腕を伸ばして剣先を向ければ鷹条に届く、その距離で木村は急に剣の持ち方を変える。彼は利き手側で腰の横に構えていた剣を耳の横まで持ち上げ、それと同時に、剣身に近い側で順手にしていた右手を滑らせ逆手で柄頭側を掴んだ。
*ここまで昨日執筆ぶん*
 それは、斬撃ではなく刺突のみに特化した形だ。鷹条の豪風の中で剣を使うには、あるいはそれは最適な形であるかもしれない。木邨は勢いをつけて鷹条へ肉薄し、その切っ先を鷹条のイヤーカフめがけて突き出した。
 光の剣身が二つ並んだ雪花を貫き、ぴしりとヒビを入れて破砕する。
「く……」
 舌打ちをした鷹条の背後で青い巨鷹が霧散する。しかし鷹条の瞳はいまだ闘志を失わず、接近した木邨の体を蹴りつけて遠ざけ、壊れたイヤーカフを左耳から乱暴に剥ぎ取った。
 『幸福こそ幸運の守護者』、その剣身の本質は光だ。鋼でもなければ炎でもなく、ゆえに鷹条の肉体を損傷させることはない。それでも、鑑定士のペンライト、その光は、木邨の願いであり心の具現たる輝石に、他の輝石を制圧する力を与えられていた。
 ただ、こと鷹条に関しては、元々の輝石がイヤーカフという小さな品物だったことが、幸でもあり不幸でもあった。小さな石だったからこそ鷹条本人への負荷は少ないとして木邨は破砕という手段に出たが、本人への負荷が少なかったからこそ、――鷹条には次の手を打つ余裕があった。
 剥ぎ取ったイヤーカフを掴んだ鷹条の拳、その肌の上にいくつもの青い雪花が結晶化して鋭く風を巻き起こす。
 イヤーカフを砕かれてなお、鷹条は次の輝石を具現化させて叫んだ。
「舐めるな、『能ある鷹は爪を隠す』!!」
「全力に決まってるだろ、『幸福こそ幸運の守護者』!」
 薄い石の雪花が隙間なく張りつき、烈風をまとう拳を振り上げる鷹条へ叫び返し、木邨は再び剣を持ち替えて今度は両手で逆手に持った。鷹条の拳はこの際無視して、その打撃を喰らってでも一点の刺突を狙うつもりで剣先に集中する。
 案の定、木邨の視界が大きくがくんと揺れて、次いでやってきた殴打の衝撃に木邨はかすかに呻く。それでも『守護者』の剣身は、柄に繋がる根元まで深く鷹条の胸を貫いていた。
 信元の顎を蹴り上げようとした渡部の爪先に、がん、と硬い感触が届く。ああ、そこにも盾があるのかと納得して諦めた渡部はそのまま足を引こうとして、しかしそれが叶わずに眉を寄せる。
*一旦休憩*
 渡部が視線を落とした先の信元は手のひらに顕現させた緑の盾で彼の爪先を受け止め、そして渡部を睨み上げて手の中の盾を握り締め粉砕した。それからすぐに渡部の足首を掴んだ信元は、雄叫びとともに渡部の身体を投げ飛ばす。
 渡部は、今こたか広場にいる四人のうちでこそ最も優男然としているが、それでも成人男性としてけして貧相な体格をしているわけではない。元々鍛えられていた信元の膂力と輝石の力添えあってのことか、と渡部は空中で納得して、その四肢に灰桜の爆炎をまとわせて着地に備える。
 だん、と音を立てて四足で広場のタイルに着地した渡部は、そのまま四肢をたわませてから両手でタイルを突き放して後方へ跳ねた。タン、タッタッと連続してとんぼを切り、そのたびに渡部の目の前を信元の拳がかすめる。渡部は一瞬だけ灰桜の爆炎を大きく燃え上がらせて信元の視界を奪い、その隙にざっと大きく踏み込んで信元の懐で拳を腰まで引き溜めた。
 そして放たれたその拳が、信元の高い頬に埋まる。
 渡部の拳の先へ、びしりと何かにヒビが入る感触が伝わる。渡部は感情の見えない目で自分の拳の先から信元の双眸へ視線を移し、それから足元を見た。
 信元の両足の下のタイルはひび割れて陥没し、信元の靴にはその破片がまとわりついている。
 渡部は嘆息交じりに言った。
「……よっぽど硬い石だね、それ。『鬼神の呪い』を受け切るのか」
