※こんばんは
続き書きます
 休憩中の職員の往来が激しいカフェの入り口付近。終業後や小休憩でカフェの付近を行き交う人々の視線はとある者達へ注がれていた。
 自身よりも頭一つ分以上身長が低い女を壁に追いやり困惑と羞恥に染まった顔の脇に手を付いて逃がさんとする男は、女の潤んだ唇から漏れだす吐息混じりの拒否に聞こえない振りをして、悦に浸った面持ちで其の反応を窺っていた。
「あの…だめよ、こんな。人前で…。」
「ん?何が駄目なの?教えてよオフェリア。」
「だって…。それに私達友達でしょう…?こんな事、いけないわ。」
 甘く響くテノールが紡いだ「オフェリア」とは腕の中に捕らえられた女の名である。そして彼女が「友達」と呼びこの行為を諌める対象は彼女を離すどころか、壁に肘を付け中性的で端正な作りをした顔を更に近付け、空いている手で彼女の顎を掴んで上向かせた。晒された白い喉が「ごくり」と鳴る。眼帯に覆われていないグラデーションが掛かる青い瞳は其の視界一杯に意地の悪い表情を浮かべた男を写している。
「ね、オフェリア。こんな事ってどんな事?」
「それは…っ」
「今の僕ならもっと恥ずかしい事してあげられるけど、この程度で恥ずかしがってる君にそんな事したら心臓が破裂しちゃうかもね。」
「もう…!いい加減にして、#name2#!」
 男の指がゆっくりと頬を舐り髪の隙間から小さな耳殻に向かって恥辱を与える言葉を吹き込んだ瞬間に、オフェリアの我慢は限界に達し、いつまでもふざけ仰せる男基#name2#に向かって艶やかで気品有る声を張り上げた。
 #name2#は一瞬瞠目した後、あっさりと彼女から身体を離して両手を上げ降伏を表す。凛々しい眉尻を八の字に下げ先程までの挑発的な態度を一転させて、対照的に柳眉をつり上げ瞳の色を強くして憤る彼女に対し謝罪を口にした。
「ごめんオフェリア。そんなに怒らないで。」
「嫌だって言ったのに。」
「なんだか楽しくなっちゃって。」
「往来であんな振る舞いをするのは良くないわ。」
「でも、こんなチャンスをみすみす逃すわけには…。」
「どんなチャンスよ。」
 オフェリアはぽそぽそと言い訳を吐く友人を、呆れ半分憐憫半分に眺めていた。この容姿端麗な男は実は男ではない。彼女の友人である#name2#は元来女性であったのだ。何故彼女がこの身体になってしまったのか。其の原因たる出来事は凡そ数時間前に遡る。
 #name2#は勤務時間を終え、職場である図書室を出て医務室へ向かっていた。朝から頭痛があり、夕方になった今、痛みは治まる処か激しさを増していた為鎮痛剤を処方して貰おうと思っていたのだ。痛む頭に眉を寄せながら廊下を進み、区画を仕切る扉を抜け医務室の有るエリアに入れば先程までの喧騒は遮断されうら寂しい静謐が彼女を包む。聞こえてくるのはエアコンの稼働音と彼女の靴底が床に触れる音。そして誰かの足音のみ。僅かに離れた場所で反響する足音は、急いでいるかのように早いテンポで床を打っていた。暫くして足音の持ち主が彼女の対向に現れる。大きな段ボールを五つも重ね、箱の影から頭を傾げて前方を見ながら駆け足していた。
 嫌な予感はしていたのだ。ろくに前が見えない上体で走る姿も、堆く積まれた高さの有る荷物も、箱の影から見える顔が、嘗て#name2#を(事故とはいえ)コフィンに突き飛ばしてレイシフトさせると言う悪行を犯したプラントの物であると言う事も、彼女の胸を騒めかせた。そして予感は的中したのだ。
 彼女の丁度目の前に差し掛かった辺りで足が縺れ、体勢を崩したプラントの手から段ボールが離れて宙を舞う。一番上に乗っていた箱が頭上目掛けて一直に落下してくるのを、#name2#は只見ているしか出来なかった。
 幸い箱は軌道を逸れて彼女の脇へと落ちたのだが、きちんと封をしていなかった為に箱から躍り出た、蓋が開いた瓶の中身をたっぷりと浴びてしまった。其の詰めたさにきつく瞼を閉じてしゃがみこめば、「またやらかした」事に気付いたプラントが蹲る彼女に慌てて駆け寄った。
