」
「妨害を主目的とした連合なんざとっとと崩壊しちまえ!」
「うるっせぇ!!!」
ちなみに連合とは、ギルド同士で結ぶ仲間協定的なもののようだ。……うん。そうだな。妨害を主目的にした連合とか害悪以外の何物でもないな?
人数はいるし魔法や弓矢と言った遠距離攻撃は随分と潤沢なようだが、どうやらその連合からすると『アベンチャーエール』は大分評価が下なようだ。……まぁ、そうもなるか。遠くから爆撃したらまず間違いなく半壊するもんな。「狩りやすい」評価はやむなしか。
というか、そんな状態で焦るって時点で十分小物なんだが……。
「しかし、どうやって待ち伏せしてたんだ?」
「そういうスキルがあるんだとよ。真っ当なギルドなら、ピンチに陥っている同じ連合所属のギルドの『スポット』に駆け付けるとかいう風に使うやつ」
「あぁ、なるほど」
ちょっと疑問だった点も、口に出すとあっさりと解決した。全く、道具も力も使い手次第だなぁ。
とはいえ、状況としては割とピンチだ。このまま飽和攻撃されたら流石に防ぎきれない。かと言って、こちらから攻撃を叩き込むのも何かシャクだ。さーて、どうするか。
「……ところでシューター。マスターから伝言だ。『らちが明かないから気を引いてる間にまとめて吹っ飛ばせ』とよ」
「マジか」
「マジだ」
と思っていると、まさかのGOサインが伝言と言う形で回って来た。マジか。いや、確かにこのまま戦闘になったら勝ち目は薄いがしかし。
……まぁ、吹っ飛ばしていいというなら吹っ飛ばすか。どうせ『スポット』を攻略したら復活するんだし。…………この短時間で大分染まって来たなぁ。
という訳で少し考え、文字通りに「吹っ飛ばす」事にした。コートのポケットを探って、手に入れたばかりの宝石の内、緑色のものと、ラメ入りのスーパーボウルを取り出して、まとめて握りこむ。
「射線開けるタイミングだけ合図出してくれ。流石に巻き込まれたくねぇ」
「曲射で上から撃ち下ろすから、余波の防御だけ準備よろしく」
「なるほど分かった」
マスターが見事な煽りで向こうの代表者を転がしているのを眺めつつ、こそこそと打合せだ。流石に宝石を使ってこの組み合わせは撃ったことが無いから、ちょっと威力がどれほど上がるか分からない。
うん。プラスチック製の物は玉に向かない。それは確かなんだけどな。このラメ入りのスーパーボウルは、他の玉と一緒に「力を溜める」と、ちょっと特殊な挙動をするんだ。なお、ラメ入りでないとそうならないから、どういう理屈でそうなっているかは分からない。
しばらくの時間をかけて、宝石に目一杯のヒビが入った……つまり、上限一杯まで「力が溜まった」ところで、握りこんでいた感触が変化する。じりじりと視線を遮る壁となる位置へ移動してくれた他の冒険者の影で、膝立ちの姿勢になって、ほぼ真上へとパチンコを強く引いた。
「敵意を持つ者を、害をなそうとする者を、吹き飛ばせ……」
どうやらこの狙いをつける為に口に出していた言葉は、出した方が威力が上がるらしい。どうやらこれも詠唱扱いになるようなので。
ついでに言うと、こういう風にした方が更に威力が上がるらしい。詠唱扱いになるようで。だから、あの有名な病気が再発したとかではない。ないったらない。
「降り注ぎ、渦巻き、穿ち、踊り狂え……嵐の散弾雨」
さて、そして撃った玉なのだが。ラメ入りスーパーボウルには、不思議な性質がある。ビー玉やガラスビーズ、天然石ビーズと言った、普通に玉として使えるものと一緒に「力を溜める」と、なんというか、溶けるように1つの玉に変化するのだ。
見た目的には、ラメ入りスーパーボウルの中に、びっしりヒビの入った玉が収まっている感じとなる。実に不思議なのだが、どうも毎度そうなる事から「そういう性質」と理解した。
さてスーパーボウルでコーティングされた玉だが、属性や威力は変化しない。では何が変化するかというと……さっきの詠唱扱いの言葉。その最後を参照してほしい。
「総員全力で防御ぉ!!」
「は?」
きら、と上空で緑の光がきらめいた瞬間に、伝言が伝わっていたらしいマスターは号令をかけた。当然同じく伝言が伝わっていた『アベンチャーエール』側冒険者は、文字通り全力で防御態勢に入る。
あちらの……もう小物盗賊でいいか。小物盗賊なギルドの冒険者たちは、何もしてないのに亀のように守りを固めた此方に変な声を上げていた。そしてそんな事をしている間に、撃ち上げて落ちて来た玉が、魔法の形に変化する。
そんな、ちょっと間抜けな顔をしていた彼らの上から……一個一個が人の頭サイズの嵐と言っていい威力の風の弾が、文字通り、雨のように降り注いだ。
「「「ぎゃぁあああああああああああ!!!」」」
そう。スーパーボウルコーティングされた玉は、威力を分けて「散弾」となるのだ。銃における散弾とは違い全方向に炸裂するので、こういう場合だと「上半分」が無駄になってしまうのだが、まぁ仕方ない。
というか、威力が半分になってもいいようにわざわざ宝石を使ったのだ。ビー玉だったら地面と平行に、ど真ん中に撃ち込んでいる。
……いやぁしかし自分で撃っておいてなんだが、酷い威力だなぁこれは。
「うーわ、えっげつねぇことしやがる……」
「吹っ飛ばせってオーダーしたのはマスターだろう」
「挽肉にしろとは言ってねぇんだよ! このバ火力が!!」
まぁそういう事だ。生存者? いたら拍手してやるよ。この、1mぐらいの穴ぼこだらけになって、平原の原型が残っていない範疇にな。もちろん固まっている場所を狙って撃ったので、ずらりと並んでいた向こうの冒険者は1人残らず効果範囲に捉えた筈だ。
……さっき言ったように、ラメ入りスーパーボウルを使うと「全方向」への散弾になる。なので一部はこちらに向かって飛んできたため、若干数名にダメージが入ってしまったようだ。それは素直にすまない。
「盾構えて膝付けてまだ後ろに押されるとかどんな威力してんだ」
「これ、あの数になった分だけ威力落ちてんだよな?」
「物理と魔法って違いはあるが、火力で言えばマスターといい勝負すんじゃねぇの」
…………だから、散々に言われている内容も、今は甘んじて受けるとする。脳筋じゃないし。別に脳筋じゃ無いし!