それはとある昼下がり。
何度目かの轟くんとのチームアップの日。
いつものように見回りを済ませ異常がないことを確認した後のことだった。
轟くんの左手中指に綺麗な緑色の石のついた指輪があるのに気付いた。
轟くんって恋人いたっけ……?
僕が轟くんと一番長く一緒に過ごしてると思ったけどそんな話一度も聞いたことなかった。
なぜか胸の辺りがモヤッとしてそれとなく聞いてみる。
「轟くん前から指輪なんて着けてたっけ?」
「いいや、ついこの間買った」
轟くんはなんでもないようにそう言った。
それも貰ったわけでもなく買ったと、そう言った。
「そっか。てっきり彼女が出来たのかと」
「彼女はいねぇよ。ただの女よけだ」
その一言になんだかただならぬ圧を感じた。
「もしかしてファンからの……。やっぱモテると大変だねぇ」
「そういうお前は……」
轟くんがそう言いかけたので轟くんの顔を見つめると、轟くんは顔を逸らして「なんでもない」と口を閉ざしてしまった。
轟くんが言いかけた内容が気になったが、その後すぐに先輩ヒーローから招集がかかり有耶無耶になってしまった。
―――――――――――――
数日後。
今日は久しぶりの非番。
同じく非番の轟くんが家に遊びに来ていた。
「いちごミルクでいい?」
「あぁ」
轟くんはいちごミルクをよく飲んでいるイメージがあるので気付けばいちごミルクは常にストックしている。
今日はどこかそわそわしている様子の轟くんをいつものようにソファに座らせいちごミルクを渡す。
轟くんの隣に腰掛けるとこれまたいつものように轟くんの肩に身を預ける。
そして嫌でも目に入ってしまう轟くんの指輪。
女よけと言っていたけど本当は誰かから貰ったものなんじゃ……。
そんな勘ぐりをしてしまう。
だって轟くんだよ?
かっこいいし、ガタイもいい、個性も強い、父はプロヒーロー。
そんな轟くんを世間はほおっておくはずがなかった。
瞬く間に人気になっていった轟くんを僕の元につなぎ止めておきたくて休日が重なる度に会う約束を取り付けた。
付き合ってもいないくせに独占欲に塗れた狡い僕にどうか気づかないで欲しい。
「緑谷?」
いつの間にかトリップしていたらしい。
轟くんが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「あぁ、ごめん。どうしたの?」
「これやる」
小さな長方形の箱が手渡される。
体を起こして受け取る。
「これは?開けていい?」
「あぁ」
箱を開けると緑色の石がついたネックレスが入っていた。
「これ……!」
「お前に似合いそうだったから」
轟くんは少し照れたように目を背けた。
僕のために選んでくれたんだろうか。
他意はないとわかっていても嬉しい。
「ね、着けていい?」
「いいよ、着けてやるから後ろ向け」
ネックレスを着ける轟くんの指がすっと首筋に触れる。
そこからじわじわと熱を帯びる。
まるで恋人になったかの様な錯覚。
絶対今顔真っ赤だ。
「っし、こっち向いていいぞ」
「……うん」
轟くんの声に振り返ると轟くんと目が合う。
「ど、どうかな!?」
「あぁすごく似合ってる」
恋人みたいなやりとりに心がくすぐったくなる。
「轟くん、ありがとうね!」
「どういたしまして」
ふふっと二人で笑い合い、またいつものようにヒーロー談義に花を咲かせた。
――――
「気を付けて帰ってね」
「あぁ、またな」
名残惜しい帰宅の時間。
待ってと引き止めることも出来ない。
明日は二人ともお仕事なのだ。
轟くんがドアノブに手をかける。
「緑谷」
轟くんは振り返り僕の胸元を指さした。
「それ、毎日着けろよ?」
それだけ言うと轟くんはおやすみ、と帰って行った。
思わずその場に座り込む。
「轟くん、ずるいよ……」
――――――――――――
今日はプロヒーロー特番の生放送の日。
今日は僕も現場から出演する。
スタジオでは轟くんが司会者とトークをしてその途中に現地で活躍してるヒーローと生中継をしてインタビューするという番組だ。
僕の撮影時間までまだ少し時間があったので先輩達とお喋りしながらスタジオでの放送を観ていた。
「そういやデク。この前はそんなの着けてなかっただろ」
先輩は僕の首元を見ながら言う。
ヒーロースーツから少しはみ出たネックレスのチェーン。
まさかこんなすぐに気付かれるとは思わなかった。
「なんだ彼女か?」
「ち、違いますよっ」
ニヤニヤとする先輩の言葉を慌てて否定する。
「若いねぇ」
「だから違いますって」
好きな人からの贈り物っていうのは間違ってないけど。
『ところでショートさん。最近左手に指輪をしていますよね』
司会者のその言葉に周りにいた先輩やスタッフさん達が一斉に画面を見る。
『ファンの間で話題になってますよ~』
『あぁ、これですか。実はこれペアになっていて同じ石を使って作らせた特注品なんです』
その言葉に一瞬ドキッとする。
『ということはペアリングですか!?』
『いいえ。俺が持ってるのが指輪、対になっているネックレスを持ってるのが俺の好きな人なんですよ。本人は気付いてないと思いますけどね。本当はペアリングにしたかったんですけどね』
画面の向こうの轟くんはとても嬉しそうに語っている。
えっと……?
同じ緑色の石で……。
指輪とネックレスのペア??
『ショートさん、ネックレスを贈る際に込められているメッセージって知ってますか?』
『えぇ、知ってますよ。「相手を束縛したい」「独占したい」』
『きゃ~!そのお相手さんが羨ましい限りですね!さてお話の続きが気になる所ですが、ここで中継が繋がっています。現場のデクさ~ん!』
「おい、デク。繋がってるぞ」
「え!?ちょっと待って、ください……!」
「ん?どうした、顔真っ赤だぞ」
僕は慌てて両手で顔を抑える。
カメラはもう回っているだろう。
ダメだ、これみんなの前に出れる顔じゃない。
恥ずかしくてでも嬉しすぎて、今にも溶けてしまいそうだ。
だって君、その指輪女よけって言ってたじゃないか……!
今すぐに轟くんに文句の一つでも言ってやりたいのに当の本人は画面の向こうで満足そうに微笑んでいる。
あぁもう君ってやつは……!
この日の僕の受け答えは史上最高にグダグダだっただろう。
そして特番は高視聴率を叩き出し、またすぐに出演のオファーが来ることになる。
その際にたまたま映ったデクのネックレスがネットで話題になるなどこの時の僕は知る由もなかった。
―――END―――
ここまで見てくださった皆さまありがとうございました!