「あぁっ!!すすすすすすみませんっ!!!」
「これ…なんなの?害とか無いですよね!?」
「技術顧問のお部屋から出てきた廃棄予定の薬ですぅ!!って、あ…。」
「あってなんですか。…あっ。」
 床に頭を擦り付ける勢いで謝罪をしていたプラントが突然言葉を途切れさせた事を訝しみ声を上げれば、その理由を察した彼女も同じ様に言葉を失う。そしてお互いに暫く視線を会わせて動きを止めていたが、正気を取り戻したプラントは彼女の手を引き一目散にダヴィンチの部屋へ駆け出した。
「プラント君はどうしてこう、ドジッ子なんだろうね。」
「すみませんっ!!」
 ノックも疎かに部屋に飛び込んできたプラントを諌めようと口を開いたダヴィンチは、彼が連れている人物を見て開いた口が閉じなくなってしまった。プラントよりも高い上背に長い四肢と、切れ長の艶っぽい目が印象的な其の人物は、見覚えは無いが見知った女に良く似ていたからである。そしてプラントに任せた荷物の中に入っていた薬品を思い出し全てを悟ると、上向きの長い睫毛を伏せて深く溜息を吐いた。
「あー…。そこの美男は#name2#ちゃんだよね?」
「やっぱり…男になってるんだ…。」
「またうちのプラント君が盛大にやらかしちゃったみたいでごめんね。」
「すみません!!」
「元に戻れるんですか!?」
 作業の為に装着していた眼鏡を外しながら腰に手を当てて言い放ったダヴィンチに、#name2#は酷く落胆した表情を見せる。事故の際に漏れた自身の声が全くの別人のものであると気付いた辺りから自身に振り掛かった災難を予期していたのだ。そして絶世の美女に「美男」称された尊顔を以て詰め寄れば、ダヴィンチは哀れみを潜めて微笑んだ。
「おふざけで作った物だから効果は薄いし一生そのままなんて事は無いから安心して。早ければ数時間、遅くとも明後日あたりには元に戻れる筈だから。」
「良かったですね!」
「それ、貴方が言う?」
「そうじゃないとプラント君が彼に殺されるし。」
 晴れやかな笑顔で親指を立てながら言うプラントに白い目を向ける#name2#を他所に、ダヴィンチは彼女を溺愛する或マスターに思いを馳せていた。一生このままなんて事になれば、ダヴィンチは兎も角として原因を作ったプラントは一身に恨みを受ける事となるだろう。あの男は目的の為ならば手段を選ばず、合理主義の割りに執念深いのだ。きっとこの世のありとあらゆる苦痛を彼に与えた後に地獄へ叩き落とすだろう。
 想像に身震いしたダヴィンチを見て、#name2#は首を傾げた後に小さく吐息を漏らして言った。
「まあ戻れるなら良いです。それじゃ、私はこれで。」
「待って待って。#name2#ちゃん、気づいてないかも知れないけど、その格好で歩くのはおすすめしないなあ。美男の女装は良いとしてもサイズが合ってない。男性用の制服がある筈だから此処で着替えてから出た方が良いよ。」
 片目を瞑ってダヴィンチが放った言葉に視線を自身の身体へ移せば、膝丈のスカートは幾分か逞しくなった股に押し上げられ布が引き攣り、ブラウスのボタンは今にも弾け飛びそうになりながらなんとか布同士を結んでいて、彼女の言う通りに着替えてから出なくては奇異の目に晒されるだろう。#name2#は素直に頷きダヴィンチが指し示したクローゼットから新品の制服を取り出し、物陰で着替えを済ませて部屋を出た。
 男の身体というのは当然ながら新鮮で、過ごし慣れた施設内も別物に感じられる。まず目線が高いのだ。元の身長から30cm程度上乗せされた身長は、職員の多くを見下ろす事が出来る。そして身長が伸びた事に伴い足の長さも変わった。自分で言うのも馬鹿らしいが、それこそ足が縺れて転んでしまいそうな程長い。元の姿の時は平均的な身長に平均的名容姿をしていただけに、「美男」と言われた事がいつまでも心に残り、#name2#はそこはかとない優越を覚えていた。そして或る「良い事」を思い付く。
