14番 お隣さんと音成くん 白藤色
硝子/目を閉じる/それでも、僕は
藤棚がこの時期綺麗に紫に染まっているらしい。そう聞いた音成は身を乗り出してガイドブックを指さす。そんな彼を見ているのは黄色の髪の穏やかそうな着物の青年。
彼は一見普通の青年に見えるが、この方なん十年も生きてきた古い銀杏の木の精霊であり、業をその身に宿した木霊である。世間の動きに疎い彼は音成の持っている雑誌を見て楽しそうに微笑んでいる。
「藤棚かぁ」
「黄金井さんは、銀杏の木の精霊なんですよね。だとしたら藤の精霊も見たことがあるんですか?」
そう言われて黄金井と呼ばれたその木霊はふむ、と考える。いつも一緒にいるはずの狗神としての呪いを持った人の子、橘は浅鞍と一緒に駆り出されてどこかに出かけている。そんな珍しい日の中での会話。まだ土曜日の午前の、穏やかな時間。
さて問われたは藤の精霊。その雑誌を見るに、藤の開花時期は4月から5月、まさに今が見ごろ。それに比べて自分はどうか。9月から11月にかけて色が染まっていくのだから、確実に季節外れ。花とかそういうものをつける身ではないから自分は常に存在できるが、藤の精となると開花時期にしか存在出来ないかもしれない。正直に言うと、これまで同族(?)と会ってきたことがないので答えようがない。これは正直に告げた方がいいだろう。
「おれは見たことないから、わからないなぁ」
「そうなんですか。じゃあもしかしたら行ってみたら見れるかもしれないですね!」
「見に、かぁ……」
「ええ。三人ともいつ空いてますかね」
三人。そう言われて、黄金井はなんとなくいたずら心というか、いつもとは違うことをしたいなという、好奇心にも近いことを思いついていた。
「ねぇ音成くん、おれと一緒に行かない?」
「え?もちろん。仲間はずれには」
「違う違う。おれと、音成くん。二人で行くの。どう?」
「えっ!?それっていいんですか?」
「それ言うなら、浅鞍だってしょっちゅう一人でどこかに行ってるじゃないか。たまにはいいだろう?もし今から行くならちょうどハブってことにもならないし」