雨の日と轟君とみどりや(といいだくん)の話(予定) ナナシスはいいぞ(関係ない)
雨が降る。まだ梅雨が始まるには早すぎる季節。テレビの週間天気予報は、今日だけ雨が降ると言っていた。今日だけとはいえ、日課のランニングができないことを、少し残念に思う。まだ昼前だというのに、部屋の中でできそうなトレーニングメニューはすべてこなしてしまった。学校の課題も、午後から友人である緑谷と、飯田と麗日とやることになっているから、いま進めてしまうわけにもいかない。見るともなしにスマートフォンを眺めてはみたものの、あいにくゲームやSNSは得意ではなく。本でも読むか、と取り出してみたけれど、それもなんだか目が滑って、落ち着かない。
……雨が嫌いなわけでは、決してない。ただ何となく、落ち着かない気持ちになってしまうのはなぜだろう。寂しいだとか、悲しいだとか、そういうものでもない。きっと、普段は騒がしい周囲の音が、雨の音にかき消されてしまうから。ここに、一人だと強く感じてしまうから。
あまりの手持無沙汰に、部屋を出、共有スペースへ向かった。誰かしらいるだろう、と思っていたのだが、ここにも誰もいなかった。なるほど、静かさの原因でもあるのだろう。仕方なく自分のマグカップにコーヒーを淹れ、テレビを見たかったわけではないけれど、電源を入れた。昼間のテレビ番組というのは、どうしてこんなにつまらないのだろう。普段興味がないから、というのもあるのだろうけれど、やっぱり、あの騒がしさが、少し恋しい。正確に言うと、たぶん、緑谷や、飯田の存在がないから、ともいうだろう。興味がなくても、横でぶつぶつと考えている緑谷や、まじめに解説をくれる飯田の存在が自分の中でかなりのスペースを占めているのだろう。変わった、といえば、そうなのかもしれない。でもそれは、わからなかった。……あの、一年前の体育祭から、自分と向き合い始めたのだ。まだ、自分のことなんてわからないことだらけで、苦戦することのほうが多い。それでもそうやって、自分を探して生きていくことが正しいのだろう。俺は、俺しかいなくて、この力も、すべてひっくるめて俺なのだから。
マグカップの中のコーヒーが少し冷たくなって、テレビの番組もくだらないものからさらに興味のない番組に移り変わってしまった。昼までもまだ時間がある。どうするべきか、と悩んでいるところに、がちゃん、と音を立てて、玄関の扉が開いた。視線をそちらにやると、よく見知った顔が、頭からつま先までびっしょり濡れて立っていた。
「……緑谷、おまえ」
「あっ、轟くん」
「走ってたのか?」
「うん……なんか、落ち着かなくって」
普段もさもさとしている髪の毛は雨でぬれているし、Tシャツや、靴なんかも、ちょっとやそっとでは乾かない濡れ方をしている。
「タオル、取ってくる」
「え、いいよ!このままシャワー浴びに行くから」
「廊下とか濡れて後で掃除するの面倒だろ」
待ってろ、と俺が言うと、緑谷は少し笑って、ありがとう、といった。
「雨、降ってんだからカッパでも着ればよかったんじゃねえか」
「いや、持ってないし……傘もさせないし、っていうかちょっとすっきりしたかったんだよね」
タオルを差し出すと、ありがとう、と受け取る。濡れた服の上から水滴をぬぐっていきながら、緑谷は、話をつづけた。
「なんかさ、雨の日って、落ち着かなくなるんだよね……もちろん、雨が悪いわけじゃないし、好きなんだけど。本読んだりするのには静かで、うってつけだし、落ち着くことのほうが多いはずなんだけどさ」
「……わからなくはねえけど、だからってこの雨の中走るのはどうかと思うぞ」
「んん……おっしゃる通りです」
でも、君がここにいてくれて助かった、と緑谷が言った。ごしごしと髪の毛を拭きながら、タオルの隙間から俺の言葉を待っている、ように見えた。
「……俺も、今日、なんか落ち着かなかった」
「え、そうなの?めずらしいや、きみ、普段から落ち着いてるからさ」
「そんなことは……無いと思うぞ。わりと」