 この姿で知り合いを揶揄ってやろうと思い立ったのだ。そして真っ先に白羽の矢がたったのが憐れなオフェリア・ファムルソローネであった。彼女を探して施設内を歩き回っている最中に女性職員達の熱い視線を受け、微笑みながら軽く手を振ってやれば、皆一様に頬を紅潮させるのが堪らなく面白かった。そんなにも私の顔は美しいか、と完全に調子に乗っていたのだ。そして食堂の前を通り抜け娯楽室の有る区画に差し掛かった辺りで、到頭目的の彼女を見つけた。
「オフェリア。」
「…?はい。」
「素っ気ないなあ。私、#name2#だよ。」
「揶揄っているのですか?何方か存じませんが私の友人の名を出して 巫山戯る事は許しません。」
「ええ…。」
 妙に辛辣なオフェリアを前に、#name2#は自分が#name2#であると如何証明しようか頭を悩ませた。彼女との共通の秘密や彼女と自分以外が知り得ない出来事を口にすれば信用してくれるのだろうが、往来の多いこの場でそれを出すのは憚られる。悩んだ末に#name2#はオフェリアの耳元に口を寄せ、彼女にしか聞こえない小さな声で自分を証明するに足る秘密を囁いた。
「あ、そうだ。じゃあこれは?オフェリアがキリシュタリアの事ちょっと気になってるってのは私にしか言ってないかな?」
「なっ!!何故それを…!!」
「だって私、#name2#なんだもの。他には…フォウと仲良くなる為に私とお茶する回数を減らした事もあったっけ。」
 見知らぬ男に顔を寄せられた事に眉を潜めながらも囁きに耳を傾けたオフェリアは吹き込まれた言葉に目を剥いて驚愕の声を漏らした。そしてにやりと笑みを見せる男を仰ぎ、その顔が友人のそれに似ていることに気が付いてやっと彼が自身の友人である#name2#なのだと理解したのだった。
「如何してそんな姿に…。」
「実は斯々然々で。」
「まあ…。あなたってそういう有り得ない災難に会う確率が高いわね。」
「私もそう思うよ。」
「それで、いつ元に戻れるの?」
「遅くとも明後日までにはってダヴィンチ女史が言ってたよ。それでね、私がオフェリアに会いに来たのはやりたい事があったからなんだけど。」
 首を傾げてブルーの瞳を寄越すオフェリアの肩を軽く押して壁に追いやると、#name2#は彼女を閉じ込めるように片手を彼女の顔の脇について詰め寄った。突然の事に驚きながらも先程のように不愉快さを表情に出さなかったのは男の正体が親しい友人であると把握している為だろうか。されるがままに腕の中で自身を見上げるオフェリアを覗き込み、必要も無いのに声を潜めて問うた。
「どう?」
「どうって?」
「どきどきしない?」
「えっ!」
「ええ?おかしいな。女史にも男前って言われたし、此処に来るまでにすれ違った音なの人はみんな私を見て嬉しそうな顔してたんだけど。もしかしてオフェリアの好みじゃない?鏡見てないからどんな顔なのか分からないのよね。」
 オフェリアは、甘いテノールが自身の名を紡ぐ度に顔に熱が集まるのを感じていた。人前でこういった行為に及ぶ事を恥とも思わない不躾な男は嫌いだった。優位に立っていると思い込み、物理的にも精神的にも見下す男が嫌いだった。であるから、今回も小動物のように自身を捕らえ見下ろしている男は気に食わない、筈だ。けれどもこの男は大切な友人である#name2#なのだ。長い付き合いでは無いが彼女の事は良く知っている。#name2#の強情で気高い所も、それで居て少し抜けている可愛らしい所もオフェリアは大好きだった。そんな彼女が男の身体を持ってやってきた。ただそれだけの事だ。ガワが男と云うだけで彼女はオフェリアを物理的に以外は見下したりはしないし、この行為に関しても疚しい感情は無くいつも通りの戯れだとも理解していたから突き飛ばしたりはせず、それどころか「ちょっと良いかも」とさえ思えていた。