 再び渡部が持ち上げた視線の先、信元の頬では、肌に薄く張りついた緑の石がひび割れてパラパラと下に落ちていた。信元は小さく、自分の石はそういう奇跡だからな、と呟く。ふうん、とだけ生返事をして拳を解いた渡部は、間を置く様子もなくすぐに両足へ灰桜の火をつけると軽く跳ねた調子から即座に高く蹴りを繰り出した。
 跳ねの勢いをつけて放たれた蹴り足の甲を信元は顔まで掲げた腕で止め、その腕を横薙ぎにして渡部の足を振り払うと同時にもう片方の手を渡部の胸倉へ伸ばす。渡部は伸ばされる信元の腕、その手首と肘の間を叩き落とすように掌底で打ちながら靴底でタイルを蹴った。
 一瞬、渡部の体躯が信元の前腕を支点に持ち上がる。
 しかし次の瞬間には信元は横向きに蹴り飛ばされて自身の張った広場出入口を塞ぐ盾に叩きつけられていた。信元の腕を支点に跳ね上げられた渡部の足先はそのまま信元のこめかみを狙い、そして命中したのだ。
「ぐっ……」
 わずかに呻いた信元は顔をしかめながらもゆっくり立ち上がった。身体強化型らしい『鬼神の呪い』、加えて信元もよく知る牙前の『拳ヲ握レ』。生半可な相手ではないと思って、さらにゆっくり、一つ呼吸をする。それから、信元は胸元に下がる輝石を指先でなぞった。
 小さく薄い石板の形をした二枚の輝石、その片方をそっと手の中に収めて感触を確かめてから、信元は再び顔を上げた。
 たとえば泰河の奇跡が、ATTACHとPURGEで姿を変えるように。信元の奇跡もまた、二つの形を持っている。二つめの発現には条件があるが、それも満たされた。
 信元はその場でじっと重心を下げ、右手と右足を前に出して身構えた。その構えの中に渡部が力任せで飛び込んでくるのを、見極める。
 信元がふっと短く息を吐いた直後、ダァン、と大きな音が広場に響いた。
 渡部は再び背中から広場のタイルへ叩きつけられ、しかし今度は両肩の布地ではなく額当ての角を掴まれたために細いそれへ無理な力がかかって折れる。
「――――――!!」
 ばきりという無機質な音とともに灰桜の炎も消えて、額当てを構成していた結晶もほろほろと花びらが剥がれるように崩れる。残った髪留めが渡部の額を滑って、広場のタイルにからんと落ちた。
「…………」
 黙ってじっと背中の痛みに耐えながら、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返す渡部は、やがて片腕を持ち上げて前腕で目元を覆った。――その喉が、どうにか震える。
「……じゃあ、どうすれば、あの子は自分の家に帰れるんだ……」
 信玄は少しだけ渡部から目を逸らし、折れた角の崩れた花びらが指の間から落ちていくのを眺めてから、やっと答えた。
「さあ、な。……自分たちで良ければ、一緒に考えよう」
*本日おしまい!*
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泣かないカエル2
初公開日: 2020年04月30日
最終更新日: 2020年05月02日
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昨日の続きです 長くなるので分けました
D
DA-190 自警団編
自警団編の続き承前→https://notes.underxheaven.com/preview/e…
浅瀬屋
泣かないカエル3
終盤です 平和に全員集合する
浅瀬屋
彼女の翼を捥ぐ話 第三十二話
堕天した天使とそれに付き添われている主人公のお話の三十一話目を書きます。
ひさぎ
現パロchi夢バデ山とキス部屋(完!)
全てを変える───。(もしよかったら、チャット欄で話しかけてみてね!)
ぱな