見た目ほど、きっといつも俺の心の中は落ち着いていない。今だって、少しだけざわざわと、先ほどよりますます落ち着きのなくなった心臓に、心の中で首をかしげているところだ。
「雨だし、外出れないし、まさかお前が走ってるとか思わねえし、落ち着かなさ過ぎて、テレビとか見てみたんだが」
「えっ、なに、オールマイト特番でも再放送してた?」
「いや、ぜんぜん興味無い番組で、ほぼ見てねえ」
「なにそれ!君、ほんと時々、突飛だなあ」
「そうか?」
「そうだと思う。少なくとも僕はね。でも、それが君のいいところの一つでもあるだろ」
「そうかもしれねえ。まだ、自分のこと、勉強中だから、よくわかんねえけど」
「僕もまだ勉強中だから、いっしょだ」
だから、僕の知らない僕がいたら教えて、と、緑谷が言う。それにもちろんだ、と返すと、タオルを頭から降ろして、緑谷がよろしくね、という。
はっくしょん、とひとつくしゃみをして、緑谷が少し寒そうにする。風呂に行く、と言っていたし、大丈夫だろうが、何となく、左手を、彼の濡れた頭の上に乗せる。少しだけ個性を使って、温風を起こす。
「わ」
「早く、風呂、いったほうがいいぞ、今日、冷える」
「うん、ありがとう……それにしても君、個性また調整うまくなったんだね」
「……使うこと、多くなったから」
お前のおかげで。そう言って、少し乾いた髪の毛から、手を離す。俺の言葉に緑谷は、目を見開いて、「そんなかっこいいセリフ、君じゃなきゃ言えないね」と笑った。
窓の外は、まだ雨が降り続いている。緑谷と話をして、少しだけ、落ち着いた気がした心は、彼がいなくなってから、また少しだけ、ざわざわと落ち着かなくなった。どうしてだ、なんて、思う間もなく、壁にかかった時計が、昼を告げる。きっと、今からまた騒がしくなる。いつものように。落ち着かない心は、落ち着いているほうが絶対いい。けれど、いつも通り騒がしくなって、この心のざわつきがなくなるのは、なんだかすこし、さみしい気がした。
(珈琲と、レイニー・デイ)
BGM さよなら雨の日と轟君とみどりや(といいだくん)の話(予定) ナナシスはいいぞ(関係ない)
雨が降る。まだ梅雨が始まるには早すぎる季節。テレビの週間天気予報は、今日だけ雨が降ると言っていた。今日だけとはいえ、日課のランニングができないことを、少し残念に思う。まだ昼前だというのに、部屋の中でできそうなトレーニングメニューはすべてこなしてしまった。学校の課題も、午後から友人である緑谷と、飯田と麗日とやることになっているから、いま進めてしまうわけにもいかない。見るともなしにスマートフォンを眺めてはみたものの、あいにくゲームやSNSは得意ではなく。本でも読むか、と取り出してみたけれど、それもなんだか目が滑って、落ち着かない。
……雨が嫌いなわけでは、決してない。ただ何となく、落ち着かない気持ちになってしまうのはなぜだろう。寂しいだとか、悲しいだとか、そういうものでもない。きっと、普段は騒がしい周囲の音が、雨の音にかき消されてしまうから。ここに、一人だと強く感じてしまうから。
あまりの手持無沙汰に、部屋を出、共有スペースへ向かった。誰かしらいるだろう、と思っていたのだが、ここにも誰もいなかった。なるほど、静かさの原因でもあるのだろう。仕方なく自分のマグカップにコーヒーを淹れ、テレビを見たかったわけではないけれど、電源を入れた。昼間のテレビ番組というのは、どうしてこんなにつまらないのだろう。普段興味がないから、というのもあるのだろうけれど、やっぱり、あの騒がしさが、少し恋しい。正確に言うと、たぶん、緑谷や、飯田の存在がないから、ともいうだろう。興味がなくても、横でぶつぶつと考えている緑谷や、まじめに解説をくれる飯田の存在が自分の中でかなりのスペースを占めているのだろう。変わった、といえば、そうなのかもしれない。でもそれは、わからなかった。……あの、一年前の体育祭から、自分と向き合い始めたのだ。まだ、自分のことなんてわからないことだらけで、苦戦することのほうが多い。それでもそうやって、自分を探して生きていくことが正しいのだろう。俺は、俺しかいなくて、この力も、すべてひっくるめて俺なのだから。