 #name2#の深いチャコールの瑪瑙に似た艶やかな瞳に自身の戸惑いと期待を孕む熱に浮かされた顔が映り、オフェリアは酷く羞恥した。
 そして冒頭に至る。
 事情を知らない人間からすれば、「あのオフェリアファムルソローネが痴話喧嘩をしている」としか見えない近寄りがたいこの光景に、たった一人だけ口を挟む者が居た。#name2#の肩を掴みオフェリアから引き離そうとする男は、いつもであれば#name2#を着けて纏わり付くデイビットである。
「オフェリア、この男は知り合いか?」
「あの、その人は…。」
「嫌がっている様に見えたが、一体彼女に何の用だ?」
「デイビット、」
 #name2#は「男になっても此奴との関わりは絶てないのか」と落胆したが、普段向けられる事の無い嫌悪に満ちた視線に気圧され凍り付いた。元来、デイビットという男は余程の事がない限りは他者に興味を抱かない。それはオフェリアに対しても同じであったが、今回彼女を庇い立てたのは彼が愛してやまない#name2#の友人であると言う理由からであり、オフェリアが危険に晒されれば#name2#が悲しむから助けただけの話だった。
 しかし一瞬気後れしたものの勝気な#name2#は負けじと紫色を睨め付けたので、大柄の美男同士がオフェリアを前に諍いを起こしているような図が出来上がってしまい、如何にも居心地が悪いオフェリアは堪らず二人の間に割り込み声を張り上げた。
「デイビット、これはレオナルドの霊薬で男性になった#name2#なの。」
「あっ、ばらしちゃダメだよ!面倒な事になるじゃない!」
「だから睨み合うのは止めて。助けようとしてくれてありがとう。」
 謝罪するオフェリアを尻目に、デイビットは#name2#だと紹介された男の頭頂から爪先までを眺め見てから煩わしさを湛えた彼女の顔にまじまじと視線を送る。確かに涼やかな目元は彼女のものによく似ているし、黒子の位置も寸分違わず#name2#と一致している。自身とそう変わらない身長と甘い響きを持つ声音で紡がれる不自然な口調はオフェリアが言った理由も相まって、この男が#name2#である事を裏付けている。
「おまえ…本当に#name2#か?」
「そうだけど。…ちょっと、顔を近付けないでよ。鬱陶しい。」
「その反応は確かに#name2#の物に酷似しているが、性別を変える霊薬など何故利用しようと思ったんだ。」
「なりたくてなったんじゃないわ。事故って薬被ったらこうなってたの。」
 舐るような不躾な視線に顔を顰めながらも律儀に話してやる#name2#を見て、オフェリアは口許だけで笑みを作った。姿は違えどやはり#name2#は変わらないと了得出来たからである。対してデイビットは距離を取ろうと胸板に添えられた#name2#の手を絡め取り、強く握り締めて離そうとしない。
「ちょっと、何?気持ち悪いんだけど。」
「おまえの身体の何処が如何変わったのか確かめたい。」
「巫山戯んなよ。」
「至極真面目だが。」
「あ、良いの?今の私はあんたと同じ男なのよ?力だって以前の私より遥かに強いんだから、あんたの思い通りにはいかないわよ。」
 もはや癖にもなっているセンタータンに開いたピアスを歯に当てて小さな音を出す行為は、彼女にしてみたら威嚇と挑発の両方を兼ねた牽制であったが、デイビットはそんな事は意に返さない。寧ろ彼を駆り立てるトリガーにもなっているという事に#name2#は一切気付いていないのだ。そして握り締めた手を引きその場から連れ出そうとするデイビットに対して力一杯抵抗してみても、彼の動きは全くと言っていい程揺るがなかった。
「何で止まんないのっ!筋力EXかお前は!」
「男になっても軽いままだな。」
「というかそれ!今の私は男なんだからあんたの恋愛対象外でしょ!今くらいは放って置いてくれても良いんじゃないの!?」
