「いやー、楽しかったなぁ! なあ! なあ!」
 帰りの車内で未だ冷めやらぬ興奮を抑えきれないように周りに話しかけているのは桐生院ヴァンだ。
「ああ……とても……良かった……」
 ヴァンと同じように興奮した面持ちで答えているのは皇綺羅だ。
「そうだな、エンジェルたちの前で歌うのとはまた違う感動があったな」
「来年もでたいなぁ」
「何言ってんだよ。出たいじゃなくてでるんだろ?」
 ハンドルを握っている鳳瑛一も、助手席に座っている鳳瑛二も、一番後ろの席に足を広げ座っている日向大和も先ほどまでの経験を思い返しては口々に感想を言い合う。
 今年最後のテレビ出演として、国民的音楽番組に初めて参加したHE★VENSはその感動を存分に噛み締めていた。自分たちのようなアイドルだけでなく、演歌や演奏家などさまざまなジャンル・年齢のアーティストたちと一同に会し男女でチーム分けをして歌いあう長寿番組はとてもいい刺激になった。
「いやー、ちみっこたちが大きくなって最後まで出るのが楽しみやなぁ」
 そうなのだ。年の変わり目ぎりぎりまで放送している番組だが、未成年もいるHE★VENSたちは早めにお暇させてもらったのだ。成人組だけ最後まで出るという案もあったのだが、その時々に最適なグループ編成も可能なHE★VENSではあるが、その年最後のテレビ出演は全員で行いたいというのが総意で、他の出演者よりも早めの帰宅をしているわけだ。
「お、見てな。おとちゃんとれいちゃんがスペシャルユニットで歌っとるらしいで」
 スマートフォンでSNSチェックをしていたヴァンが隣に座る綺羅にファンたちのつぶやきを見せながら話しかける。それを覗き込みながら自分たちが出演したときのパフォーマンスを今から練っていると、「う~ん」と寝起きの機嫌の悪さを少し感じる声を出したのは帝ナギだ。
「……なにをはなしてるの?」
 まだまどろみの中というようにうつらうつらとしながらも楽しそうな会話に入りたいという気持ちが見え隠れする。先ほどまで支えにしていた大和からは離れたがまだこくりこくりと船を漕いでいる。
「次あの番組に出た時の演出を話してるんだ」
「今から? まだ初詣もしてないのに? 鬼が笑うじゃん」
 隣の大和の答えに眠たいながらもツッコミを入れる姿はメンバー一のしっかり者というのがうかがえる。
「ほんとだな。みんなでこのまま初詣にでも行くか!」
「だが……初詣を……みんなで行くのは……難しい」
 イイ考えだ! と声を上げた瑛一に綺羅が待ったをかける。
「う~ん。確かにワイらが初詣に行ったら混乱しそうやな」
 ヴァンの言う通りだ。ただでさえ混雑している神社にHE★VENSが集合したら大変なことになるのは必須だ。けれども、年の初め行事を全員でしたい気持ちもある。
 うーんと頭を抱えているメンバーに瑛二から「だったらさ」と明るい声が響く。
「もう兄さん拝んじゃう? ご利益ありそうだし!」
「お! それやそれ!」
 本気とも冗談ともとれる瑛二の言葉にお調子者のヴァンが乗っかる。
 普段からその造形美とカリスマ性を振りまいている瑛一がファンから「神様扱い」されるのはしばしばだ。
「ほんなら、今年こそ応援してる野球チームが優勝しますよーに!」
「いいな。今年も肉がいっぱい食えるように頼むぜ」
 パンパンと合掌し唱え始めえ、ヴァンと大和の悪ふざけが始まった。
「ヴァンの……好き嫌いが……なくなります……ように……」
「おいおい、綺羅ちゃんそりゃないわ~」
「う~ん。今年もおいしい野菜やきれいな花が咲きますように」
 意外に冗談が好きな綺羅も乗っかるともう収集がつかない。真剣に拝んでいるメンバーに思わず瑛一も笑いが止まらない。
「はははっ! なんとも責任重大だな。ナギもなにかあるか?」
「えっと……キュートなナギの魅力がもっと色んな人に伝わりますように。――ねえ、シオンはある?」
 まだ頭が回っていないながらもしっかりと自分のキャラを守る姿は流石だ。そしてまだナギを枕にしているシオンをゆすり起こしている。
「……ん? ナギよ……どうしたのだ」
「いまみんなで瑛一神に初詣してるんだけど、何かお願いある?」
「願い……願いとな……」
 まだ瞼も開かないながらもナギの言葉にうんうんと唸り「ああ、そうだ……」と思い至った声を出す。
「今年もHE★VENSとエンジェルたちと素晴らしい音楽が奏でられますように……。天草の願いはそれに尽きる」
 そう零してまたナギを枕にして寝る体制に入る。
 シオンの願いに残されたメンバーはなんとも形容しがたい思いが去来する。
「シオン……その願いは必ず叶えてみせよう!」
 バックミラー越しにシオンを見て宣言する神様はハンドルを力強く握り直した。
おしまい
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