マグカップの中のコーヒーが少し冷たくなって、テレビの番組もくだらないものからさらに興味のない番組に移り変わってしまった。昼までもまだ時間がある。どうするべきか、と悩んでいるところに、がちゃん、と音を立てて、玄関の扉が開いた。視線をそちらにやると、よく見知った顔が、頭からつま先までびっしょり濡れて立っていた。
「……緑谷、おまえ」
「あっ、轟くん」
「走ってたのか?」
「うん……なんか、落ち着かなくって」
普段もさもさとしている髪の毛は雨でぬれているし、Tシャツや、靴なんかも、ちょっとやそっとでは乾かない濡れ方をしている。
「タオル、取ってくる」
「え、いいよ!このままシャワー浴びに行くから」
「廊下とか濡れて後で掃除するの面倒だろ」
待ってろ、と俺が言うと、緑谷は少し笑って、ありがとう、といった。
「雨、降ってんだからカッパでも着ればよかったんじゃねえか」
「いや、持ってないし……傘もさせないし、っていうかちょっとすっきりしたかったんだよね」
タオルを差し出すと、ありがとう、と受け取る。濡れた服の上から水滴をぬぐっていきながら、緑谷は、話をつづけた。
「なんかさ、雨の日って、落ち着かなくなるんだよね……もちろん、雨が悪いわけじゃないし、好きなんだけど。本読んだりするのには静かで、うってつけだし、落ち着くことのほうが多いはずなんだけどさ」
「……わからなくはねえけど、だからってこの雨の中走るのはどうかと思うぞ」
「んん……おっしゃる通りです」
でも、君がここにいてくれて助かった、と緑谷が言った。ごしごしと髪の毛を拭きながら、タオルの隙間から俺の言葉を待っている、ように見えた。
「……俺も、今日、なんか落ち着かなかった」
「え、そうなの?めずらしいや、きみ、普段から落ち着いてるからさ」
「そんなことは……無いと思うぞ。わりと」
見た目ほど、きっといつも俺の心の中は落ち着いていない。今だって、少しだけざわざわと、先ほどよりますます落ち着きのなくなった心臓に、心の中で首をかしげているところだ。
「雨だし、外出れないし、まさかお前が走ってるとか思わねえし、落ち着かなさ過ぎて、テレビとか見てみたんだが」
「えっ、なに、オールマイト特番でも再放送してた?」
「いや、ぜんぜん興味無い番組で、ほぼ見てねえ」
「なにそれ!君、ほんと時々、突飛だなあ」
「そうか?」
「そうだと思う。少なくとも僕はね。でも、それが君のいいところの一つでもあるだろ」
「そうかもしれねえ。まだ、自分のこと、勉強中だから、よくわかんねえけど」
「僕もまだ勉強中だから、いっしょだ」
だから、僕の知らない僕がいたら教えて、と、緑谷が言う。それにもちろんだ、と返すと、タオルを頭から降ろして、緑谷がよろしくね、という。
はっくしょん、とひとつくしゃみをして、緑谷が少し寒そうにする。風呂に行く、と言っていたし、大丈夫だろうが、何となく、左手を、彼の濡れた頭の上に乗せる。少しだけ個性を使って、温風を起こす。
「わ」
「早く、風呂、いったほうがいいぞ、今日、冷える」
「うん、ありがとう……それにしても君、個性また調整うまくなったんだね」
「……使うこと、多くなったから」
お前のおかげで。そう言って、少し乾いた髪の毛から、手を離す。俺の言葉に緑谷は、目を見開いて、「そんなかっこいいセリフ、君じゃなきゃ言えないね」と笑った。
窓の外は、まだ雨が降り続いている。緑谷と話をして、少しだけ、落ち着いた気がした心は、彼がいなくなってから、また少しだけ、ざわざわと落ち着かなくなった。どうしてだ、なんて、思う間もなく、壁にかかった時計が、昼を告げる。きっと、今からまた騒がしくなる。いつものように。落ち着かない心は、落ち着いているほうが絶対いい。けれど、いつも通り騒がしくなって、この心のざわつきがなくなるのは、なんだかすこし、さみしい気がした。
(珈琲と、レイニー・デイ)
BGM さよならレイニーレイディ/SiSH
プリンスのアルバム
雨降ってたので書きました。夕方上がったけど。ありがとうございました!なんだこれ!