「オレの恋愛対象はおまえだ。性別はどうでもいい。」
「ひぃっ!!オフェリア助けて!!」
 チームメイトに引き摺られながら自分の名を叫び助けを乞う友人に、オフェリアは十字を切って神に祈りを捧げた。彼女がこれから何をされるのか、宝石の魔眼を用いるまでもなく予期していたからだ。#name2#に対するデイビットの振る舞いを幾度と無く戒めてきたが一向に改善される気配もなく辟易としていたので、もうあの二人の関係に口を出すのはよそうと決めていたから止めることもしなかった。そして#name2#に引き留められる前に予定していたティーブレイクを行うべく杏色の長い髪の毛を揺らしてカフェへと足を進めた。
 一方、喚く男の手を無理矢理に引き廊下を闊歩するデイビットに対し、道行く職員達は奇異の眼差しを向けていた。彼を知らぬ者はカルデアには居ない。それは正規マスターAチームのマスターである事も理由のうちであるが、近頃は彼が執心している女性職員との噂が大きな要因であった。それが今日はその女性職員ではなく見慣れぬ美形の男性を連れている。デイビットも造形の美しい顔立ちをしているが、手を引かれて抵抗し続ける男は彼の精悍な顔つきとはまた違う、儚げでありながら何処か冷たさのある可憐な美しさを持っている。タイプの違う美形が二人並んでいる様は、閉鎖された施設内で娯楽に飢えた職員の目の保養には格好の的である。
 好奇の目をものともせず廊下をつき進みデイビットが彼女を連れ込んだのは、居住区画にある自身の私室ではなく、Aチームの面々が集まる談話室であった。ドアの枠に手を掛けて入室を拒否していた#name2#だが、力及ばずソファの上に放り投げられ起き上がる間もなく、制服が捲れ上がった彼女の腹にデイビットが跨がり動きを封じられてしまう。そして胸元のジッパーに手を掛けて一気に下まで引き下げた。露になった肉体は程好く引き締まり、筋肉の隆起が白い肌に薄い影を落としている。
「降りろ重い!」
「本当に男の身体になっているな…。」
「見るな、って触るな!っていうか元々私の身体見たこと無いでしょ。如何違うかなんて判断できるか!!」
 彼女の言う通り、デイビットは#name2#の裸体など見た事が無い。というか普通は交際関係に無い男に身体を見せたりしないだろう。彼女を連れる口実で「身体の何処が如何変わったのか確かめる」と言ったは良いが、彼女の何処に黒子があるか、盲腸の手術痕の有無、臍の形の何もかもを彼は今初めて見たのだ。
「…男の身体見て面白いの?」
「面白くは無いがおまえの身体だからな。こんな機会でもなければ見る事も無いだろう。尤も、元に戻った後におまえが見せてくれるというのなら話は別だが。」
「身体見るよりも先に私に穴開けた奴が何言ってるの。ていうか、最近接触が過激なんだけど。オフェリアにあれだけ言われたのに未だ私に付き纏い続けてるし。」
「言っていなかったが、其の舌を出す癖はやめた方がいい。」
「これは貴方への戒めのつもりなんだけど。」
「分かっている。だが君の真意はどうあれ、その癖はオレを高揚させる。」
 爛々と光る紫はあからさまに欲情している。これは不味いと手を振りかざすもいとも容易く押さえ付けられ、滑らかな首筋に鼻を埋め薄い唇を何度も触れさせるものだから、#name2#の喉からは頚を締められた鷄のような呻きが漏れた。
「もう!だからそれは…。」
「あーはいはい。僕に其れを言われて、も。」
 ソファで縺れる二人の後方で開いたスライドドアの向こうからやって来たのは頬を膨らませるペペロンチーノとカドックであったが、半裸の男を押さえ込むデイビットの姿を認め、双方凍り付き閉口した。デイビットもドアが開く音で其れに気が付き振り返る。そして彼の下で瞳を潤ませ視線を寄越す男を見て、口々に思々の言葉を投げ付けた。
「デッ、デデデイビット!!誰よ其のイケメン!!#name2#一筋だから諦めてたのに男でも良いって言うの!?」
「お前、此処は僕達も使う場所なんだから少しは自重してくれ…。」
「悪いな。場所を変えるか。」
「場所変えるとかじゃないのよ!誰なのよ!!カルデアのイケメンはチェックした筈だけどこんな人見たこと無いわよ!」
「掘り下げるなよ面倒な事になる予感しかしないのに。」
「勘違いしている様だが、オレに男色趣味はない。これは#name2#だ。」
 #name2#から降りることはせず淡々と放たれた事実に、喚き散らしていたペペロンチーノもうんざりとした表情を浮かべていたカドックも一様に驚愕を顕にし、小さく「たすけてー…」と漏らした「#name2#だ」と呼ばれた男に視線を向けた。
「へー…流石人類史に名を残す天才ね。なんで性別を変える薬なんて作ってたのかは置いておくとして。」
「馬鹿と天才は紙一重って諺が日本にはあるのよ。…ねえ、ペペロンチーノ。べたべた触るの止めてくれない?」
「元々綺麗系の顔立ちだったけど、男になるとこんなに…。デイビットに負けてないわ。数日で元に戻っちゃうなんて勿体無いわぁ。私好みの冷ややかなイケメン…♥」
「やめろォ!!見た目は好みでも中身は#name2#!!唇を寄せるな!!」
「おい止めろ。見せられる僕の身にもなってくれ。」
「ペロンチーノ連れて出ていってくれたら万事解決なんですけどね。」
 カドックに助け出された#name2#は先程まで押し倒されていた二人掛けのソファにペペロンチーノと共に腰を下ろし、彼にべたべたと顔やら服の上から身体を撫でまわされていた。そしてデイビットの脇で、カドックは視線を逸らして嗚咽を漏らす。
「でも大好きな#name2#ちゃんとはいえ、男になってまで手を出すとは思ってなかったわ。男は恋愛対象外なんじゃないの?」
「オレの恋愛対象は#name2#だが。」
「うるせーわ。カドックこいつも摘まみ出して。」
「僕に話し掛けるな。お前と関わるとろくな事にならないって学習したんだ。」
「そうだ、私の事口説いてみてよ。」
「ええ?オフェリアには壁ドンしたけどペペロンチーノは今の私より背が高いしなあ。」
「カドックになら出来るんじゃない?」
「よしきた。カドック。」
「っおい!」
 意気揚々と立ち上がった#name2#はカドックの手首を掴みオフェリアにそうした時よりもやや雑に壁に追いやり勢い良く顔の横に片手をつく。耳元で鳴った打撃音にびくりと肩を跳ねさせた彼の頬に指を滑らせ、至近距離で彼の名を呼びながら身体を密着させれば、カドックは顔を褪めさせて抵抗を見せた。
「やめろォ!頼むやめてくれ!」
「なに?まさか照れてるの?」
「本当にやめてくれ!デイビットやめさせろお前の女だろ!!」
「ちょっと、誰が誰の何だって?え?」
「うわああああごめんなさい!」
 唇を寄せる#name2#に絶叫するカドックを助ける為、ではなく#name2#が自分以外の男に迫っている場面が見るに堪えないという理由で彼女の肩を引き彼との距離を開けさせる。体制を崩した#name2#の身体は後方へ大きく傾きそのままデイビットの胸元へ背を預ける形を取らざるを得なかった。
 触れあう面を振り払うように腕を回して彼から離れた#name2#はつまらなそうな声を上げてデイビットを睨めつけた。
「カドックが嫌がっている。オレも嫌がっている。」
「貴方が嫌がっているのは知らないよ。」
「気色悪くて死ぬかと思った…。」
「酷い!あのレオナルドダヴィンチが美男と称したこの私にそんな事を!ていうかこの間私の穴」
 突如上がった濃い桃色の煙の中、#name2#は言い掛けた言葉を途切れさせてごほごほと咳き込む。其の声は低い男のものではなく、木立にであり晴れた煙の中からはサイズの合わない制服を纏い咳き込んだことによって涙が浮かんだ目尻を指の背で拭う、女の姿を取り戻した#name2#が姿を現した。
「…ちょっと早すぎるんじゃない?」
「何で残念そうな訳?」
「此れからデイビットと貴女を侍らせてバーラウンジへいこうと思ってたか、ら…あ。」
「?なによ。」
 立ったままの自身に対して目論見を暴露しながら或る場所に視線を落とした瞬間にスカイブルーの瞳を大きくして固まったペペロンチーノを訝しみ、彼の視線を辿って胸元に目を移せば、そこには大きく開いたジッパーに申し訳程度に隠れさた細やかな脹らみが顔を覗かせている。カドックは目を逸らし、ペペロンチーノは両目を手で覆い、余りの羞恥に思考を停止させていた#name2#が叫びを上げるよりも先に、デイビットが自身が着用していたコートで彼女を包み込み其れ以上彼女の肌が人目に触れる事は無かった。
「そんな格好をしているからだ。」
「お前がしたんだろ!」
「やだぁ!#name2#ちゃん本当に胸が無いわね!」
「良くないものを見た…。」
「は~?何なのあんた達…ていうかなんでペペロンチーノは私が貧乳だって前情報持ってんの。」
「デイビットが言ってたわ。慎ましいサイズだって。」
「事実だろう。」
「オフェリアに言い付けてやる!」
「デイビットが忠告を聞こうとしないからもう何も言わないって言ってたわよ。」
「そんな…。」
 浅く呼吸を吐き出してがなる#name2#の肩をデイビットが抱き込み艶やかな髪の上から耳殻に唇を押し当てるのを見て、此れから始まるであろう行為に溜め息を吐いて入り口を目指すかカドックとペペロンチーノに向かい彼女は手を伸ばして助けを求めた。
「何処行くのよ!」
「お邪魔でしょ?出て行くわ。」
「僕は何も見なかった。」
「男のおまえの身体は目に焼き付けた。今度はありのままのおまえを見せてくれ。」「脱がせないで、ちょっとほんとに見殺しにするの!?待って助けて、」
「ごゆっくり~…。」
 無情にも閉ざされたドアに尚も叫び続ける#name2#を再度ソファに押し倒し瞳を光らせるデイビットは宛ら獲物の喉笛に食らい付き仕留めんとす狼である。抵抗及ばず好きに弄くられた後の彼女の姿は、半刻後に談話室にやって来たキリシュタリア曰く、浜辺に打ち上げられた鯨のようだった。
※おわり
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おやつカルパスがうまい
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明智
デイビット君の夢なのに3500字越えてもデイビット君が出てこないのは非常にまずい
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明智
回線落ちてました。これどうにかならないのかな。
252:29
明智
昨日の通信障害は全国的なものだったみたいですね
552:47
明智
お風呂あがったので続き
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えふご夢かくよ13
初公開日: 2020年05月04日
最終更新日: 2020年05月05日
煙草吸いながらのろのろ書きます。デイビット君です。
えふご夢かくよ19
ビリー、デイビット、カーミラで一本ずつ「夏至」の話を書きます。(俺たちの夏至はこれからだ!)書き上が…
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前に漏らした、セベク君に「結婚したのか?俺(僕)以外のやつと…。」って言わせたいだけの夢です。今日中…
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連載している「Detectiv&Lady」の続きを書きます
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